第30話 聖虎の狙い
聖虎はわざと弟子を連れてきた、とシンは言う。
「やはりお気づきでしたか」
「えー?どういうこと?」
「キュキュ?」
『あの聖虎様の弟子は、弟子の中でも優秀ということでした。そして自分は主人どのよりも強いと言ってましたでしょう?』
「傲慢だったのよね」
そう言ったネロに第9秘書は困った顔をした。
「確かに、あの子は他の弟子より成長が早く、今まで負けなしです。それが聖虎様は心配だったようです。このままでいると、誰も手を貸したくなくなると。あの子の成長も止まります。どうしようかと思っていたところ、シン様の話が聞こえてきたということです」
『他の聖獣様に一目置かれている主人どのに、聖虎様は会わせてみようとなされたのですね』
そして自分より背も小さく、ひ弱そうに見えるシンと手合わせをさせる。結果はボロボロだ。
「ネロさんは私たちの意図を理解してくださってましたよね。ありがとうございます」
「ネロはわかってたの?」
「キュ?」
「私だけじゃなく、クルクルもなんとなく」
『私は主人どのの闘う姿を見たかったので』
ふっ、とシンは笑い
「それにしても、あの子のプライドは折れてしまいましたか」
「それはもうへし折ったんじゃない?」
「そうですね、数日は大人しくなるでしょう。自分はまだまだ弱いと気付けばいいですが」
エウポリアとシンバンはシンは強いと思っていたが、あんなに一方的だとは思わなかったようで、ずっとシンのそばにいる。シンバンはシンの手をギュッと握っている。
「ギュウー」
「かみさま、シンバンがすごいって言ってるよ」
「そうかな。まだまだだと思うよ。ワタシより秘書さんの方が強いんじゃない?」
「え?」
「キュ?」
「そんなそんな。私はただ足が速いだけです。私より他にもっと強い方がいますよ」
「例えば?」
「例えばこの聖域と縁の深い聖竜様の第5秘書とか」
『あの方は何でもこなしそうですよね』
「聖狼様の第11秘書とか」
「せいろう?」
「狼のことだよ、エウポリア」
と、ネロが教える。
「まだ会ったことがないね。名前からして強そうな聖獣様だな」
「あとは…私達のトップの第1秘書ですね。今は聖鯨様の秘書をしてます」
「あれ?トップだから創造神の秘書じゃないの?」
シンはふと疑問に思った。秘書はうーんと唸って
「あの方は第5秘書以上にオールマイティでして。しかし体を動かす方が本人は好きみたいで、聖鯨様のそばにいます。創造神様には第3秘書がついています。」
「たしか…なんかおじいちゃんみたいな人だったような…」
「エウポリア、知ってるの?」
「聖牛さまとお出かけしたときに、みかけたきがする」
「運が良いですね。あの方は私達も非常時以外お会いできないので。見かけたらラッキーですよ」
「そんな縁起物みたいに」
「あ、でもうちの聖蛇さまも、見かけたらツイてるって言われてた」
「聖蛇さまも?へぇー」
姿が白とか金の生き物は縁起が良いような気がするもんな、とシンは前世を思い出しながら頷いた。
「秘書もいろんな方がいますからね。そのうち全員に会えるのでは?」
「そうですかね。ちなみに、今までの神様で全員に会われた方っているんですか?」
「私の記憶では、実際に眷属を預ける形で聖獣様や秘書全員に会った方はいらっしゃいませんね。何年かに一度、大規模な集いで見ることはあったかもしれません」
だとすると、自分は規格外なのでは?と今更ながらシンは思った。聖虎様で六柱目だ。一、ニ柱でも充分なのに。
「シン様は特に創造神様と聖竜様が目をかけていらっしゃいますから。…あ、そろそろ聖虎様の元へ戻らないと。シン様、今回はありがとうございました」
と、秘書はドアを出現させ、帰っていった。今回も騒がしかったなと、ひと息ついたとき、シンの足をチョンチョンとシンバンがつつく。
「シンバン、どうした?」
シンバンが指差す方へ目を向けると、今までゆっくり回っていた星が、グルングルン回転数を増しはじめた。
「え、ちょっと早くなった?」
『主人どの、星が大きくなるスピードも早いような…』
「神様、これは正常なの?」
「分からない。一応離れて様子を見るか。創造神にも連絡…取れる?クルクル」
『お待ちください。うーむ、ただいま留守番電話になってます』
「なにそれ!もー!」
「とりあえず、用件を入れといて。嫌な予感はしないから多分大丈夫と思うけど、星との間に障壁を作っておこう。あちら側が見えるように覗き穴も付けよう」
一応、防護策は施しておいて、様子を見ることにした。
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