第28話 シンvs弟子
クルクル、エウポリア、ネロの3人が提案した試合。どういうことか聞いてみる。
『この提案をしたのはネロです』
と、クルクルが話し出す。
『主人どのとあの弟子、どっちが強いか試合をして、勝ったほうの言うことを聞くのです』
「そんなの、オレの方に決まってんじゃん。試合をする暇なんてないぞ」
シンバンとの追いかけっこを終わらせた弟子が、シンバンと帰ってきた。そして当たり前のことをいうなと言う。
「でも、あなた、神様のこと知らないでしょ?見た目だけで判断しないでほしい」
ネロはズバッと弟子に言葉の刃を浴びせる。
「かみさま、つよいんだよー」
「キュッ!」
『主人どのに負けは似合いません』
と、他の3人も応戦する。
『ん?君たち、シンの眷属になって日が浅いだろう?なんでシンが強いって分かるんだ?』
「んー、なんとなく?」
「キュー」
『主人どのは魔法の才もさることながら、格闘の才もありまして、それはそれは踊るかの如く、まるで蝶のように舞い、蜂のように刺す…』
「クルクル、それは言い過ぎ。そして踊ってもないぞ。どっかで聞いたようなセリフ、どこで覚えた?」
ワタシは時々、クルクルも前の星から転生してきたのではないかと思うくらい、前世の言い回しを使ってくる。
『よく分からないが、シンが強いのなら、我が弟子と試合もよかろう。お前はどうだ?』
弟子は師匠がそう言うのなら、と渋々承諾する。ワタシは弟子がしたくないのなら別にやらなくても、と思ったが、4人プラス聖虎が期待の目でこっちを見る。やれやれ仕方ないか。
「では、審判はわたくしが務めましょう」
第9秘書が手を上げて、步を進める。そして指先から黒い光を出し、それを長方形に描いて真ん中に二本の短い線を引く。
それを地面に置いて張り付かせる。するとその長方形は何倍にも広がり、前世の柔道や空手で見た試合場の線になった。
「この枠から出たり、または背中が付いたら負け、急所を狙うのも負けです。試合ですのでね。あとは…」
秘書は聖虎の方を見て
『そうだな…2人とも武器は無いとしても、魔法も自分自身にかける以外は使用禁止。あとは好きにしなさい』
「では、そのようにお願いします」
こちらへ、と秘書は2人を真ん中に促した。
「かみさまー、がんばれー!」
「キュキュキュー!」
『主人どの!ギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてください!』
「なんか、クルクルだけ熱量が違くない?」
ネロが呆れた声で言う。
『我が弟子よ、力を出し惜しむなよ。お前の今の力量、見せてみよ』
ネロの横に座って聖虎は弟子に声をかける。弟子は一応師匠に頷く。しかしシンに全力をかける気は無いようだ。それがあとで失敗だったと気付いた時にはもう遅い。それを聖虎は暗にアドバイスしたが、伝わってはいないようだ。
『ふうむ。教えるのは難しいなぁ』
「そうですね、天才って厄介」
隣にいたネロは、聖虎の思いを見透かしたように相づちを打つ。
『君って聡いねぇ』
「そうですかね?」
ネロは適当に返事して、シンの顔を見る。
『じゃあ、2人とも頑張って』
「すぐに勝って帰るよ、師匠」
「…」
シンは何も言わず、ただ真ん中まで歩く。
「中央の線まで来て向かい合ってください。準備は良いですか?では、始め!」
先手必勝とばかりに、弟子は踏み出しシンに拳を向ける。シンはあっさりそれを避ける。尚も弟子は顔や腹を攻撃するが、するりとシンはかわして、一向に当たる気配がない。弟子が拳を繰り出すスピードは遅くはない。なんで避けられているのか、弟子にはさっぱりだ。
「全然当たらないけど…調子悪いの?」
と、シンは弟子を挑発する。カチンときた弟子は手刀でシンの喉を狙う。するとシンは一瞬でしゃがみ、右足で弟子の足をパンッ!と払った。弟子は受け身を取れず、尻もちをつく。
「パンチばっかりで、足元がお留守だったよ」
「ちなみに、シン様の喉を狙ったので、急所攻撃禁止により、弟子の負けです」
「あっ」
と、弟子は早々と負けてしまった。
「えー!もうおわっちゃったの?」
「キュー?」
『もうちょっと見たかったですけどね』
「口ほどにもなかった」
外野は不満気だ。弟子は顔を真っ赤にしている。あらら、と聖虎は呟く。シンはどうするのかな、と弟子を見ている。
「…っかいだ…」
「はい?」
「もう一回だ。こんなの負けじゃねぇ」
と、弟子は訴える。呆れた秘書は聖虎に目を向ける。
「すぐ勝って帰るっていってたのに、えらい負け惜しみよね。急所も狙ったくせに」
聖虎の隣でネロが弟子に向かって口撃する。それを聞いた聖虎は顔を両手で覆い、笑いを堪えている。
「うるさいうるさい!もう一回と言ったらもう一回だ!次は容赦しねぇ!」
どうしますか?とシンに秘書は話す。
「別にいいですよ、もう一回やっても」
本気出してくれるんだよね?と弟子に言う。完全に血が上った弟子は、開始の合図も聞かず、シンの顔をめがけて拳を突き出す。
パァン!と派手な音を立ててシンの顔に当たる。
「そうそう、始めから全力でって聖虎様も言ってたよね」
拳が当たったはずのシンは、淡々と言いニヤリと笑った。
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