第27話 拒否られた神

 シンの星は順調に成長し、シンの背丈よりも大きくなっていた。それでもまだまだ時間がかかる。

 エウポリアとシンバンの特訓は順調に進んでいる。クルクルがエウポリアに空中に絵を描いて教えているし、ネロはシンバンに励まされながら魔力の感覚を覚えていく。


 ある日シンバンが嬉しそうに自分のそばに寄ってきた。


「ん?どうした、シンバン」


 するとシンバンはギュッと自分の手を握ってパッと開いた。その小さな手の中には何やら小さな欠片がある。


「あれ?これってもしかして、魔力の塊?」


 と、シンバンに目を向けると、シンバンは頭をぶんぶんと縦に振った。そのシンバンの横にネロが追いついてきて


「シンバンの意思でちょっとだけど、具現化できたよ。結構体力も消耗するから、今はこれだけ」

「キュー!」


 シンバンは褒めて!とワタシの手に頭を押しつけてくる。


「そうだな、シンバン。凄いぞ!頑張ったな!」

「キュッキュッ!」


 頭は殻で隠れているため、殻を撫で回す。シンバンは嬉しそうだ。


『ほうほう、なるほど。そういう褒め方もあるのか』


 と、ワタシの後ろから声がかかった。急いで後ろを振り返ると、長身で白く長い髪をひとつに束ねた、笑顔の眩しい男性がいた。


「ひぇっ。ど、どちら様で…?」


すると、男性の後ろから


「なんでオレを置いていくんだよー!」


 と、褐色の肌で髪は金髪の少年が男性と同じダボっとした服装で駆けてきた。またその後ろには、スーツを着た初老の女性が付いてくる。ということは秘書かな。


『私の足に追いつかないと、及第点はあげられないぞ』

「師匠は速すぎるんだよぅ!」

『私より足の速いものはいくらでも居る。そこの第9秘書だって速いぞ』

「知ってるよ。おばあちゃん、この間追いかけっこしてシュッ!って消えたもん」

「秘書は何ごとにもスピードが命なので。あら、これは失礼いたしましたね、シン様」


 突然現れて話し始めた3人に、どうやって入ったらいいか分からず、なすがままになっていた。それに気付いた秘書がワタシに向き、


「こちらは虎の聖獣、聖虎様でございます。そして、その弟子と第9秘書のわたくし。失礼ながらお邪魔させていただきます」


 と、深くお辞儀をした。弟子も倣ってお辞儀をする。聖虎はニコニコと笑ったままだ。


『君のことは他の聖獣や秘書から聞いているよ。なかなか面白い神様のようだね。…見たところ、まだ武術系の眷属が居ないようだが』


 聖虎はキョロキョロと見回し、またワタシを見た。


「えぇ、そんなに急いではいないので。でも居てくれたら、今創っている星の聖獣にする予定なのでありがたいですが」


 と、聖虎に話す。ふむ、と聖虎は弟子を見て


『なら、この弟子を君の眷属に進呈しよう』

「へ?」

「えー!!」


 ワタシと弟子は同時に声を上げた。それを聞きつけたクルクルとエウポリアが寄ってきた。


『主人どの!どうしましたか』

「かみさま、なにかあったの?」


 心配してきた2人に


「いや、聖虎様がワタシに眷属を…」

「オレは嫌だぜ!」


 弟子が遮ってきた。


「この間、師匠から修行を許可されたばかりなのに、もう離れなきゃいけないのか?それに、この神様、オレより小さいじゃないか。ひ弱そうだし。絶対嫌だ」


 弟子は頬を膨らませてプンプン怒っている。それを見てシンバンが指で頬をつつく。すると弟子がガァー!と口を開けて、シンバンを追い回す。シンバンはキャッキャッ!と飛び回る。


 ワタシはその2人を見ながら


「ワタシのことは別にいいのですよ。選ばれなくても、あの子の選択が重要です。…この聖域にいる間は眷属同士、仲良くがモットーなので。あの2人は意外と仲良くなりそうですね」

『しかしな、一応は欲しいだろ、武術系の眷属。あいつはまだ修行して間もないが、私が教える武術の半分はすでにマスターしている。幾人もいる弟子の中でも天才だよ。惜しいと思わないかい?』


 聖虎は腕を組んでワタシを見る。


『それにだよ、君の眷属、なかなかに興味深いね。聖竜の仔、聖牛の娘、聖蛇の娘、そこの杖まで秘めたる力を持っているね。君と契約したからかな、どう思う?第9秘書』


と、話をふられた秘書は、少し考えて


「確かにシン様と関わることで何かしらの恵みを受けられているのは分かります。あの子の成長にも影響するでしょう。しかしあの子はシン様の眷属にはなりたくない。シン様も無理にはしたくない。聖虎様はあの子の為に眷属になってもらいたい。なかなか難しい判断ですね」


 そんな話を聞いていたクルクル、エウポリア、ネロはこそこそと何か話し合っている。


「はいはーい!」


 と、エウポリアは元気よく手を上げた。


『はい、エウポリア、どうぞ』


 クルクルが発言を許可する。


「かみさまと、あのこ。しあいをすればいいとおもいます!」

「試合?」

『ほほぅ』

「何か案があるのですね?」


 思いがけない提案に、聖虎も秘書も乗り気だ。ワタシはどうしようかと困ってしまった。試合なんて久しぶりだから。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る