第25話 ネロの指導

 新しい眷属のネロが来たおかげで、エウポリアとシンバンの能力の訓練が行われている。ネロは魔力の流れを読むのが得意らしく、2人にいろいろ指導しているらしい。

 シンバンは種をいろんなところから無意識に出していた。それを手から出すのは、まだ生まれてから日が浅いシンバンには難しい。とりあえず始めはお腹からだ。魔力を集めるためにお腹に集中する。


「聖竜様は簡単に空中に出してたけど、それは魔力をコントロールできる聖竜様だから、できるんだよ。シンバン、両手をお腹に触れて集中!」

「キュッ!」


 ネロの言葉にシンバンは小さい手をお腹に当てる。

 エウポリアはというと、空間魔法は魔法の中でも難しい部類らしい。火、水、土、風など実態があったり感じられるものはイメージしやすい。ただ、空間魔法は素質も関係あるらしく、聖牛の聖域でも数人しか使えない。ましてや、聖牛のように鮮度を保ったまま保管できるのは更に難しいようだ。


「だったら、聖牛さまに来てもらったらどうだろう?」

「聖牛さまに教えてもらうってこと?」

「難しいかな?」


 そう話すワタシに対して、ネロはうーんとうなり、


「来てもらうのはいいとしても…前に私がいた聖蛇さまの聖域に、聖牛さまが遊びに来てくれたことがあって、空間魔法を見せてもらったんだけど」

「うんうん」

「聖蛇さまがちょっと教えてほしいと言ったら、これをこうして、グイッとやってズボッと手を入れるのよ!って」

「あぁー。感覚型の人か。それは説明しにくいよな」

「でしょう?聖蛇さまもそれきり教えてくれなんて言わなかった」


 2人が悩んでいると、コホン!と横から声がした。


『お2人とも、悩んでおられるようですね』


 クルクルがズズィ!とワタシたちの間に入ってきた。うほん!と咳払いすると


『私にお任せください。一応万能と言われている棒ですよ。エウポリアに教えることも可能です』

「でもクルクル、どうやって説明するんだ。口が無いけど、なぜか喋れるのは凄いことだが、イメージが難しい魔法だぞ。まだ幼いエウポリアに理解できるのか?」


 少しツッコミを入れつつ、クルクルに問題を話す。


『私が棒なのを、主人どのはもうお忘れですか?頭でイメージしにくいなら、絵にすれば良いのです。地面は…土じゃないので書けませんが、空中に書けば良いでしょう』


 と、クルクルは浮いて空中に光の線を横に1本書いてみる。

 ワタシたちがいる一部の地面は少し弾力があり、転んでも怪我をしにくい地面にしてある。そして、真っ白い世界にいつまでも自分たちが宙ぶらりんのままでは、もし星に何かあった場合、避難して隔離できるところがない。


 エウポリアに教えるのは少し後にして、クルクルと考えた結果、自分たちの居住スペースを設けることにした。範囲はこれからも増えるであろう眷属のために広めにとってみる。真っ白な世界と区別するため、地面には芝生みたいな短い草を生やした。

 カタカナのコの字型にし、開いている側に星が見えるようにし、何かあれば即座に壁を作ればいい。星が出来上がったあとも壁で塞げば、ワタシの聖域として独立できる。ワタシの魔力で作った空間だから、ワタシの好きなようにできる。


 そこまで考えて、ワタシがエウポリアに教えれば良いのでは?とふと思ったが、ワタシも割と感覚で作っていたし、せっかくクルクルがやる気になっているのだから、任せよう。


 エウポリアたちはいきなり生えた草にビックリして魔法の練習を中断し、ごろごろと寝転んだ。うつ伏せになっているネロが


「ねぇ、神さま」

「なんだい?」

「この空間って神さまが創ったんだよね?」

「そうだよ」

「聖牛さまとは違う感じの魔法。しかも空気もある。どうやったの?」

「え?ただ地面があって、柔らかい草が生えてて、空気があれば良いなぁとイメージしただけで…」

「え、意味わかんないけど。そんなパパッと普通はできないよ」


 と、ネロは呆れた感じだ。


「魔力も大き過ぎるんだよね。聖竜様も言ってたけど、最初は魔力をコントロールできなかったとか。なのにもう規格外なことができるって」

『そこが主人どのの凄いところです!』


 クルクルが話の間に入ってきた。


『主人どのは毎日毎日、星に魔力を少しずつ流していました。最初は数分しか保ちませんでしたが、今は多分3日くらい流してても大丈夫でしょう。もちろん一気に使うと倒れます』

「体が慣れてきたのかもしれないけど、魔力の底か見えないのが怖い。気をつけて使ってよ」

「分かった。気をつける」


 ついこの先日、眷属になった子に心配されるなんて。限界まで使うことは無いが、あまり規格外なものは控えておこう。

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