第23話 シンバンと種
『その子の顔はまぁ置いといて、だ。シンのところは何も変わったことは無いのだな?』
「まぁ、そうですね…」
と考えていたところ、シンバンがワタシの脇腹を突いた。
「どうした?シンバン」
「キュッ!」
シンバンが自分のカバンを指差した。あぁ!と思い出して
「そういえば、シンバンから聖竜様に見てもらいたいものがあって…」
と、シンバンに自分で渡しなさい、と促した。言われたシンバンはもじもじしたが、意を決してカバンに手を突っ込んで、手のひらいっぱいに例の殻を聖竜に差し出した。いや、もうそんなにカバンに入ってたのか…
差し出された聖竜は、んん?と首を傾げた。
「エウポリアが言うには、中身は何も入ってないようで、ただの殻とか」
『ほほぅ。それで何故我に見せようと思ったのだ?』
「キュー!キュキュッ!」
『ふむ。自分の体から出た、と。どこからかは分からない。ふむ』
シンバンの言葉に聖竜は相槌を打つ。聖竜は考えたのち、ピカッと光って体がどんどん縮小されていく。第5秘書より頭ひとつくらいの高さのサイズになった。それを見た秘書が
「小さくなれるのですから、最初からそのサイズで来たら良かったでしょうに」
『なかなか難しいのだぞ、このサイズは。元の方が楽なのだ。さて、シンバンよ、我の近くに』
シンバンは聖竜の近くに行って止まった。聖竜はシンバンの手から殻をひとつ取り
『シンバンよ、そなたは面白いなぁ。普通は中身から作るはずだが』
「キュ?」
「聖竜様、シンバンに何か?」
聖竜はニヤッと笑って
『まずはシンバンだが、珍しい体の色をしている。薄緑色とはな。我とシンの魔力を注いだからか。成長すればもっと濃く綺麗になるはずだ。緑ということは、森林や植物を司る竜になる。さすればこれは、種、だな』
「種ですか」
「キュッ」
『面白いことに外側だけ最初に作っておる。何をヒントにしたか分からぬが、無意識に作っておるからの。中身のことは考えておらぬか』
「キュー?」
『中身?とな。どんなものを生み出そうとしているのか、思いついてはおらぬのか』
『キュキュ』
何も考えていない、とシンバンは言う。ふむ、と聖竜が頷くと
『とりあえず、中身はあとで考えるとして、種を生み出す練習をせねばな。そなたの体から出てるわけだが、1つに集中した方が良い。あちこちから出たら、拾うのも大変だろう?』
「でも、ひろうのたのしいよ」
「キュキュー」
『そうか?それならばよいが、今から魔力の訓練をしておけば、将来はもっと複雑なものも生み出せるかもしれぬぞ。だからほれ、今はそなたの手のひらから種が出てくるように練習をするのだ』
と、聖竜はシンバンの手のひらを爪でトントン叩いた。
『それが出来たら、次はこうするのだ』
聖竜は手のひらを上に向けると、光の玉を出した。
「キュキュ!」
「わぁー!すごい!」
『ひとつずつやるのだ。まずは手のひらで種を出す。これが出来るように練習するのだ。よいな?』
「キュッ!」
シンバンは力強く頷いた。そしてエウポリアと一緒に早速練習しているようだ。
小さな蛇も一緒に見ている。
『どんなものかを生み出す前に、まず練習させる。中身がなくて良かったかもしれぬな。それにしてもシンよ』
「なんですか?」
『シンバンの頭の殻は、あのままでよいのか?』
「かたくなに取りたがらないので。時期が来れば自分から取るでしょう」
『もしかしたら聖竜との繋がりを感じているのでは?被っていると安心するのですわ』
聖蛇がにっこりと笑う。聖竜が、そうかと頷く。そして聖蛇は自分の眷属が
エウポリアとシンバンと仲良くしているのを見て、シンに眷属を託すことを決めたようだ。
『仲の良い子たちと一緒なら、わたくしも安心ですわ』
そういうので、それならばと小さな蛇を眷属にすることに決めた。
「エウポリア、シンバン、こっちにおいで」
「なにー?」
「キュー?」
「その小さな蛇もワタシの眷属にしようと思うんだけど、どうかな」
「えっ!いいの?」
「キュウ?」
「君はどうかな?」
と、小さな蛇に問う。蛇は聖蛇の方を見て、エウポリアの頬をスリスリし、シンバンの殻を舌でチロリと舐めた。
『良いようですわね』
聖蛇は満足して、その小さな蛇の頭を撫でた。
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