第21話 心配させるな

 第5秘書のスーツから出てきた小さな蛇は、聖蛇が近くに来ると、ぴょんと飛んで掴まり自身の尾で聖蛇の顔をパーン!と叩く。


『激しいな』

「それは眷属達を心配させたのですから、それくらいは」


 何度かバシバシ叩いてると、


『んぁ?』

 

 と、聖蛇の口が開いた。


『おい、聖蛇よ、いい加減起きろ』

『ぬ?その声は聖竜?なぜわたくしのそばに?』

『自分が危険な目に遭っていたというのに、豪胆だな』

『ん?危険?どういうことです?』


 起きたばかりで頭がハッキリしてない聖蛇に、聖竜は最初から話した。


『ふうむ。黒い渦に飲み込まれそうだった、と。あと、わたくしの祠に空間の裂け目が…それはおかしいですわね』

「おかしいとは?」


 秘書が聖蛇に問いかける。


『わたくしの祠は何重にも結界が張ってありますの。眠りを邪魔されないようにね。もちろん眷属が起こしに来たら分かるけれど。それが外からじゃなく中からだなんて。そんなことできる者、要るかしら?』

『そなたの結界を通り抜け、しかも空間に裂け目を作る…我ら以上の力がないと到底無理だろう』

『もしくは、そういう術に特化した者ですわね。面倒くさいことになっちゃったわ』


 聖蛇があくびをしていると、小さな蛇はまた尾で、聖蛇の顔を叩いた。


『いたた!なに?』

『この小さき蛇のおかげで、そたなを探せたのだ。礼を言わねばな』

『そうだったの。心配かけたわね…いやだ、泣かなくてもいいじゃないの。いた!いたた!』


 主は分かってない!とでも言いたげに、小さな蛇は叩く。

 聖竜はため息をついて


『創造神に報告せねばな。聖蛇を保護したのと、空間の亀裂のことを』

「そうですね。あと、いいのですか?」

『なにが?』

「シン様のところに預けた卵、もうとっくに孵ってますよ」

『あー、そうだ。忘れてた。忙しくて行けてなかったな』

『どちらに行かれるの?』


 2人の話の間に聖蛇が入ってきた。もう小さな蛇に叩かれてはいない。


「この間、E89番目の星の神様になられた方に、聖竜様が卵を託されまして、孵ったので訪問しようかと」

『へ?聖竜が卵を?珍しいですわね』


 ふーん、と聖蛇は考えて


『わたくしも行きます。聖竜が卵を託すほどの神ですもの。良き神ならわたくしも眷属を託しちゃう』


 ふんふん♪と聖蛇は上機嫌になった。さっきまで黒い渦に巻き込まれそうになった聖獣とは思えない。それを見た聖竜は


『しょうがあるまい。創造神にはそなたから報告を…』

「もうしました」

『相変わらず早いな…』


 秘書は創造神に直通で詳細を送ったらしい。どうやったのかは分からないが。


「あと聖蛇さま、第6秘書にも伝えましたが」

『あら、そういえばあの子、ここにいませんわね』

『今頃気づいたのか…あやつはそなたの眷属達が総出で探しに行くのを、必死で止めおったぞ。あやつも探したかっただろうに』


 文字通り、体を張って止めていた第6秘書が、聖竜と第5秘書に懇願していた姿を思い出した。小さい体で意外とパワフルだ。


「あの人は圧が強いですからね。さっき話した時も、涙を流して何言ってるか分からなかったですから」

『あぁ、あの子はすぐ感情が顔に、態度にでますの。それでもわたくしの秘書が務まっているのだから、能力は高いのよね』


 ほほほ、と聖蛇は笑う。


『とりあえず、シンのところへ向かうか』





「で、そのままワタシのところに?」

『ま、そうだな』


 突然ドアが現れ、聖竜と第5秘書が入ってきた。聖竜を初めて見たエウポリアとシンバンは


「おっきいー!」

「キュー!!」


 と、びっくりした様子だ。そして聖竜の後ろからは、長い黒髪に切長の目、上半身は女性で着物を着ているが、下半身は蛇の形で聖蛇は現れた。


『聖蛇さま、ようこそいらっしゃいました』


 と、クルクルが迎える。突然迫ってきた棒に聖蛇は反射的に自身の尾でクルクルを叩いた。クルクルはその場でベシャリと倒れた。


 聖牛といい、聖蛇といい、クルクルは女性の聖獣には積極的だな…とワタシは思った。

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