第18話 序列
思考が圏外に行っている聖猫をよそに、聖鼠はワタシに詰め寄った。
『しかし、わしの方がネコより先に入ったじゃろ?わしの勝ちじゃ』
そうニヤッと笑い勝ち誇っている聖鼠の後ろから鋭い爪がサッと掠め、聖鼠をつまんだ爪の下に、大きく口を開けた聖猫が
『もう1番とか2番とか馬鹿らしい。最初からこうしとけば良かった。なぁ、ネズミ』
そう言って舌なめずりをした。聖鼠はバタバタ体を動かしながら抵抗する。
『お、おい!わしを喰ったら大変なことになるぞ!序列が崩れる!』
『序列?そんなもの関係ないな。お前が1位なわけないだろ』
ネズミとネコがバタバタしている横で、ワタシは第7秘書に
「ちなみに1位って誰なんですか?」
と尋ねた。秘書は両腕にエウポリアとシンバンをぶら下げながら
「そうですね…1位は聖竜様でしょうか。この世界で森羅万象を司っていますから」
頭を巡らせて応えた。
「聖獣を統べるのが聖竜様というだけであって、その実は序列なんてないんですよ。それぞれが唯一無二なんですから」
両腕をブンブン振ってエウポリアとシンバンを楽しませている。
「でもまぁ、聖鼠様が食べられると、その次の聖鼠様が選ばれるだけなんで…そろそろ世代交代しときますかね」
『なに!冗談じゃない!』
聖鼠は秘書の言葉に更にジタバタした。そろそろ聖猫の口の中に入りそうだ。
秘書は溜め息をついて、2人を腕から下ろすと、凄いスピードであっという間に聖猫の手から聖鼠を奪った。
「そろそろ仕事をしませんと。シン様、聖獣様達の眷属の話は聞いてますよね」
「そうですね」
「どうされますか?」
ちょっと悩んだあと
「要らない…かな」
『『えーーー!』」
2人の聖獣の声が響く。せっかく来たのに要らないとはなんだという顔で睨めつけてくる。
「いやだって、2人が顔を合わせれば絶対喧嘩するでしょ。しかもその眷属たちも同じじゃないですか、上が仲悪いんじゃ」
『それでもどっちも要らないとは…』
訳を聞いて2人は焦っている。それじゃ引き分けになるじゃないかとボソボソ言い合う。
「というか、何で勝負事にしてるんですか。決めるのはこっちです」
憤慨な様子でワタシは2人に話す。そこへ秘書が
「派遣、という手もあります」
派遣?そんなのがあるのか?
「必要な時に派遣してもらうんです。そしてもし契約してもよくなったら、改めて契約するんです。この御二方の場合、それが多いですね」
「あぁ、よく問題を起こすからですね」
「そうです」
「じゃあ、派遣で」
「分かりました」
と、秘書はお辞儀をする。そしてパンパン!と手を叩き、
「さぁ!お二人とも、帰りますよ!」
『なにぃ!まだネズミを喰ってねぇぞ!』
『勝手に派遣と決めるな!』
「シン様、お二人の眷属が必要なときは
私にご連絡ください」
そして聖猫のしっぽを掴み、聖鼠をもう片方の手に持って、ズルズルと扉に向かう。聖猫は爪を床に立てて必死で抵抗するが、秘書の力が強いのが止まる気配がない。聖鼠はぐったりしている。実は聖獣より秘書の方が強いのでは?
去っていく3人の背中にエウポリアとシンバンは手を振っていた。正確には秘書に、だ。遊んでもらって親しくなったのだろう。そしてワタシの横にずっと立っていたクルクルは
棒になりきっていた。
『騒がしいのは構わないんですが、あの聖獣様達にはあまり良い思い出がありません…』
珍しく言葉少なめなクルクルは、そのあとワタシの近くを離れずじっとしていた。余程のことがあったのだろう。そっとしておくしかない。しかし、ただの棒にあの聖獣達は何をしたのだろうか。振り回されたり、削られたり…考えて話してもクルクルは答えてくれなさそうだ。
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