第13話 赤い実とシンバン

 聖竜の眷属、シンバンが生まれて少し経ったころ、今ではエウポリアとシンバンが仲良く遊ぶ姿が日常だ。あいかわらず、頭の殻は被ったまま、まだ顔は見れていない。見ようとするとエウポリアの後ろに隠れるので、無理に見るのはやめにした。

 しかし、予想以上に早く生まれたため、聖竜が気付いて突撃してくるかと思ったが、未だ音沙汰がない。

 一応報告のため、聖竜と一緒に来ていた第5秘書に、クルクルから連絡してもらった。


『スピーカー機能もついてます』


 と、クルクルが言うのでONにしてもらうと、生真面目な声が響いてきた。


「お生まれになったのですね、おめでとうございます。…はぁ、なるほど。ただいま聖竜様は各地を飛び回っておりまして、こちらも連絡がつきにくい状況です。まぁ、履歴が私ばかりなので、呼び出し音を切っているのではないかと」


 第5秘書のメガネがキラッと光る様子が想像できた。


「心配されなくても、聖竜様も何かしら気付いていらっしゃるはずです。シン様と繋がっていますので。あ、誰かが転倒しましたね…また君ですか、第13秘書くん。書類を踏まないでください!…失礼いたしました。シン様、何かあればこちらからもご連絡致します」


 それでは、と言って通信は切れた。第13秘書は踏んだ書類の書き直しかな。

 聖竜も忙しいみたいだ。新参者の近況はまた今度聞いてもらうことにしよう。


 その間も星は順調に育っている。たまに魔力を注ぐだけで、勝手に成長している。

 そうなると、クルクルが暇そうだ。クルクルは通信後、何をしているのか見てみると、何やらボソボソ独り言を言っているようだ。


「クルクルさんよ、何してるの」

『はいっ!主人どの…いえ、何も?』

「手とか足とか欲しいのか?」

『えっ!いえ、私は主人どのの棒ですから。

棒が手や足があってはなりません』

「棒じゃなくて、杖でいいんじゃ…」

『私は棒ということに誇りを持ってますから!』


 と、クルクルは胸じゃなく、棒を反らせた。それならいいんだけど。

 手足は無くてもちゃんと直立で立っているんだから、普通の棒よりは凄いと思う。他の神の棒はどうなのか知らないが。


「かみさまー」

「どうした、エウポリア」

「シンバンが、おなかすいたって」

「キュゥー」


 グゥゥと元気な音が響いた。ワタシたちはあまり気にしなかったが、シンバンは生まれたばかりだ。何が食べれるか。


「歯は生えてるな」

「ギュル」

「果物とか食べれるかな」

「キュル?」


 果物って何?という顔をするので、1番身近な赤い実を思い浮かべて、ポンッと出してみた。ワタシは椅子に座り、シンバンはワタシの膝の上にごそごそと座った。


「ちょっと齧ってみな」

「ギュル」


 卵の殻を少し持ち上げて、シンバンはガブリと赤い実を食べてみた。自分が食べた記憶では少し酸っぱい感じがしたから、甘い実にしてみた。


「キュルーー!」


 お気に召したのか、凄い勢いで食べる。消化の具合が分からないから、今日はとりあえず1個だけ。


「いいなー、シンバン。わたしもたべてみたい」


 とエウポリアが言うので、もうひとつ出してエウポリアにあげた。両手で持ってシャクッと齧る。


「おいしいー」

「キュルー」


 2人とも気に入ったようだ。そしてその横で、私にも歯があったら、と嘆くクルクルがいた。

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