第12話 頭隠してしっぽ隠さず

 聖牛と第13秘書が帰ったあと、エウポリアは何をしていたかというと、特にやることはなかった。

 洗濯をしようにも、自分たちの服は自動的に綺麗になる。床もいつもピカピカなので、掃除も必要ない。しょうがないので聖竜の卵を見てもらっている。

 聖牛から貰ったミルクで元気になったとはいえ、適度に仕事をしろ、と言われたワタシ。今日はこのまま休むことにした。


「それにしても、この白い粒つぶ、全部今の核の周りに集めるのは結構難しいぞ」

『そうですよね。さて、どうしましょうか』


 え?クルクルでも分からないのかよ。クルクルはエウポリアと一緒に、竜の卵に耳?を当てている。


『実は放っといてもいいんです。そろそろ磁力が生まれてくるはずなんで、近いところの粒から徐々に引き寄せられて、核に集まっていきます。粒もビミョーーーに磁力があるので、核が回りながら段々取り込んで大きくなっていくはずです』


 へぇ。それならワタシたちがいちいち手を加えなくても、星を形作っていくわけか。


『それでも、星が出来上がったあとの生物や植物も、主人どのが創らないといけませんけどね』

「やることいっぱいだな。あらためて」

『私ももちろん手伝います!』


 まだ星が完成するかどうかも分からないのに、その後の生物とかにはまだ気が回らない。一から考えるのは本当に大変なことだ。

 うーむと唸っていると


「かみさまー」


 エウポリアがワタシに話しかける。んー?と返事をした。


「なんか、はえてきました」


 はえてきた?ん?生えた?


「たまごのうしろ、ほらっ」


 こっち側は卵の正面で見えないので、エウポリアが卵をくるりと回すと、卵から何か生えている。それは薄緑色の小さなしっぽのようだ。小さく左右に揺れている。生えているのではなく、中から殻を壊したようだ。周りに破片が散らばっている。しかし普通、頭の方から殻を破らないか?


『恥ずかしがり屋なんですかね?』


 ワタシの心の声を聞いたかのようにクルクルが話す。


『まるで私みたいじゃないですか』


 そう言うクルクルに、ワタシとエウポリアは微妙な顔をした。


「かみさま、こっちこっち」


 エウポリアが手招きする。


「かみさまが、めのまえにいないと」


 一応卵の近くにいないと、自分が主人だと分からないかも、というエウポリアの主張。

 とりあえず、椅子を出して卵の目の前に座る。エウポリアとクルクルは卵のカゴの左右にいる。

 卵は殻を破るためにグラグラ揺れている。バリバリ破れて、卵が全部割れ…とはいかず頭の部分だけ殻を被っている状態になった。


「うまれたー」

『生まれましたね』

「顔を頑なに見せないな…」


 生まれても、両の手で顔を隠している。ジッと仔竜を見て


「名前をつけたいのに、顔を隠してると思いつかないなー」


 ぼそっと言ってみる。


『そうですね、お顔を見たら良い名前がつくかも』

「りゅうだから、かっこいいのがいいなぁ」

「聖竜様みたいに、威厳がありそうだよな」

『なかなか珍しい体の色ですよね』

「おててのつめも、するどくてつよそう!」


 それぞれ好きなことを言う。仔竜は自分について言う3人を見てそわそわしだした。頭の殻を持ち上げそうになったが、やはり恥ずかしいのが勝つのか、殻を取ってくれそうにない。


「うーん、まだまだ見せてくれないか」


 そしてワタシは座っている仔竜を抱っこして膝の上に乗せた。


「とりあえず名前はつけよう。…なぁクルクル、聖竜様は何の聖獣だっけ」

『聖竜様はたしか、森羅万象をつかさどる聖獣です』

「しんらばんしょう…?」


 エウポリアが難しいという顔で仔竜を見る。仔竜はワタシに抱っこされてビックリしたのか、じっとしてしている。


「自然とか宇宙とかに干渉してるんだろうな。うーん…」


 仔竜を高い高いみたいにしてワタシは


「よし、シンバンにしよう」


 仔竜にシンバンと名付けた。そしてシンバンがピカッと光ったあと、シンバンの背中にある小さな羽根がパタパタ動いた。


『シンバン…森羅万象の略じゃないですよね?』


 一瞬ギクッとしたが、


「いいや、森羅万象の別の言葉だ。…クルクルは結構鋭いな」


 ワタシが抱っこしていたシンバンを降ろすと、エウポリアが寄ってきてシンバンの小さな手を握った。


「シンバンー、あそぼう」

「キュルー」


 シンバンの顔は見えないが、遊び相手がいるから退屈しなさそうだな。


『私も手があれば、あの子たちと手を繋げるのに…』


 元は棒のクルクルが羨ましそうに2人を見ていた。


 


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