第11話 エウポリア

 意外とすぐクルクルに慣れたのか、少女はハンカチを貰い、目に押し当てた。鼻をズビズビ鳴らしながら。


『ついていきたい、ということは、神様の元で働くのよって言ったら、頷いたから。本人もそのつもりなのね』


 聖牛は少女の頭を優しく撫でた。


『もう、泣き止むのよ。そしてご挨拶なさい。この人があなたの神様になるのよ』


 聖牛が背中を押すと、少女はハンカチを握りしめながら


「こ、こんにちは…えと、その…」


 少女はワタシを見上げながら、しどろもどろに話す。


「頑張ってください、ファイトー」


 横で第13秘書が応援する。君もどっこいどっこいだけどな、とワタシは思った。


「わ、わたし、かみさまのおてつだいが、したい、です!」


 言い終わった少女は、ふーっと息をついた。よしよしと聖牛は頭を撫でる。


「ワタシの手伝いがしたいと。そうだな。…この子は、さっきの聖牛さまのようにミルクは出せるんですか?」


 あのミルクはまた飲みたい。


『何言ってるの、出せるわけないじゃない。まだ子どもなのよ。それにあのミルクはわたしが世話をしている牧場の乳牛から貰ってるのよ。何を勘違いしてるの』


 と、聖牛は爆笑した。確かにわたしも牛って言ったけど、とケラケラ笑う。いっぱい喰わされた。ワタシは顔を赤くする。


『ごめん、言い方が悪かったわ。乳牛から貰ったミルクを空間から取り出せるって意味ね。それを魔力でちょっと加工して、さっき飲んでもらったミルクにするわけ』


 クルクルがまたハンカチを取り出し、今度はワタシの顔を拭く。


「ふがっ。そ、それで?」

『わたしは豊穣の神だから、いくらでも取り出せるわ。でも、この子はまだ魔力も足りないし、空間魔法も使えない。でも、これからは分からないわ』


 あなたへの貢献次第ね、と聖牛は言う。


『で、どうするの?早く決めなさい』

「が、がんばりますぅ」


 少女はジッとワタシを見る。断ったらまた泣かせてしまうし、聖牛の平手打ちが待ち構えているかもしれない。それに、秘書が書類をくしゃくしゃにしながら、ワタシを見ている。そんなに見るなよ。


「分かりました。君を使役しよう。名前を考えないとな」


 そう応えると、少女は聖牛の手をぎゅっと握って、秘書はくしゃくしゃの書類をぶち撒けた。そして慌てて拾い、聖牛に叱られた。


「そうだな、この星の豊穣の神になるんだから、それにちなんだ名前…先代の星の豊穣の言葉で、エウポリアはどうかな」


 すると、エウポリアは光に包まれ、そして光は消えた。縁が繋がったな。


『よかったわねぇ、エウポリア。これからはこの神様によくしてもらうのよ』


 と言い、聖牛はカランと金色のベルを鳴らした。すると、エウポリアのベルのネックレスが首から外れて、エウポリアの手の中に落ちた。


『今まではわたしの眷属だったけど、主人が代わったからね。そのベルは返してもらって、新しく作ってもらいなさい』


と、聖牛は手を差し出したけど、エウポリアはいやいやと首を振って返さない。


『聖牛さまに貰ったベルがお気に入りなんでしょう』


 クルクルがエウポリアの気持ちを代弁した。よく分かるなぁ。


「せいぎゅうさま…」


じっとエウポリアに見つめられた聖牛は、


『そのベルはなんの階級もないただのベルなのに。そんな目をされたら、仕方ないわね。その代わり、またわたしがここに訪れたときは、あなたの成長を見せてちょうだいよ』


 そう言われたエウポリアはニッコリと笑い、頷いた。

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