第10話 牛乳と少女
聖牛が小躍りしている横で、第13秘書は、ちょっと失礼しますと言って、ワタシのおでこを触った。
「あの、シン様。もしかしてお疲れでは…?」
そういえば、また魔力を出しすぎたのかもしれない。そう思ったとき、クルクルが勢いよく近づき
『主人どの!?大丈夫ですか?あれ!顔が赤い!いやー!』
クルクルの圧が強くて手で押し返した。それでもグイグイくる。それを側で見ていた聖牛が
『まだ魔力の扱いが雑ね。こればっかりは実践が大事だけど、そんなに焦らなくても大丈夫よ。それに、ここまで核が大きくなるまでには、本当はもっと長くかかるはずなんだけどね』
ワタシを見、核を覗いていた聖牛は
『雑だけど、質が良いのかしらね。…っと、よっこいしょ!』
空間に手を伸ばした聖牛は、銀色のポットを引き出した。そしてコップを出すとそれに注がれたのは白い液体だ。
『それ、飲んでみなさい。魔力と体調が回復するはずよ』
ワタシは差し出されたコップを持って嗅いでみた。なんか嗅いだことがあるような。ぐいっと飲んでみると
「牛乳だ…」
それは今まで飲んだことのない、濃厚な口当たり。飲み物だけど、つい噛んでしまうような、でもすっと胃に届く。コップ一杯でなんだか満たされた感じになる。
『めちゃくちゃ濃いでしょ?ワタシは牛だから、ミルクが出せるのよね。どこから?それは言えるわけないでしょ。とにかく、魔力も体も回復したかしらね』
そういえば疲れていた体もだるさが消えたし、魔力も回復したかも。
「聖牛さまのミルクは、創造神様も良く飲まれます。特にお風呂に入ったあとの冷たいのが良いと」
あー、分かる気がする。風呂も作れたらいいのに。
「ありがとうございます。疲れがとれました」
ワタシがお礼を言うと聖牛は
『無理はしないことね。そこの杖も、張りきらないように』
杖と言われたらクルクルは、善処します、とだけ答えた。
「聖牛さま、あの…」
『なによ』
「待ちくたびれて泣きそうな顔をされてます、後ろ…」
ん?と聖牛が振り向くと、扉の外からこちらを覗いている小さな少女が、まさに泣きそうな顔で訴えていた。
しまった、と聖牛が急いで手招きすると、その少女はトタタタと走って来て、聖牛の後ろに隠れた。
ちろりとワタシを見上げているその子は、クリーム色の髪に、首には小さいベルをつけたネックレスをしていた。同じくクリーム色のワンピースを着ている。
「せいぎゅうさま、おそいですぅ」
聖牛の服の裾をぎゅっと握ったその子は目に涙を溜めていた。
『ごめんごめん。ちょっと話が長くなったかなぁ…あはは』
そう言った聖牛に少女はむすっと膨れた。
『この子なんだけどね、わたしがあなたの星に行く時に、ついていきたいって言って一緒に来ちゃったのよ。わたしの用は、この子をあなたの元に置かせてほしいって話ね」
紹介された少女は、涙を拭うためにクルクルがハンカチを差し出して、驚いた拍子についにボロボロ泣き始めた。
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