第5話 シンという名前

 聖竜から貰った卵は、ワタシの魔力と聖竜の魔力のおかげで成長が早いようだ。色もうっすらと緑がかっている。


『ふうむ。成長が著しいな。もう色が着いた』

 

 聖竜は腕を組み、唸っている。


『創造神が気にかけるだけあるな。これだとひと月も経たぬうちに孵るぞ』

「色が着くのが目安ですか」


 ワタシはロッキングチェアに座りながら質問した。まだ全快にはほど遠い。


『そうだな。普通だと半年くらいかかるが、そなたの注ぎすぎた魔力と、我の魔力で早まったのだ。ま、早く孵ってくれるとそなたの助けにはなるな』


 そうなってくれねば困る、と聖竜は話す。自分もそう思った。


『我が最初で良かったわ。他の聖獣たちだったら、そなたの魔力を奪うだけ奪って、あとは知らん!になりかねん』

「え、ワタシの魔力を奪われるんですか?」


 ワタシはひえっ!と身震いした。そんなに他の聖獣は薄情なのか。


「神様を脅かさないでいただきたい。それぞれ良識ある方々ですから。それに、私達の方でも初回はしっかり面接してます。あなた方聖獣様とのパイプになる使役獣をお渡しするのですから、神様に不利益を犯す方は聖獣様であっても容赦はしません」


 第5秘書はきっぱりと言った。もちろん神様も同様です、とも。


『分かった分かった。そなた達は束になると厄介だからな。…で、そなた、名前はあるのか?Eなんちゃらの神様なんて、長いから覚えられぬ』


 E89番目の神様、と言われたが自分もしっくり来ない。しかし、そんなに長いとは思わないが。


「ご自分で付けられてもよろしいのですよ。神様の中には、ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ…なんて付けた方もいますし。どういう意味なんでしょうね?」

『なんだ、それは』


 万能の秘書でも意味は知らないのか。ワタシも縁起の良い名前としか知らないが。


「神様、カミサマ、シン…あ、シンで良いです」


元々名付けが下手な自分は、簡単な名前で良い。


『そなたがいいなら、そう呼ばせてもらう。シンよ、他に何かあれば我でよければ答えるぞ』


 聖竜は小腹が空いたのか、ちゃぶ台とお茶を出して、座って煎餅を取り出し食べ出した。この世界の上位の神はちゃぶ台とお茶が好きらしい。

 ワタシは少し考えて


「他の聖獣様はどんな方がいるのですか」

『ふむ、そなたが思いつく獣はだいたいいるぞ。犬や猫はメジャーだし、大猪や鹿もいる。四本足の獣が主だな。あと海の生物もいるな。我は聖鯨せいげい、クジラと気が合う。図体がでかいからな』


 カッカッカと聖竜は笑う。体が大きいもの同士、思うことも一緒なのかもしれない。


「あと、ワタシをE89番目の神様と言われましたが、どういう意味でしょうか」


 ワタシが疑問を口にすると、聖竜と秘書は目を合わせた。バリンッと煎餅を食べながら考えたのち、


『秘書よ、防音防壁、気配察知の魔法はかけた。話せる範囲で話すがよい。創造神もそなたが適任とな』

「まったく、都合の悪いことは私に任せるのですから。…シン様、これはあなた様には話さなくても良いことなのですが、本当に知りたいですか?」


 秘書は真剣な目をして、私に問いかけた。うん、と頷くと、秘書は前髪を撫でつけ


「ではお話いたします。Eというのはこの星にたくさんあった言語の中のひとつで、この星の名前の頭文字です。そして、89という数字ですが、この星は89回生まれ変わった、ということです」


ん?ということは?


「そうです。88人の代理人が就任しては、88人全員、星と共に消滅されたのです」


 さらっと秘書はワタシに説明した。どんな気持ちで応えたらいいんだ…

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