第4話 聖竜の訪れ
目と目が合い、お互いビクッとした。
いやいや、ドアいっぱいに目があるとびっくりするって。目がドアから離れて見えなくなると、次は大きな一本の爪がドアを壊そうとしていた。
「無理に壊そうとしないでください。少々お待ちを」
そう秘書は言うと、パチン!と指を鳴らし、ドアが10メートル以上大きくなった。
そしてドアがギィッと開き、のしのしと、そこから入ってきたのは、白く美しい竜であった。
『すまんな。壊そうとはしてないのだ』
「分かっております。E89番目の神様、こちらは聖竜様でございます」
ワタシは聖竜を見上げ、ほーっと口を開けて見ていた。それを見ていた聖竜は
『そなた、竜を見るのは初めてか』
と、クックックと笑った。
「ワタシが知っている竜とは姿形が違いますので。…ワタシがこの星を管理している者です」
『ほう、別の姿か。それは興味深いな。…ふむ』
「聖竜様、本日の訪問の件、お話しなされないと」
横から秘書が急かす。
『おぉ、そうだった。突然だがそなた、竜、欲しくないか?』
本当に突然だった。欲しいといえば、欲しいがなぜ?
『見たところ、まだそなたには使役しているものがいない。独りでは寂しくないか』
「えー、まぁ、ぶつぶつと独り言を言うくらいなので、相づちの相手は欲しいですが」
『ふふん、そうであろう?ではこちらを、そなたにやろう』
と、空中に現れたのは、両腕で抱えられるくらいの大きな卵だった。なんの模様もない真っ白な卵。自分の目の前に浮いていたので、抱えてみた。ずっしりと重い。
「白い卵ですね。聖竜様と同じ竜になるんですか?」
『と、思うであろう?それはな、魔力を与えたものによって色も種別も変わるのだ。
試しにちょっと魔力を込めてみてくれ』
聖竜はワタシに早くしろ、と急かす。しかし
「えーっと、どうしたらいいんですかね?」
『は?そなた、魔力の使い方が分からないのか?』
聖竜はびっくりしてワタシを見た。すると
「あちらで神様の棒が回っているのは、どうやったのですか?」
と、秘書が助け舟を出した。棒が勝手にクルクル回っている。
「自分でかき回すと疲れるから、棒にかき混ぜろと念じたけど…」
「それですね。念じてるときに何か感じませんでしたか?」
「そういえば…体から何か出るような感じがした」
『魔力の使い方を教えてもらってないのか。第5秘書よ、どういうことだ』
聖竜は秘書に顔を向けた。秘書は眼鏡に垂れた髪をかき上げ
「神様はこちらに来られる途中、ハプニングがございまして。その影響で創造神様の元で勉強なされていた記憶などを失ってしまったようです」
秘書の答えを聞いた聖竜は、片眉を上げた。眉毛はないが。
『ハプニングとは…?』
「神様がこの世界の代理人に選ばれたときに、横槍が入りまして…もちろんその横槍はこちらで捕らえております」
『そうでなくては困るが。ま、分からずとも無意識に魔力を使っていたわけか』
ふうん、と聖竜は感心した。記憶は失っても体は覚えているもの、と話す。
『では、同じように魔力を入れてみてくれい』
ワタシは聖竜に促され、卵に魔力というか、念じてみた。むむむ、と卵に意識を集中。すると、ズオッ!と持っていかれる感じがした。
『いかん!』
聖竜はすぐに卵とワタシを離した。聖竜の手に卵、ワタシは秘書に支えられていた。
『ばかもの!魔力を半分以上注ぐやつがおるか!少しで良かったのだ。…秘書よ、こやつは大丈夫か。その、いろいろと』
聖竜はなんだか心配になってきた。
『そなたは、いきなり全力を出しすぎだ。創造神の教えにもあったろう、無理をするなと』
「聖竜様、神様は記憶が…」
そういや、そうだったな、と聖竜は言う。
『本来は我は卵に干渉しないのだが、そなたは記憶を失っているとしても危なっかしい。我の魔力も一雫ほど入れておこう。そなたのブレーキ役が必要だ』
そう言うと、聖竜は自分の手のひらにある卵の上に爪をかざすと、水の塊が卵に落ち、すぐに消えた。一雫といっても、卵を覆うほどの塊だ。
魔力を出しすぎて、顔が青くなっていたワタシは、秘書に回復魔法をかけられたが、ロッキングチェアに座り込んだ。
魔法は慎重に使おう。ワタシは心に刻んだ。
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