第2話 代理人の役割
自分がどんな者だったのか分からないが、妬まれていたのか。
「まぁ、そやつはだいだい目星がついとる。わしの優秀な秘書が調べてくれたからの。星の代理人の順番も今の位置から大幅に落ちるじゃろうて。…それだけじゃ済まさんがの」
最後の言葉は鬼気迫るものがあった。
「別のルートでこの世界に辿り着き、おぬしが目覚めるまで時がかなり経っていたから、記憶を完全に失うと魂も消滅してしまう。まさにギリギリじゃった。危なかったわい。見つけられて良かった」
何も分からず、誰にも知られずに消滅するのは考えるとゾッとした。
「さて、おぬしじゃが、せっかく選ばれた代理人なのに姿も魂のままじゃと何かと不便じゃろう。何かなりたいものとかあるかの?」
なりたいものといっても…うーん、と、ふと頭に浮かんだのは、自分を見上げる幼い顔。黒い髪、黒い瞳でニコニコしている。なんだか、あったかい気分になった。
「ふむ。ニンゲンじゃな。幼いが、おぬしの大切なニンゲンじゃったのかの。姿形を似せることができるが、どうする?」
他に浮かばないので、その姿でお願いしたい。浮かんだニンゲンが何を意味してるのかは思い出せないが、いつかは分かるだろう。
「分かった。とは言っても、見る者によってわしらの見え方は違う。今、わしは何に見える?」
普通の白髪の老人だが。違うのか?
「ほう、おぬしにとってはそう見えるんじゃな。実はわしも本当の姿は分からん。今のおぬしのように魂だけかもしれん。ただ、自我があり好きな姿にはなれる。おぬしもできるようになる。話が逸れたが、ほれ、さっきのニンゲンに形を変えたぞ」
創造神と話している最中に、いつのまにかニンゲンになっていた。自分で自分の顔は見れないが、多分思い浮かんだ顔だろう。
「今来ているその服も好きなように変えられる。着替えなくてもいつでも清潔に保たれる。あとは…」
創造神が手を出して握り、開いたその中に、小さな棒があった。まるで手品みたいだ。
「これ…は?」
「ふむ、肉体を得たおかげで声も出せるようになったか。まだ訓練が必要みたいじゃが。
この棒はな、おぬしの意のままに操れる棒じゃ。武器にもなり、魔法の杖にもなり、通信機にもなり、棒だが大きくなったり小さくなったり…とりあえずいろいろ出来るから使ってみることじゃ」
と、自分の手に渡された棒は、形を変えて右手首にすっぽり収まる腕輪になった。
へぇー、と少しびっくりしたが、腕輪だと外れにくいだろう。成長すれば指輪に変えてもいい。
「あとは、おぬしの役割じゃが、さっきも言った通り、新たな星を創ることじゃ。創り方はそれぞれ違う。すぐに星をポンッと創る者もいれば、小さな塊から少しずつ大きくする者もいる。各自の創造力や感性に任せておる。生き物も、植物などもお任せじゃ。期限はない。好きなように創ればよい」
創造神は実に簡単に話す。さっき一から創るのは難しいって言ったじゃないか。
「悩みながら成長せい。わしらには永い永い時間がある。この世界もその腕輪となった棒もおぬし次第で良くも悪くもなる。それにこの世界を創るおぬしは最初からハプニングがあった。他の代理人(仮)に邪魔され、記憶を失いかけ、この世界に辿り着いたが、わしが来るのが遅かったら消滅していた」
「そ…れは、こわい」
自分は無意識に座布団に座り、新しく現れた湯呑みに入ったお茶をごくりと飲んだ。意外とぬるかった。
「それでもおぬしは無事にこうしてここにおる。わしらがこの世界におぬしを選んだはずじゃが、この世界がおぬしを選んだのかもしれぬ。新しい生命を創ってほしいとな」
ニカッと創造神は笑うと
「そろそろお暇しなくてはのう。わしがこの世界に長く居ると、影響を及ぼしかねん。創造神じゃからの。あとはおぬしに任せる」
自分がお茶を飲み干すと、ちゃぶ台や湯呑み、座布団がスッと消えた。創造神や自分はその場に浮いている。
ふと、自分は足が地についていないとダメな方だと思い出した。今、思い出さなくても!
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