第11話 制圧
襲撃者たちによって、生徒や教師たちは体育館に集められた。
後ろ手に手を縛られて、中央に寄せられている。
「ここからどうしたら良いと思う?」
「私たちじゃ手に負えない。彼を待つしかないでしょう」
日葵と佐那も拘束されていた。
外には警察が集まっているようだ。
パトカーがうるさいため、ひそひそと話すくらいはできる。
「まだ黒コートは来ねぇのか? ……連絡が付かない? なら、さっさと探し出してココに連れてこい!」
襲撃者たちのリーダー。サングラスをかけた白人の男はスマホに向かって怒鳴り声を上げていた。
彼の話から推測するに、黒コートの助けは期待できないようだ。
「……どうやら、日本の役人どもはケツを叩かれねぇと仕事ができねぇみたいだな。なら、お前らのやる気が出るようにしてやるよ」
男は近くで怯えていた女子生徒の服を掴み、無理やり立たせた。
「今から見せしめに一人殺す。黒コートの奴が来るまで、十分ごとに一人殺してやるよ。これならやる気が出るだろ」
男は部下にスマホを放り投げて、ナイフを引き抜いた。
銀色に光る刃を生徒の首元に突き立て――。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「あ?」
思わず立ち上がってしまった日葵を、男は怪訝そうに睨んだ。
策は無い。だが目の前で生徒が殺されるのを見過ごすこともできなかった。
「なんだ。お前が代わりになるのか?」
「それで良いよ」
日葵は必死に策を考えた。
男はナイフを使っている。
日葵にナイフを突き立てた時に、上手いこと避けて手を縛っているロープを切る。
そこから男を組み伏せて、逆に人質にして事態を解決する。
成功率は低いが……もうこれに賭けるしかない。
「そうか、友だち想いの良い奴だな。それに免じて、お前から殺してやる」
男は女子生徒を離すと、カツカツと日葵に歩みを進めた。
チャンスは一度だけ、失敗したら次は無い。日葵はジッとタイミングを計る。
しかし、ふと男は足を止めた。
「……なにか企んでそうだな。やっぱり、こっちを使うか」
男はナイフを収めて、拳銃を抜いた。
(これは、マズいかも……)
いくら何でも、銃弾でロープを切るなんて不可能。
日葵は探索者なため、避けるくらいは出来るが……日葵の後ろには他の生徒たちが集められている。
良ければ彼らに銃弾が当たる。
「ま、どうせお友達もすぐに行くから、寂しくはないだろ……じゃあな」
男の指が引き金にかけられて――パチン!!
体育館が暗闇に包まれた。
暗闇から男性のうめき声と、ドタドタと騒がしい音が鳴り響く。
「ぐぁ!?」「ふっ⁉」
「っち⁉ おい、ライトを炊け!!」
男の怒号が響くと、パッと明るくなった。
生徒たちの頭上に、ピカピカと光るボールのようなものが浮かんでいた。
どうやら、明かりを付ける魔道具のようだ。
体育館を見回すと死屍累々。
襲撃者たちがぐったりと倒れている。
「このムカつくほどの手際の良さは……黒コートのやろうか……」
「ぐあ!」
「そこか!!」
うめき声をあげた襲撃者がばたりと倒れる。
その後ろには、黒コートが立っていた。
「会いたかったぜ。お前に片目を切られた時から、ずっと復讐にうずいてたんだ」
「……」
「相変わらずだんまりかよ。もう口もきけなくなるんだから、最後ぐらい喋ろうぜ?」
男がスッと片手を上げると、残った三人の襲撃者たちが生徒に向かって銃を突きつけた。
「動けば殺す……お前は『不殺』を信条にしてる甘ちゃんだから動けねぇだろ?」
男は焦らすように黒コートに近づくと、ゆっくりとナイフを引き抜いた。
「……」
「最後まで喋らないか……まぁ、これで俺の勝ちだ」
黒コートの首にナイフが突き刺さった。
飛び散る鮮血――を、その場の誰もが想像したが、ナイフは空を切るように突き抜けた。
「…………あ?」
貫かれた黒コートは、キラキラとした粒子を残して空気に溶ける。
まるで幻を見ていたように消え去ってしまった。
ドン!!
大きな何かが落下してきたような音。
パッと視線を動かすと、残っていた襲撃者たちが宙に舞っている。
「なにが――⁉」
「幻だ」
「がふっっっ!?」
気づけば男の背後を取っていた黒コート。
ぐるりと踊るように体を捻らせて、男の横腹に回し蹴り。
男は弾丸のように吹き飛ぶと、バリバリと体育館の壁を突き破って校庭へと吹っ飛んでいった。
全ての襲撃者たちは気を失い、リーダーだった男は吹っ飛んだ。
体育館は完全に制圧。人質たちは安全を手に入れた。
それに気づいた生徒たちが、喜びの叫びをあげた。
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