第10話 末路

 北小路光輝は一言で言えば、目立ちたがりである。

 裕福な両親の家に生まれた光輝。

 両親の好きなことをやらせてあげたいという方針から、色々な習い事をやらされていた。

 そして要領の良い光輝はどれも良い成績を残して、両親や友だちから褒められた。

 光輝はどの習い事も特別好きにはなれなかったが、褒められてチヤホヤされることは大好きだった。


 しかし、その輝かしい栄光はすぐにくもった。

 成長してネットを使えるようになった。

 電子の海に溢れる情報から、自分よりも凄くて褒められている奴らがいくらでも居ることを知った。


 嫉妬した。自分も世界に認められたい、褒められたいと願った。

 もう両親や友人、知人からの賞賛では満足できないほどに光輝の虚栄心は膨れ上がっていた。


 光輝は様々な動画をネットに上げた。

 過去の習い事を活かした動画。ゲームの実況。ダンジョン配信。

 しかし、上手くいかない。

 なにせ世界に認められたい人などいくらでも居る。

 光輝はその大勢の一人でしかないのだから。


 このまま諦められれば幸せだっただろう。

 光輝は頭も顔も良い。普通の幸せならいくらでも掴めた。

 しかし、間の悪いことに見えてしまった。天上に登る蜘蛛の糸が。


 素性を隠した黒コートと呼ばれる何者かがバズっている。

 コイツに成りすませば、自分が有名人になれる。

 リスクが大きいことは分かっていた。

 それでも光輝は欲望を抑えきれなかった。


「お前がネームレスだな。また会えて嬉しいぜ」


 その罰がこれなのだろう。

 光輝の喉に鋭いナイフが突きつけられていた。

 少しでも動けば死ぬ。光輝の膝ががくがくと震えた。


 少し前に、校舎裏で大きな爆発が起こった。

 なにが起こったのか動揺する生徒たち。そこに襲撃者たちがなだれ込んできた。

 あっという間に、校舎は制圧。

 手際の良さから考えるに、昨晩の内から学校に侵入して隠れていたのかもしれない。


「俺のこと覚えてるか?」


 ナイフを突きつけて、にやりと笑うのは白人の男だ。

 かちゃりとサングラスを外すと、左目に大きな傷が残っていた。


「あ、アンタのことなんて知らない」

「おいおい、人の左目にデカい傷を残しといて忘れてるのかよ。アンタが過去の依頼のことは気にしないってのは、本当らしいな」


 男がサッと手を上げると、部下の襲撃者たちが生徒に銃を突きつけた。


「動いたら撃つ。お友達が大事ならジッとしとけ。今から俺のことを思い出させてやる」


 ゴン!!

 光輝の顔面に、岩のような拳が飛んだ。

 倒れ込む光輝。鼻からダラダラと血が流れた。


「どうした、地面に転がって。拳より蹴りが好みなのか?」

「ごふっ!?」


 光輝の腹が踏みつけられる。

 強制的に腹から空気が押し出されて息も吸えない。

 痛みと相まって意識が薄れる。


「ま、まっで、待ってください!! ほ、本当に知らないんです!!」

「あぁん?」


 がしりと光輝の髪が掴まれる。

 無理やりに顔を上げられると、男にジッと睨まれた。


「お前、本当に例の黒コートか?」

「ち、違います!! ただ目立ちたくて成り切ってただけです! だから許してください!!」

「……はぁー」


 男は納得してくれたようだ。

 諦めたようにため息を吐く。

 そして、光輝を思いっきりぶん投げた。


「がぁああ⁉」


 ブチブチと掴まれた髪の毛がちぎれ、光輝は校舎の壁にぶつかった。

 男はイラついたように部下を睨む。


「おい、どうなってる」

「も、申し訳ありません。例の黒コートへの窓口が、この街にあると情報を掴んでいたので、本物だと誤認していました」

「くだらねぇ……こうなったら、後戻りはできねぇぞ……」


 男は生徒たちを睨む。

 数秒ほどジッと目をつむると、ぱちりと指を鳴らした。


「生徒を体育館に集めろ」

「ど、どうするおつもりですか?」

「あの黒コートは国からの依頼も受けている。こいつらを人質にして、黒コートを寄こすように脅迫する」

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