第2話 これは僕の一つ目の過ち
あの時体験した白い空間も、あの時手を伸ばした家も全て僕が作ったジオラマの世界での話だ。不思議なことに寝るとあの空間へと移動する。いわば夢の世界のようなものだ。
いつからだろうか。家のガレージにあの盤があったのだ。最初それはとても奇妙に感じた。今までこの家から一歩も外へと出たことがなかった。それなのにこの白い盤を見たのはそれが初めてのことだった。
しかし、奇妙に思ったのも最初だけ。何を思ったか僕はその盤を自分の部屋へと持ち込んだ。その時浮かべていた表情は笑顔。この世界の穢れを一切知らない少年のような顔を浮かべていた。
僕は期待していたのかもしれない。この退屈な生活に何か変化をもたらすのではないかと。
実際そうだった。この盤は世界そのものだった。
今までに何度もこの世界に入った。しかし、入っても今までの記憶を失うだけで何もない。未だ意識が戻る時間も分かっていない。そこで試しに家を置いてみた。自分の家だ。昔から物を作るのは得意だった。
すると、変化が現れた。世界に家が現れたのだ。嬉しかった。不思議と涙も出た。ようやく進展があった。
だが残念なことにいくら世界に入ってもたどり着くことができなかった。
理由は明確。目が覚める場所がランダムだからだ。さらに、この盤は中に入ればわかるが、とても広い。家に行きたくても何千キロを歩く、なんてこともざらにある。
「くっそ」
幾度も世界に挑戦し、ついに先ほど扉に手が届いた。あと一歩だったのに。今になって悔しさが舞い戻る。過ぎたことはしょうがない。
腹もすいている。一旦栄養補給をするため、下に降り、キッチンへと行く。冷蔵庫を開き、中を見る。昨日は栄養補助食品で済ませたから今日は何か料理でもしてみようか。
バンッ!
勢いよく冷蔵庫を開けすぎた。棚に扉をぶつけてしまった様だ。その拍子に何か落ちたのが視界の隅に入った。
頭を抱える。まだ悔しさが抜けておらず、つい物に当たってしまった。
腰を下ろして床に膝をつく。どうやら冷蔵庫についていた磁石の車が落ちたらしい。
そこではっとする。仮にこの車を盤に置いたらそれは走るのか。そんな都合のいい発想をしてしまった。
あまりにも自分に依存した考え。しかし、あと盤のことはまだよくわかっていない。階段を駆け上る。どうやら今日の食事も栄養補助食品になりそうだ。
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