第5話 講演会

 公民館のホールにざっと50人ほどが集まっていた。小さい町だから、まぁ良い方だろう。

 善と麻はホールの奥の方にひっそりと座っていた。


 「みなさんこんにちは、今日はお集まり頂きありがとうございます。この町は良いですね。日本の原風景です。」

講師は60代くらいの叔父様、精神科医だそうだ。


 「さて、皆さん。発達障害と言う言葉をご存知ですか?最近テレビでもよく取り上げられていますね。」

「私の患者さんにも発達障害の人が多くいるんですね。発達障害は、注意欠如、多動性障害とアスペルガー症候群や自閉症スペクトラム障害などの脳機能の障害なんです。

脳なんです。」

「でも障害のせいで生活に害をもたらすこともあるし、逆に障害があっても、生活に害なく楽しく暮らしていることもあるんです。」


なんじゃそりゃ。

パワーポイントがスクリーンに投影され、わかりやすい図が見えるが、喋っていることの意味が分からない。


大体、日常生活に支障があるから障害だろう、ずいぶん曖昧な障害だなと麻は思った。


「例えば、魚は水の中で生きることに苦労はしませんよね。でも陸に出た瞬間、えら呼吸と言う障害が生まれる。それと同じように発達障害も生きる環境によって、生きやすくも、生きづらくもなる。そういう障害なんです。」

「じゃあ、発達障害ってどういう症状があるの?と言われると人によって症状は様々なんです。」


「日常生活に支障がある場合、なおかつ本人の努力の範囲を超えているものについては、一人で抱えず、医療に相談するという選択を取ってもらいたいなと思います。また、周りの人も自分たちでなんとかしようと思わず、本人の困っている事を理解して、必要であれば医療にも頼って欲しいと思います。」


「違うアプローチの仕方で本人も周りもずいぶん楽になります。」

「また、猫が泳ぎで魚には勝てないように、ある分野では発達障害の人はずば抜けて良い成果をあげることがあります。」


麻は思う所があった。木下は他の新人と少し違っている。ケアレスミス、しかも最も大事な所が抜けている。

ミスをこれでもかと頻発する。

また、加えてコミュニケーションが取りづらい。

これは、本人の努力次第で何とかなるのだろうか…今後、良くなるのか?


そこまで考えて不安になった。

確かに善くんの言うように発達障害なのかもしれない。決めつける事はできないけど。


麻が隣を見ると善くんは目をキラキラさせていた。

「勉強になったよ。トムさんのこともっと知れたと思う。やっぱり特別な能力を持つ人なんだね。」


やっぱり善くんは聖人だなぁ、と麻は思った。

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