第二章 ひとりぼっちのエルシエル【13】
「なんか言えよっ! 人の家に火を放っておいて何もないのかよっ!!」
怒りに任せて拳を振り下ろすライア、しかし
それは、自分に宛てた執事の叫びを聞いたからであった。
「坊ちゃま! 無事だったのですね!」
ライアは血に染まった拳を降ろすと、馬乗りになったまま執事に振り向き、怒りを
「俺は無事だ! そんなことより父上と母上はどうした!」
その問いに、執事は体を震わせ目を伏せると、小さく答えた。
「それは……尽力したのですが、お父様とお母様は火に巻かれて亡くなってしまいました」
告げられた残酷な事実にライアの表情が消え、転瞬、彼は狂ったように笑いだす。
彼の父が全てを手に入れた時と同じ調子で、全てを失った彼は笑う。
「ふはっ、あはははっ、ふはっはははあっ!」
常軌を逸した狂いきった笑い声、正気を保つことを放棄した者の声だ。
ひとしきり笑うと、清々したように呟く。
「あーあ、そっか。ならいいや」
彼は不気味な
「おい、爺、俺のベッドの下にある箱を持ってこい」
死刑の宣告の如き命令に執事は慌てふためく。
「で、ですが、屋敷には火の手が……」
「使用人如きが口答えをするなっ! 殺すぞっ!」
獣の如く唾を飛ばし叫ぶライア、今の彼であれば一人や二人平気で手に掛けるだろう。
執事は真っ青な顔で
自然現象は無慈悲な殺人装置だが、時に人はそれよりも無慈悲に成り得る。
果たして世界は彼に微笑んだ、執事は燕尾服を所々焦がしながらも、体を焼かれる事無くライアが示した木箱を手にして戻ってきた。
「おせえっ! よこせっ!」
立ち上がり詰め寄るライアに慌てて木箱を差し出す執事、ライアは献身を労う事なくそれをひったくるように奪う。
彼は乱暴に箱を開けると、収められていた物を地面に横たわるエルシエルに構える。
それはこの国では否定されているはずの
「たっぷり痛めつけてから殺してやる……俺の人生を滅茶苦茶にしてくれやがって!」
彼の杖の先から放たれた青い光がエルシエルを掴み、彼女を空中に
「この力で人間をいたぶるのは初めてだなっ! 猫よりも楽しませてくれよ! はーはっはっはあっあ!」
ライアは狂った雄たけびと共に魔法を発動、青い光で構成された実体持たぬ剣が宙に現れ、彼の指示と共にエルシエルに向かって飛翔する。
ずぷり、気味の悪い音と共にエルシエルの小さな体が跳ね、血の花が咲く。
「うっ……」
磔のまま脇腹を刺された彼女は
ライアが杖を振ると青い刃が、極めて緩慢な動作でエルシエルの肉へと食い込んで行く。
ぶちぶちぶち、と肉を切り拓き、血管を断ち、そこから血が漏れ、ついには神経や脂肪といった皮下組織を傷つけるが、それでもなお刃は止まらない。
ぼたりぼたり、
「はははっ! 痛いかっ、痛いかぁ! はははっはああっは! もっと楽しめよっ!」
しかし、エルシエルはこれだけ血を流せども痛みを叫ぶことは無い。意思なく垂らされた前髪に隠れた表情は一体何を浮かべているのか。
「……おい、なんで叫ばねえんだ」
突如高笑いを途切れさせ、氷点下の声色を響かせるライア。
どれだけ苦しめてもエルシエルが反応しない事に気づいたのだろう。
彼女が時々漏らす苦悶の声や
「なら、もっと苦しませてやる」
彼はエルシエルがやせ我慢していると思ったのだろう、不気味な笑みを浮かべ、杖を振る。
すると空中で釘付けになったままのエルシエルの首元に青い光が集まり、明確な形を取る。
「叫べねえなら、手足をばたつかせて苦しめよっ! 虫みてえになぁっ!!」
ライアが喉が潰れんほどの不気味な笑いと共に杖を振り、彼女の首に
「っ……ぁっ……ぐぁっ……」
ぎりぎりぎり、喉が潰され、
苦しめど、死ねはしない。そんな死と生の間を綱渡りするような絶妙に手慣れた加減だった。
「辛いか? 悔しいか? 魔法って最高だろっ! 俺は
自分とエルシエルの差を強調する罵声を浴びせるライア。屈辱という形で彼女を苦しめたいのだろう。
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