第一章 破滅を誘う白翼【8】
そんなやり取りを経て、やって来たのは結婚式場の廃墟だった。
あの時から時間がだいぶ経ってしまい、すっかり夜更けになっていた。
「もう夜になったよ」
「大丈夫、私の読みだとここに来てるはずよ。彼女達は戦争の中で愛を育んで結婚しているのだわ! ……多分」
幾つもの廃墟を巡ったが、どこにも彼らの物語の続きは無かった。
それでも諦めないリタに対しさしものエルシエルも嫌そうな表情をしていたが、リタはこの結婚式場を指し「きっとあそこよ! ここで最後だから!」とエルシエルを半強制的に付き合わせていた
結婚式場は廃墟にしては綺麗だった、少し高い場所にある夫婦が座る
廃墟らしい点を列挙しても至る所に張られた蜘蛛の巣や、埃が積もっていることくらいだろう。
「ほらほら、早く視て頂戴」
エルシエルはリタに急かされ、手を繋いでから魔法を発動。
その瞬間、結婚式場の入り口に立っていた二人は過去を垣間見る。
魔法を発動した途端に沸き上がる雑音、咳払いに、衣擦れ、靴が床を踏む音。
見れば多くの人間が正装で席に座っている。
いや、人間だけでは無かった、半数ほど亜人種も混じっている。
壁という壁には豪華な装飾が施され、賑やかしの為に用意されたのであろうオーナメントや色とりどりの花びらが魔法で宙を泳ぐ。
高砂席にはタキシードを着た男性と、ウエディングドレスを着た女性。
それはあの時の青年と白翼の少女、彼女の翼は心地よさそうに広げられている。
二人の姿を視て、リタは歓喜の声をあげた。
「ほら、やっぱりいたじゃない!」
高砂席の奥から現れたのは豪奢な服装で王冠を被った
王は二人の夫婦の後ろに立つと、国民全てに宣言するように大きく声を張り上げた。
「皆の者、今日はめでたき日だ! 我らが英雄たちの結婚式なのだから! これほどまでに素晴らしき日があるだろうか!」
沸き上がる歓声、人間も亜人も分け隔てなく喜びを口にしている。
王は彼らの言葉に応えるように、更に堂々と声を張り上げる。
「彼らは聖剣部隊として戦争の
王が語るのは彼らの来歴、エルシエルが視た過去の断片から推測するにきっと彼らはあの後多大な戦功をあげ、英雄と称えられ、亜人と人間の活躍は文化にも影響を及ぼしたのだろう。
「そうして今迎えるは亜人と人間が手を取り合う奇跡! 呼びかけに応じてくれた近隣の亜人たちよ! 今までの事はどうか赦してくれまいか!」
王の問いかけに各所から挙がる承認の声。綺麗な同調だが、それぞれ言葉が違い事前に仕込まれた物のようには聞こえない、きっと彼らが心の底から思っていることなのだろう。
「ありがとう! 亜人と人間が手を取り合えば、きっとこの国はどこまでも発展できるだろう!」
王の締めの言葉が響くと同時に、会場全体が沸き上がった。
ただただ
平和に満ちた空間だった、戦争は終わり、亜人への弾圧は融和という結末を迎えた。
そして、なによりもその結末を喜んでいたのは高砂席に座る新郎新婦だった。
少し高くなっているそこから会場を見下ろし、新郎は新婦に向かって囁いた。
「――――」
歓声にかき消されてエルシエル達には何も聞こえない、けれど、知る必要もないだろう。
新郎に何かを
「――――」
そして新婦がお返しとばかりに新郎に何かを囁くと、新郎の頬を涙が伝った。
二人は涙を流したまま会場を
何を想うのだろうか、平和、融和、それとも、互いの事であろうか。
会場は誰も新郎新婦に注意を向けない、次の司会進行が入るまでは現状を祝うのに忙しいだろう。
ふと、向き合う二人。
角度故にエルシエル達からは表情は伺えない。
そして、国を救った新郎と、白翼を広げた新婦は、
唇を重ねた。
そんな幸せに満ちた美しき光景を目にしながら、エルシエルは呟いた。
「それで――――」
魔法は切れた。亜人も人間も一緒くたに魔力の青い残光と化し、花びら舞う
残るは人の居なくなったただの箱、虚ろになった結婚式場、廃墟となったこの場に満ちるのは幸せではなく、諦観と虚無のみだ。
今や讃える物を失い、植物が
「どうしてこうなったんだろ」
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