⑥増える仲間

「あたしさぁ…小学生ん時はいじめられっ子だったんだよね」


 急な告白に、みのりは更に困惑する。しかし、彼女はこちらの戸惑いなどお構い無しに話を続けた。


「まあ所謂、虎の威を借る狐ってやつなのよ、あたし……。あんたに嫌味を言ってたグループに寄生するためだけに、特段興味のないことであんたに意地悪言ってたわけさ」

「そ、それで……? なんで急に謝ったりなんて…」

「そりゃあ、なんつーか……」


 松恵は複雑そうに眉を寄せ、またガシガシと頭をかいた。せっかく綺麗に結ばれているポニーテールが、かなり乱れてしまっている。


「あんたが反論した事に心打たれたんだよ」

「へ?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。すると、彼女は怒った表情で赤くなって、早口で続ける。


「あたしも小学生ん時、今日のあんたみたいにしっかり反論できてたら。って思ったんだよ! 今も本当はやりたくない事させられて、自分って情けねーとか思ってたから、あんたがハッキリあたしらに反発してきた時、かっけーなって思ったの!」


 息継ぎもせずに言い切ったので、松恵は軽く息を斬らせている。その息を整えたら、松恵はボソッとか細い声でこう言った。


「だから、今までごめん……」

「うん。いいよ」


 みのりは即答だった。それが予想外だったのか、松恵はバッと驚いた表情の顔を上げ、みのりを見つめる。


「謝ってくれたから。許すよ」

「あんた…単純だな」


 みのりは驚く彼女に対し、くすくすと笑う。


「今朝、あの人達を止めてくれたでしょ? だから信じるの」

「ありがとう……」


 松恵は小さな声でそう言うと、涙が出そうな歪んだ顔を隠すように、俯いた。


「あたしも手伝うよ」

「え?」

「さっき、騎本と話すとか何とか言ってたじゃん」


 松恵が声をかける直前、みのりは確かにそう呟いていた。あれを聞かれていたらしい。


「うん。今の海斗は、いつもの優しい海斗とはまるで別人なの。私を見た時と、私の話を聞いた時だけそうなるみたいで……」

「なんだそれ? 仲良かったのに、なんかしたの?」

「覚えがないの」


 みのりは、松恵にも今までの出来事を洗いざらい、全て話した。


「そんなん、白石が怪しいじゃねえか」

「や、やっぱりそうだよね……そっかあ…うん。そう……だよね」

「逆にそれ以外に何があんだよ? あんた、単純な上にお人好しだな」


 松恵の言葉に、みのりは「う」と気まずそうな声を出した。彼女は今でも少し意地悪だ。と、そう思う。


「まあ、そんなあんたの言葉で改心しちゃうあたしも単純なのかもな」


 と彼女は大きく笑った。女子がするにはあまりにも豪快な笑い方である。


「騎本と話そうにも、暴力を振られるかもしれないんじゃあな。まずは白石からとっちめてやろうぜ」

「千桜ちゃんが聞いてもはぐらかされたって言ってたよ。証拠があるなら私もそうしたいけど……」


 2人は「うーん」と唸って、頭を捻る。


「なら、あたしが騎本に白石の事を聞けばいいんじゃね? 騎本って、あんたの名前を出さなきゃ普通なんだろ?」

「あ、そっか……自分で話すことばっかり考えてたけど、そうだよね」

「じゃあ、早速明日聞いてみるよ」


 松恵はドンと胸を叩いてドヤ顔で笑う。「任せろ」とでも言いたげだ。


「ありがとう…山中さん」


 みのりが微笑んでお礼を言うと、松恵は照れくさそうに頬をかいて言った。


「松恵でいいよ」

「…うん! そしたら私も、あんたじゃなくてみのりって呼んで?」

「お、おう……」


 2人は改めて握手を交わし、今日のところは解散する。


 本当は今すぐ海斗に会いたかったのだが、また暴力的な海斗が出てきてしまうだろうから、それは出来なかった。


。。。


 次の日。


 朝の教室で、松恵は男子達と雑談をしている海斗の目の前に、仁王立ちをして立っていた。


 登校してきたみのりはそんな光景を見て、ただ唖然としている。そんなみのりに、コソッと近寄ってきた千桜が小声で説明をしてくれた。


 ついさっき、松恵は登校してくるなり談笑していた海斗の目の前に立って、こう言い放ったらしい。


『12月10日の出来事を洗いざらい吐け』と。


「えっと、なんで?」

「いいから吐け」


 まるで脅迫しているかのような険しい表情で、松恵は海斗を問い詰める。


 当然、女子人気の高い海斗へのこの仕打ちに、クラスの女子達は聞こえる声で嫌味を言ったり、ヒソヒソと小声で噂話をしている。


 しかし、悪口など聞こえていないかのように、松恵はただじっと座る海斗を見下ろしていた。


「えっと、その日は確か…あれ? …………その日は学校に普通に行って、普通に帰ったけど」


 一瞬、目を痛そうに擦ると、海斗は普通のテンションでそう答えた。


「白石と何か話したよな?」

「え? 白石さん……? ああ、なんかおまじないがどうとかって言ってたな。確か……あれ?」


 海斗は途中で眉を寄せると、また目を擦る。そして、松恵を睨むように見つめた。


「もういいだろ。俺の前から消えてくれ」

「は?」


 みのりを前にする時よりは冷静だが、明らかに態度が豹変した。みのりはそれを見て焦る。


 松恵も、眉を寄せるとそのまま無言で海斗の席を離れ、心配そうに見つめているみのりの元へ気の抜けた挨拶をしながら歩いで来た。

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