⑤反発
みのりは登校すると、すぐにトイレに立った。そのトイレから帰る途中で、同じクラスだが普段は全く話さない女子達に声をかけられる。
(まただ……)
海斗と会話をしなくなってから、1人になるとよくクラスの女子達にからかわれるようになった。正直うんざりしているが、今日は少しだけ前向きな気持ちだった。
桜雅と千桜が声をかけてくれたことが、思いのほかみのりにとって大きな出来事になっていたようだ。
「あら、なーに? 今日は随分強がるじゃない」
「もう海斗くんの事なんてどうでもよくなっちゃったんだ? 薄情だね」
「違うよ。私は海斗の事信じてる。海斗は今はおかしいけど、本当は優しい人って知ってるもん」
思ったよりもスラスラと反論の言葉が出た。
「でも嫌われてるよね? 全く声かけようとしないじゃん」
「目が覚めたのよ。あんたみたいな可愛くない子より、いい女が沢山いるってね」
「…海斗は人の事、見た目で判断する人じゃない」
今日はみのりが何度も反論をしてくるので、面白くなさそうに女子達は舌打ちをしてくる。
「生意気なんだよ。ブスのくせに」
「それでもっ……! 海斗は私とずっと仲良くしてくれてた。今の海斗はちょっと違うけど…。本当は、本当の海斗は凄く心の優しい、素敵な人なの! 私は、いつか元の海斗に戻ってくれるって信じてる……」
ぎゅっと胸の前で手を組んで、みのりはハッキリとそう言った。真っ直ぐに彼女らを見つめる。
女子生徒達は苦虫を噛み潰したような顔をして、みのりに対して手を伸ばす、しかし、1人の女子に「騒ぎになるのはやばい」と言って止められた。
彼女らはもう一度舌打ちをして、忌々しそうに立ち去っていく。
「ほっ……」
緊張がほぐれ、みのりは軽く息を吐き出した。そして、組んでいた両手を更にぎゅっと強く力を込めて、気合を入れる。
(諦めない…!)
元の海斗を取り戻さなければ。みのりはそう自分に言い聞かせる。本当に氷愛が何かをしたのかは、みのりには分からないが、諦めず海斗に声をかけ続ければ、きっと元の海斗が戻ってくる。と信じていた。
。。。
昼休み。今日は千桜から誘いを受けて、2人でお弁当を広げている。
「誘ってくれてありがとう」
「ううん。お礼なんていいよ」
最初こそ、なんでもない話をしながらお弁当に手をつけていたのだが、ふと千桜が複雑そうに眉を寄せて、みのりに報告をしてきた。
「はぐらかされて、結局わかんなかったの」
「そっか……」
「それに、桜雅からも聞いたんだけど、海斗くん。凄く普通なんだって。いつも通りに会話が出来たんだって」
それを聞いて、みのりは悲しくなってしまった。昨日の事を思い出したのだ。
家に行った時も、自身の母とは普通に会話をしていた。みのりが彼の目に映った時に、豹変したのだ。
「ただね、みのりちゃんの名前を出すと、急に不機嫌な顔をするんだって。やっぱりおかしいと思う。誤魔化されたけど、白石さんが何かしたんだよ」
「そうかもしれない……」
話を聞いているうちに、みのりもその仮説が合っていると感じるようになった。しかし、何をしたらあの優しい海斗があんなに人が変わったかのように暴力的になるのだろうか。とも思う。
昨日引っ張られた髪に軽く触れて、みのりは考える。
「あんまり役に立てなくてごめんね」
「ううん! 全然そんな事ない。凄く嬉しかったし、私じゃ海斗とお話すら出来ないんだもん。助かったよ?」
みのりは悲しげだが、千桜の優しさに触れてにこっと嬉しそうに笑う。感情が混ざりあって少々笑みが歪になってしまった。
。。。
放課後はまた1人になってしまった。千桜も桜雅も、実は結構良い家庭の子ども達で、放課後には習い事の用事が沢山あるのだそうだ。
「今日こそ海斗と話したいな」
そう呟いて、軽く気合を入れる。
「なあ……」
そこを、最近ずっとからかってくるクラスメイトのうちの1人が声をかけてきた。みのりは思わず警戒してしまう。
「イラつくからやめてくんない? 別になんもしないし、言わない」
彼女はそう言うが、みのりは最近された事を全て覚えている。簡単に警戒は解けなかった。
「でも、あなた達には散々嫌な事を言われたわ」
そう反論すると、彼女はガシガシと頭をかいて、言う。
「それは、悪かった。謝るよ」
「え?」
急に謝られた事を、みのりは不思議に思う。今朝だって、嫌な事を言われたばかりだ。しかし、同時に思い出した。
今朝、突き飛ばされそうになった時に止めてくれたのも彼女、
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