③変化した日常
※紹介文の変更を致しました。原作や現在に伝わる話と似ていないという部分もあるかと思いますが、ご了承くださいませ。
次の日もその次の日も、朝の待ち合わせ場所に海斗は現れなかった。放課後にはいつも一緒に帰っていたのに、海斗はチャイムが鳴った瞬間どこかへ消えてしまう。
「どうして……」
みのりは小さな声で呟いた。
『最近の海斗、変だよ。どうしたの?』
『海斗。私何かしちゃった?』
『ごめんね。海斗。本当にわからないの。私が悪いのなら教えて』
『何か言って……』
全て海斗に送ったチャットのメッセージだった。既読すらついていない。
生徒達が教室から出て行きひとりぼっちになった教室で、みのりはポロポロと涙を流す。
「海斗……」
暫く1人で泣いた後、みのりは赤い目を擦ってやっと自分の席を立ち上がる。
帰る途中、ふと隣のクラスから声が聞こえてきたのでその方向を見てしまう。その行為を、みのりはすぐに後悔した。
ドアの開いた隙間から、氷愛と海斗が一緒にいる所が見えたからだ。
「海斗……」
みのりはざわついた胸を押さえつけて、逃げるように学校を飛び出す。
何故? 2人は付き合い始めたのだろうか。約束は?
そんな言葉の数々がみのりの頭を支配する。みのりと海斗は恋人同士ではなかったし、彼を責める権利など無いことはわかっている。しかし、それでもみのりは海斗を心の中で責めてしまった。
(裏切り者……)
。。。
それから暫くは、みのりからも海斗への接触をしなくなった。当然、海斗もみのりに近づこうとしないし、久しく声も聞いていない。
「はぁ…」
小さなため息をついて、今日も1人で帰ろうと帰り支度をしていると、ふと頭上から声がかかった。
「真木さんに話があるんだけど」
声をかけてきた相手は、同じクラスの男子だった。
「
「えっと…ちょっと、人がいるとこだと…」
歯切れ悪く言葉を濁す彼に首を傾げつつ、みのりは人がいなくなる時間まで待って、改めて話を聞く姿勢をとった。
「あのさ…。騎本って、隣のクラスの白石さんと付き合ってるのかな?」
その話か。と正直みのりは嫌な気分になった。今は聞きたくない名前と言葉だったから。
「さあ、知らない。そうなんじゃない」
八つ当たりになってしまうが、みのりの声は自分でも驚く程に冷たかった。
「そ、それじゃあその…真木さんって今彼氏はいないんだよね?」
「いないけど」
追い打ちをかけられた気分だった。みのりはあまり話した記憶のないクラスメイトの、しかも男子の前なのに、悔しさで涙が出そうになってしまう。
「あのさ。俺、ずっと真木さんの事が好きだったんだ。今フリーなら…俺と付き合ってくれないかな」
「え?」
悔しかった気持ちが驚きに変わって、涙が一瞬で引っ込んだ。
「私の事を好き…?」
花村は赤い顔でこくこくと頷いている。この顔は嘘では無い。とみのりにも分かった。
「で、でも…私は……」
海斗の事が好き。
と、そう口にすることは出来なかった。
「騎本の事? あいつ、自分に彼女が出来たからって、最近の真木さんへの態度は酷いじゃん。最近の真木さんはずっと悲しそうだし…。だから、そんな奴の事は忘れて、俺と付き合って欲しい。大切にするし、泣かせたりしないから!」
花村が真っ直ぐにみのりの瞳を射抜く。正直に言うとドキリとしてしまった。真剣な顔で見つめられて、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれて、揺らぎそうになる。
しかし、それでも海斗を好きな気持ちは変わらない。
「海斗は…本当は優しい人だったの。今も好き。だから……花村くんの気持ちは嬉しいけど、こんな気持ちじゃ、付き合うなんて「ま、待って!」
断ろうとしたところを花村に止められてしまう。
「いいんだ。今はまだあいつを好きなままでも…。俺があいつを忘れられるように努力するから! だから、断るのは待って。俺にもチャンスをください!」
そこまで言われると、さっきよりも強く、みのりの心は揺らいでしまう。
本当に忘れさせれくれるのだろうか…。そんな風に考えてしまった。真っ直ぐな目に言葉は、まるで魔法のようだった。
「…わかっ「あ、雪だ」
またもやみのりの声は遮られ、窓の外を見つめる花村につられてみのりも窓の方へと視線を向ける。
「雪…」
「真木さん。去年の春、自己紹介カードに雪が好きって書いてたよね?」
「え? そんなの覚えてるの?」
「言ったじゃん。ずっと好きだったって」
そんなに前から見てくれていたなんて、みのりは知らなかった。胸が何となく、じんわりと熱くなる。
「雪がやんだら雪だるま。一緒に作らない?」
雪だるま。その言葉で、みのりは海斗の顔を思い浮かべる。
『ずっと一緒にいようね』
みのりが雪を好きなのは、海斗と2人で雪だるまを作れるから。海斗と長い時間、一緒にいられるからだった。……それを思い出した。
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