第3話 生殺与奪。

世の中何がウケるかわからない。

動画の導入部分には過去にはゲーム配信を行っていた事、参加してあげた3人の旧友を裏切って勝手に閉鎖した事、それらを都合よく書かれていて告発サイトが用意され、本性を暴く名目で悪ノリのサイトが出来上がっていた。


その時の最新の動画では動画配信者が緊張の面持ちで家を出るところから恋人に会い、ご馳走を食べに行き告白をする所まで隠し撮りをされていた。


旧友達は動画のオープニングでサングラスにマスク姿で現れると、ゲーム実況時のハンドルネームで自己紹介を行い、「今日は優一が人生初の告白をするみたいです」「え!?あの毒親に育てられて人の愛も知らない吉木優一がですか!?」「そんな!?見に行かないと!」と言う声の後で笑い声の効果音が入る。


悪質で悪趣味な動画なのに視聴者数はかなりの数がある。

コメント欄は荒れていたが配信者になった旧友達は独自解釈で自己肯定していた。


再生リストの中に「はじめに」と書かれたタイトルの動画があり、3人が貸しスタジオの中で吉木優一という人間について語っていた。

中には彼の人生が事細かに語られていて毒親の被害者。救う必要のある人間としながらも野垂れ死ぬところを救って卒業まで育てたのは他ならぬ我々の母親達だから生殺与奪は自分達にあると言っていた。


彼女からは早々になんとかするように言われる。彼女も顔出しまでされていて笑っていられない。

別れを選んでもこの動画は残り続ける。


動画配信者はすぐに行動に出て旧友達に「話があるから今晩会えないか」と連絡をするとその場で動画は更新された。

1分くらいの動画だが「【緊急】吉木優一から呼び出しがあった」のタイトルで「彼女が出来た報告か!?」とメールのヘッダを指で隠す形でメールを披露しながら話をしていた。


彼女が家で見守る形で動画配信者を見ると隠し撮りのライブ映像で動画配信者はモザイク処理すらされずに映像を垂れ流された。


「話ってなんだよ?」

「もしかして彼女でもできたとか?」

その顔は映らないが声からは意地悪さや嫌らしさが伝わってきた。


動画配信者は悲痛な顔でスマホを向けてコレはなんだと動画について問いただす。

「あちゃー、遂にバレたか」となったが謝罪は一切ない。今すぐにチャンネル閉鎖を訴えたが旧友達は自身の正当性、動画配信者への生殺与奪の権利を持ち出して何をしても構わないと言い、恋人のことにしても「お前の恋人だから何をしても構わない」「お前の恋人なのが悪い」として開き直る。


まずは彼女の映っている動画を消せと言うと渋々非公開にしたが3人の旧友は口を揃えて「小3の遠足、お前の親は弁当を作らなかった。お前が食べたのは?ウチの弁当だ!」「それから運動会の弁当は?6年間ウチだ!」「高校の学校見学に付き合ったのは?ウチの母親だ!」「夏休み、一日一食で死にかけたお前が食べたのは?ウチの飯だ!」「中学の制服の採寸を付き合ったのはウチの親だ!」「風邪を引いたお前に薬を持って行ったのはウチだ!」と言い、助けられた恩に報いるべきだと言って引き下がらなかった。


話にならない中、会話だけでデジタルタトゥーが増える中、動画配信者は「…生きていることが罪なら、始末をつける」と言って3人の前から立ち去って行き3人の勝ち誇る笑い声で動画は終わっていた。


この映像は瞬く間にネットを駆け巡る。


住所も名前もバレているので最寄りの警察署に通報が殺到して動画配信者は始末を未遂で終わらせる事となった。

恋人からは別れを告げられてしまい動画配信者は1人に戻る。


3人の旧友達は悪さをする中で自身にとってもデジタルタトゥーになっていると思わないでいた。

吉木優一が身バレしているのだから自分達も世の中に名前が出る事を意識していなかった。


回り回ってすぐに3人の親や勤め先にまで情報が周り3人は職を失う事となり全てを吉木優一が悪いと怒りと恨みをぶつけた。


3人の父母達は子供に怒り、吉木優一に会って謝ろうとしたが、吉木優一は逆に申し訳なくて会えないと断って良い思い出はないが住み慣れた街を離れた。

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