第2話 消せないデジタルタトゥー。

かつて自身を救った同級生の親たちは動画配信者に「ずっとウチの子と友達で居てね」と言っていた。


食うに困った日なんかに食べさせて貰った食事を思い出して、あの言葉に従ってずっと友達でいようと思ってしまった。


動画配信で毎月アルバイトを行うくらいの収入が入るようになった所でずっと友達でいようと思った同級生達が動画配信に参加をして収入のおこぼれを得ようとしてきた。


断るべきだが動画配信者は恩を感じていて受け入れるし、周りは一段も二段も格下だと認定している動画配信者が断るなんてあり得ないと決め付けていた。


動画配信は無理やり路線変更をする事になる。

3人の同級生と行った配信では1人は散々注意をしてもNGワードを使い続けて編集の手間を増やす。別の1人は負けが込むと動画を無視して投げ出す。最後の1人は参謀気取りで次にやるゲームなんかを動画配信者の好みを無視してウケるゲームばかりをやらせた。


楽しくなかった。

それでもかつての「ずっとウチの子と友達で居てね」の言葉を思い出して耐えていた。

それが良くなかった。


一時的に再生数は伸びた。

これを成功体験として受け取った3人はさらに過激な手段に出る。


生放送を始めたいと言い、双六が題材のゲームを4人でプレイしていると口の悪い同級生が禁止ワードの罵詈雑言を上げ、途中放棄ばかりする同級生は負けが込むと動画配信者の部屋が陰気臭いと言い出して家の特徴をバラしてしまう。参謀気取りはゲームの外、配信の中でゲームには関係ない罰ゲームを持ち出してきた。


最初はわさび寿司だった。

声だけだが、家の特徴をバラした同級生の苦しむ声に視聴者はウケて投げ銭をしてくれた。

また積み上がるよくない成功体験。


既存の大切にしていた視聴者は路線が変わったと言って離れて行ってしまった。


だが動画配信者はずっと友達の言葉に縛られていて辞めさせられなかった。


過激な路線変更で視聴者数も視聴数も一時的に伸びるがすぐに落ち込む。

そうなるとさらに過激な手に出る。


動画配信者をターゲットにしてライブの度に個人情報をバラす。


「おい、東京都北区在住!」

「東十条最寄駅!」


そのドキドキ感を見たさに視聴者が来てしまい、ついには苗字は出なかったが優一と名前をバラされた。


実害はすぐに出た。

ファンではない視聴者。

ただ本人を特定したいだけの過激な連中に家はすぐに特定されポストに「お前が配信者だな?」と手紙が入った。

そしてライブ中に住所を晒す視聴者や何処で手に入れたのか卒業アルバムを短文SNSに晒す視聴者まで出てきてしまい動画配信者はチャンネルを閉鎖した。


だがコレだけでは済まなかった。

確かに動画配信を辞めて数ヶ月もするとネットの人々は動画配信者には見向きもしなくなった。出回った住所と本名はデジタルタトゥーになったがすぐに他の情報に埋もれてしまい掘り起こされなければ問題なくなっていた。


それなのにまた動画配信者のデジタルタトゥーは掘り起こされていた。

普通に考えれば意味がわからなかったが本人は何も知らない。


動画配信者は動画制作をアルバイトに変えて企画力はあるが編集力のない配信者の手伝いをした。

固定プラス歩合で赤字だけは出ないようにしていた。

動画配信者を雇用した女性は顔出しをせずに専用のアバターを使っていて二人三脚で動画をより良くして収益を得るようになる頃、動画編集者は二人三脚の日々で特別な感情を抱いていたので人生初の告白をした。

彼女は動画配信者を受け入れて恋人同士になった数日後、恋人から掘り起こされたデジタルタトゥーについて聞き、ようやく一つの結論に行き着いた。


吉木優一という実名で検索すると、どう見ても隠し撮りの体裁で動画配信者の生動画がアップロードされていた。

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