《後編》勇者の選択
「う、うそだ……」
「ソレ、ホント、ホント」
黄金鳥が、わめきたてる。
「で、二つ目の能力なんだがね。私は自分自身に呪いをかけたんだよ。それはもし、私を殺した者が異世界からの来訪者だった場合、その者は途端に元の世界へ引き戻される。しかも、こちらへ来る少し前の時間へね。
勿論、今の能力は全て消え失せてしまう。そして二度とこちらの世界には、やって来られないという呪いなんだ」
「う、うそだ……」
「ソレ、ホント、ホント」
同じ言葉を繰り返す勇者を尻目に、黄金鳥は真実を告げる金切り声をあげ続けた。
「まぁ、大体のパターンから、君は向こうの世界では、ロクな生き方をしていなかったんじゃないのかな? いじめられっ子、失業者、もしくは過酷な労働に苦しめられていたとかね。
そして最後は不慮の事故や病死か何かで、こっちへ来たんじゃないのかね」
勇者の足はガタガタと震え始め、今にも膝をつきそうな状態になった。
「それから前世での鬱憤を晴らすかのように、こちらの世界でやりたい放題やって勇者に祭り上げられた」
「ち、違う。僕は一生懸命努力をして認めてもらったんだ。みんなも僕の事を、優しい勇者だって評価してくれた!」
反論する勇者の目は、既に泳ぎ始めている。
「努力!? そりゃ嘘だな。君は何の努力もせずに、勇者になったんだよ。
何故そんな事が言えるのかって?
まず君は、転生する時に神様から無敵とも言える法外な力を授かっただろう? 勿論、何の引き替えも求められずにさ。そして前世の知識も余すところなく引き継いだ。こっちの世界の遅れた文化や文明なんて、目じゃない程の知識をね。
私の見立ては、間違っているかい?」
勇者は怒りと恐怖に満ちたまなざしで、魔王を睨みつける。
「君はそれらを実に有効に使って、のし上がって来ただけさ。アンフェア極まりないやり方だよ」
「だけど、みんなは……」
「確かに皆は、君を慕っている。だけどそれは、君の強さと知識のせいではないのかな? その何も努力をしないで手に入れた物があるから、君は周りにチヤホヤされて来たのではないのかね?
もし何の力も知識もなかったら、君は今ここにいないだろうよ。そして超越した力があればこそ、君は他人に対しても優しく出来た。
よく考えてごらん。前世で君にそんな余裕があったかい?」
「ち、違う! 僕はそんな風には思っていない!!」
「ソレ、ウソ、ウソ」
すかさず反応した金色の鳥を、勇者は思わず睨みつける。
「実に正直な鳥だね、それは」
魔王は慇懃無礼に微笑んだ。
「もし君が全ての力と知識を失っても、皆は変わらず君を尊敬してくれると思うのかい? それに君のほうにしたって、皆に優しく出来るのかい? ましてや前世の惨めな暮らしに戻ったら、君には悲惨な人生しか待っていないと思うがね。
だけど私の申し出を受け入れさえすれば、君は世界を救った英雄として、生涯安寧な暮らしを約束されるだろうよ。そしてこの事を知っているのは、君と私だけだ」
うつむく勇者に向かって、魔王は畳みかける。
「さぁ、どうする? 申し出を受けるかい?」
暫し沈黙の後、勇者は背筋を伸ばして魔王を見据えた。
「わかった。申し出を受けよう。だが誤解するな。奥義ゴッドインフェルノを使って消耗した今の僕に、お前を倒す事は難しい。もし負けてしまったら、命を懸けて僕をここまで進めてくれた仲間に申し訳がないし、世界は暗黒に包まれる。
だから今は、いったん退こう。しかし忘れるな。僕は300年後に備えて惜しみない努力をする。魔王を封印した勇者として次世代の勇者を育てよう。そして勇者は代を重ねるごとに強化され、300年後、勇者の跡を継いだ者が確実にお前を倒して見せる!」
魔王に向かって宣言する勇者の肩で、黄金の鳥が泣き叫ぶ。
「ソレ、ウソ、ウソ」
それを聞いた勇者であった者は、肩口に手を伸ばしその鳥をギリギリと握りしめた。憐れな金色の鳥はか細い声をあげ、ほどなくグッタリと頭を垂れた。
悪名高い要塞から去る男を、尖塔の窓より見おろす城の主。
「さぁってと、あと300年、どうやって暇をつぶそうか。また何か新しい娯楽でも考え出さなきゃいけないかな……。
――あ、しまった。あいつに聞いておけば良かった。ウクライナとロシアの戦いが、あれからどうなったかの顛末を」
転生勇者が、魔王に絶対勝てない理由(短編) 藻ノかたり @monokatari
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