第2章「食の街アステント」
第1話「相方の始まり【ノルカ視点】」
空色の魔法樹の花びらが、淡い桃色へと変化を見せる頃。
国立サーベルグ魔法学園で、魔女試験の結果発表が行われた。
魔女試験は、筆記試験と実技試験の二段階選抜によって合否が決まる。
「心臓がドキドキしてきた」
「ねー」
筆記試験の結果が廊下の掲示板にされ、魔女試験の受験者たちは掲示板へと意識を集中させていた。
(努力は裏切らない……)
魔女になるために、真摯に誠実に努力を積み重ねてきた。
積み重ねてきた努力は、必ず報われる。
そう信じて、魔法学園の7年間を過ごしてきた。
「あ、先生が来たよ!」
周囲が、ざわつく。
心臓がどきりと動きを見せたような気もするけど、それすらも気のせいだと思いたい。
だって私は真面目に、ひたむきに努力を続けてきた。
筆記試験の段階で不合格になるなんて結末、私は望んでいないから。
「っ」
筆記試験1位のところに、自分の名前を見つける。
本当は胸を張って、声を大にして、『やった!』って声を張り上げたかった。
でも、魔女試験は、ここで終わりじゃないと自分に言い聞かせる。
(努力は裏切らないってこと、証明できた……)
誰にも見えないくらい小さくガッツポーズを決める。
でも、その喜びは一瞬だけ。
魔女試験は、まだ続くから。
(得意な魔法が1つしかないからこそ、努力を続けないと……)
私は筆記試験に合格しただけで、魔女試験に合格したわけじゃない。
ここで喜びを爆発させて、次で躓くような失態を犯すわけにはいかない。
(努力を続けたら、魔女になれる)
でも、私の努力は報われることがなかった。
国立サーベルグ魔法学園の中庭で、魔女試験の結果が発表される。
淡い桃色の花びらが降り注ぐ美しい世界で、勝者と敗者が発表されることの残酷さを自分の身を持って経験する。
「おめでとうっ!」
「ありがとう」
合格者の中に、私の名前が並ぶことはなかった。
自分の名前が存在しない掲示板を見上げていると、自分の体から力が抜けていく。
(終わっちゃった……)
周囲には、魔女試験の合格を祝う同級生の姿。
この場には魔女試験に不合格の人たちも大勢いるはずなのに、私の視界に入ってくるのは魔女試験に合格した人たちの喜び溢れる笑顔。
魔女試験に落ちたのは私だけなのではないかと錯覚させるような幸福感ある空気から逃げたくなった私は、急いで合格発表の場を後にした。
「魔女試験の追試……?」
魔法と呼ばれる万能なる力に頼り切っている国は、魔女の数を増やしたい。
そこで、秀でた才能を持つ魔法使いを対象に魔女試験の追試を実施することを決めたらしい。
(時代が、変わり始めている……)
人生に一度しか受けることができない魔女試験。
古き時代に生まれた、永遠に変わることのない悪しき風習だと思っていた。
(その、転換期に立っているのが私……)
魔女は高貴なる存在として地位が確立され、将来の安泰が約束されるというのは世界の常識。
数多くの魔法使いの中から、より優れた女性魔法使いを選抜しなければいけない。
それだけ魔女試験は難易度が高く、多くの女性魔法使いが涙を飲んできた。
「よろしくお願いします」
幼い頃は、純粋に夢を抱くことができた。
不安も、戸惑いも、恐怖もなくて、ただただ夢を叶えることだけに意識を向けることができていたはずなのに。どうして、大人になると夢の叶え方を忘れてしまうんだろう。
(自分に、限界があることを知ってしまうから……)
努力を続けてきた自分を否定したくはない。
けれど、積み重ねてきた努力は私を魔女にしてくれなかった。
(どこかで驕ってた? どこかで努力を怠った?)
そんな自覚がなければ、そんな記憶もない。
生まれてくる不安も、生まれてくる戸惑いも、生まれてくる恐怖も、なんとかしてくれるのは赤の他人じゃない。それを理解しているのなら、自分を認めてあげればいい。
(結果の出ない努力に意味はない……)
それなのに、魔女試験に落ちたっていう現実は私の人生そのものを否定してしまう。
自分が努力を積み重ねてきたことは事実なのに、報われることのなかった努力に悔しさが込み上げてくる。
自分の生き方を全否定したくはないのに、報われない努力は私の人生を容赦なく否定するために襲いかかる。
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