第4話「待ち合わせ」
(追試が2人1組なんて聞いてねー……)
追試験に関する書類と地図は渡されたけれど、肝心の10日持つか持たないかの国から支給された金は相方に渡してあるという驚愕の事実。
(1人だと思ってたのに、相方が財布を握ってるとか……)
これはもう、必ず相方と合流しなければいけない流れだと悟る。
(俺はティアがいないと何もできないんだって!)
魔法学園時代は、俺が男だと知っている幼なじみのティアが女装魔法使い生活を支えてくれた。
(ティアには気を遣わせたよなー)
声変わりを迎える日のことを考えて寡黙キャラクターを貫いてきたけれど、それだけでは女装を守るのに限界はある。
ティアがいてくれたからこそ、自分は7年もの魔法学園生活をやり遂げることができたと感謝の気持ちは尽きない。
(それなのに、なんも挨拶できなかった)
魔女試験に合格したティアなら、俺の挨拶があってもなくても順風満帆な日々を送ることができる。幼なじみへの絶大な信頼を抱きながら、気を取り直す。
「名前は……」
国から指示された街へと向かう途中で、相方に関する書類に目を通す。
(ノルカ・ノーラ……)
どこかで見たことがあるような気もするけど、それがどこだか思い出せない。
(これが外の世界……!)
どこで相方の名前を見たのか思い出せなかった俺は、学園を出て初めて訪れるアステントと呼ばれる街の光景に目を奪われる。
(人だらけ……)
良い物を食べることで健康を育てる街アステント。
アステントは数えきれないほどの飲食店が立ち並んでいるところが売りでもあり、飲食店以外の店舗が存在しないのではないかと思ってしまうほど視界には飲食店しか入ってこない。
目の前にはテラス席が設置されている飲食店があって、開放的な空間で客は食事や酒を嗜んでいた。楽しく過ごす賑やかな光景が俺の高揚感を煽ってくる。
(おっ)
魔法使い独特のローブを纏う人物が視界に入り、そのローブは視界に映る人物が魔法を使えるということを俺に教えてくれた。
(あれがノルカかな……)
資格のある魔女と資格を持たない魔法使いを見分けるには、胸元にある任命バッチを確認するしか手段がない。
ほかにも魔法院から杖とかお守りとか、魔女だけに授与されるものはある。
けれど、実際に魔女と魔法使いを区別できている一般人はほとんどいないと思う。
(声が出せないのに、どうやってコミュニケーションをとるんだよ)
女装魔法使いに与えられた、最初の課題と言われれば最初の課題のような気もする。
この課題を乗り切らないことには、追試験への参加資格すら与えてもらえないってことなのかもしれない。
「あなた……」
が。
(何も案が出てないのに、見つかった……)
現実は、考える暇すら与えられないのだと学ぶ。
「あなたも魔女試験に落ちたの?」
魔女試験の追試に関する書類を彼女の目の前に提示し、なんとか自分の身分を証明する。
(男だから魔女になれないなんて言えねー……)
俺が声をかけた相手も、俺の顔には見覚えがあったらしい。
俺の顔を見て驚いたように一瞬だけ目を丸くしたけれど、すぐさま彼女の瞳は現実へと戻って来た。
「すごく優秀なのに魔女試験に落ちるなんて、今年はレベルが高すぎたってことね」
声で男だとばれるわけにいかないのに、彼女は俺に喋りかけてくる。
そして俺と同じく追試に関する書類を提示し、彼女の名前が改めてノルカ・ノーラであることを確認する。
「本当に寡黙な子なのね」
喋ったら、男だってばれるんだよ!
男は、魔女になれないんだよ!
男が魔女を目指している時点で、失格なんだよ!
そんな心の叫びも虚しく、ノルカは俺の顔を覗き込んでくる。
「仲良くしなくてもいいけど、一応は相方ってことを忘れないで」
言葉を発しない俺を咎めるわけでも責め立てるわけでもなく、ただ純粋そうな眼差しでノルカは俺の様子を伺ってくる。
不審に思われないように笑顔を作り込んではいるものの、だんだんと雲行きの怪しい顔になっているような気がしなくもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。