第3話「魔女試験追試」

「魔女試験って、人生に一度きり……」

「国は、なんでもかんでも魔女に頼っているのは知っての通りだ」


 学園長は俺の頭に、魔女帽子を無理矢理押し込むように深く被せてくる。

 これでは視界が塞がってしまい、俺は学園長の顔を見ることができなくなってしまう。でも、これが学園長であり、祖母でもある、この人の優しさだって気づいた。


「国はね、昔の時代に生まれた悪しき風習をどうにかして魔女の数を増やしたいんだよ」


 ある日、突然、男性魔法使いを認めてくださいと訴えかけたところで国は変わらない。

 それでも、魔法と呼ばれている万能な力を守り続けるために国も動いているんだってことを知らされる。


「秀でた才能を持つ魔法使いを対象に、国は魔女試験の追試を実施することを決めた」


 ばーちゃんは俺が被っていた帽子から手を離し、学園長への席と戻っていく。

 俺はもう一度、顔を上げる。

 下げていた視線を上へ向けて、祖母の方へと体を向ける。


「え!? 追試なんてしなくても、俺は魔女試験合格レベル……」

「追試で、男性魔法使いとしての実力を証明しろって言ってんだよ」


 学園長に歯向かおうとすると、学園長は学園長で次なる武器を用意してくる。

 でも、俺は怯まずに学園長と対峙する。


「国に、男の魔法使いが凄いってことを見せつけるための追試験だ」


 全世界の男性魔法使いの命運が懸かっている。

 大袈裟な話かもしれないけど、そんな大きな使命を与えられたような気がしてきた。


「魔女と偽って罪を犯す偽魔女」


 わくわくする。

 大きな使命を与えられたとき、よく使命感に駆られて心が押し潰されそうにならないよなーと物語を読みながら何度も想ったことがある。


「1年間で偽魔女を10人捕まえる。それが追試験の内容だ」


 でも、現実は押し潰されているどころの話じゃない。

 この使命を達成したくて、早く動き出したくて、どうしようもないくらい心臓が高鳴り出す。


「やる」


 改めて、視界が良好になるように魔女帽子を整える。


「追試験に参加する」


 学園長室の出入り口に向かうため、祖母を背にして足を動かす。


「1日そこらで10人も捕まえるつもりなのかい」

「え?」


 再び与えられたチャンスを活かすために足を動かそうとすると、学園長は現実的な話を俺に投げかけてきた。


「1年与えてやるんだ。金がいるだろ? 金が」


 俺は学園長室の出入り口に向けていた視線を、学園長が座る席へと戻す。


「国から支給される金は1人5万ネル」


 手を組みながら、淡々と現実の厳しさを語る学園長に背筋が凍りそうになる。

 1日そこらで10人の偽魔女を捕まえることができたら何も問題はないが、そんなあっさり偽魔女が捕まってしまったら、国は魔女の資格を持たない学生に逮捕協力を求めないということを悟る。


「実家からの援助は禁止……」

「待った!」


 学園長に苦情を言うため、勢いよく学園長の机へと迫る。


「その額だと、10日も持たないんですけど!?」


 そして学園長が使用している机を叩いて、生徒なりに学園長へ抗議を行う。


「生活できなくなったら、そこで追試験は終了だ」


 突きつけられた現実に愕然として、足の力が抜ける。

 最後の最後に必死の抵抗を試みるため、駄々をこねるように、その場へとしゃがみ込んで抗議の意を示す。


「魔女試験は仕事じゃない。金に不満があるなら、試験をやめるんだね」


 現実が優しくないことも、現実が甘くないことも理解していたはずなのに、改めて手渡された現実の厳しさに文句のひとつでも言いたくなってくる。


「魔女の資格がないと、魔法を使って金を稼ぐことができません」

「生活費を工面するまでが魔女試験だ」

「そこは特別に許可するとか……」

「1回でも魔法を使ったら、牢獄行きに決まってるだろうが」


 学園長に歯向かってみようと思うけれど、学園長の目つきは在学中も今現在も大変鋭い。


「国にいいように扱われているような気がしてならないんだけど」

「魔女の数が足りていないってことさ。とにかく国は人手が欲しいんだよ」

「へいへい……」


 学園長の鋭い視線に立ち向かうことを諦め、俺は再び学園長室の出入り口へと足を向ける。


「これを機に魔女の資格を与えてもらえるんだ。おまえもおまえで、国を利用してやりな」


 俺の背中に向けて、声を飛ばしてくる学園長。

 いや、この声質は学園長というよりは、ばーちゃんとしての声なのかなーという気がする。

 ドアノブに手をかけ、扉を開こうとする。

 でも、最後にばーちゃんに挨拶したいと思って、一旦学園長の方を振り返る。


「あとでやっぱり男はなしとか言ったら、ばーちゃんとは縁を切る!」


 扉を閉めてしまった俺には、学園長の顔を確認する術がない。

 けど、呆気にとられながらも、すぐに笑みを浮かべてくれているんだろなってことが想像できる。

 孫の成長を楽しみに待つ祖母としての顔があるからこそ、ばーちゃんは俺の女装生活に手を貸してくれたのだから。

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