Side-翔吾:覚悟の戦い

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「ケイ!……これをやる、まだ弾は入っているし、使えるはずだ……ラヴエルの装備にも換装できるはずだし、持っておいて損はないだろ!」


 そうも言いつつ、翔吾のクラッシュは……その肩部の大砲のうち1つを、あろうことかケイのラヴエルに向かって投げ飛ばした。


『おお……っ??……あ、ありがとう……

 で……もう…………出発する?』


「ああ、出発だ。……お前は前進でいい。こうもなっちまったなら、もう自分の安全だけを考えろ、いいな?」


『え、あ、うん……』


 ケイの気の抜けた声が続く。が、ケイのラヴエルは、今にも発進せんとスラスターを起動させていた。


『それじゃあ、5秒後に発進……でいいよね?』

「ああ! 早いに越したことはねえしな! さっさと発進してくれよ!」


 5秒の間の後———、


『ラヴエル、行くよっ!』


 そう言いつつ、ケイはラヴエルのスラスターを吹かし、前方へと発進を進めた。

 ———その頃。


「…………ああ。




 サイドツー・クラッシュ…………ブチ飛ばしてくぜ……っ!」














 ———クラッシュが発進したのは、あろうことか敵の方———後方だった。



『って……アレ、ショーゴ……?』


「……」


 無言にして、クラッシュは敵の方へと向かってゆく。しかし、中にいるショーゴは、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


『待って、ショーゴ? ショーゴ! なんで君だけ、後方に……!』



「……」



 本来なら、ケイと共に撤退すべきだ。しかしその状況を無視してまで、敵の方角に向けて発進し始めたショーゴには、とある1つの問題があったのだ。



「っぱバレるか、仕方ねえな……



 ……すまねえ、ケイ。ちょっと確認を忘れてたんだよ。



 ———俺のスラスター、さっきの光線で———


『なっ……?!』


 そう、ショーゴの腰部メインスラスターのうち、左側のメインスラスターは———さっきの神力光線に当たり、完全に使い物にならなくなっていた。


『待って、それじゃあ君は……!』


「ああ、その通り。


 ———なぁ、このスラスターじゃ」


『…………!!』


 ———そう、なぜもこう、無策にも敵の方角に向けて、ショーゴが向かい始めたか。その理由がこれであった。


 メインスラスター、その1つでも損傷したサイドツーに、もはや完全な航行能力が残されているわけでもなく。


 しかしその現実が、いざ間近に迫った時、ショーゴは……迷わずこちらを選んだ、ただそれだけのことだった。


『…………ねえ、待ってよ……待ってよ、ショーゴ!! 戻ってきて……くれ、ならその機体には僕が乗る、だから———!』


「いいや……こいつぁ俺が引き受けるんだよ」


『なっ………………何でっ! 君が行くことないじゃないか、何で…………何でだよっ!


 大体、わざわざそっちに行く意味なんて……!』


「敵の進行速度」

『えっ』


 困惑しか残されていなかったケイの声は、それは惨めなものだなと、ショーゴは思う。


「お前、見てなかったのか?


 ヤツらの進行速度は———サイドツーのスラスター噴射よりも、早い」


『———っ!!』


 その事実も見据えて。

 だからこそ、ショーゴは。


『でっ……でも、だから何なんだよっ!


 逃げ切ってみせるさ、僕なら……だからっ!』


「無理だな。仮にも上昇しようものなら、ヤツの光線に焼かれて終わりだ」


『それでも———っ!


 今すぐでいい、戻ってくれ、ショーゴ! 僕がそれで行く、だから———』


 そう言いつつ、ケイのラヴエルはその場で停止した。———が。






「テメェ! 何舐めた真似してんだよ、ケイッ!」


『…………っっ!!』


 その、今までに聞いたことのないショーゴの声の荒げように、ケイはたじろぐことしかできなかった。


「俺は言ったよな、自分の安全だけを考えろってっ!」


『でも、そのままだと君が———!』


「……」



『違う……違うんだ、僕なんかより……君が生きるべきだ、だから———!』



「……」


『だから戻ってきてくれよ、ショーゴッ!……君が、君がいたから、僕は———!』











「———無理だ」


『———っっ!!』


 そしてショーゴのクラッシュは、敵の第一波と相対した。


『なんでだよぉっ!……だって、だってショーゴには……ショーゴは、リコが好きで———』


「ああ、そうだったな」


 そうも冷静に語りながら、クラッシュの魔力砲によって、肉塊が一斉に消し炭にされてゆく。


『心残りは……心残りなんじゃあ、ないのかよ……ショーゴッ!』


「…………っっ!!」


『ね゛え゛っ゛っ!!!!』


「ぅうるせえっ! 黙れってんなら黙れよ、なぁっ!!!!」




 ———。


 この時、翔吾は本気で、ケイに対して怒っていた。

 ……本気、だった。



「心残りぃっ?!……っああ、あるさ、あるに決まってる!


 ———だけどな、それは誰だってそうなんだよっ!」


『———、』


「誰だって心残りはある! 愛する人の帰りを待ってるヤツ、逆に……帰ってみせると、思っているヤツにもっ!」


 前線においてショーゴは、その肉塊の大群に引けを取ることなく……未だに敵の最中を進み続けていた。


『じゃあ、何でっ!』


「お前にはねえのかよ、ケイッ!!!!」


『ぼ、く……は———』


「あるんだろ、テメェにもっ! まだ明日だって生きていたい、そう思う気持ちが!」


『君にも———』


「んなこたぁ分かってんだよっ!




 





 ———それでも…………俺は、選んだんだよ。









 ……お前が生きてる方が、いいって…………っっ!!」


『っっ!!』


 ショーゴの言葉に、ケイはどこか引っ掛かりを感じた。

 それはケイにとって、重荷でもあり……また、帰る理由とも言えるものだった。


『それ……は、僕に……しか、ヴェンデッタは……動かせ、ない……から……?』



「ああ———そりゃあ、そうかもな。










 でも、違え」



『えっ———』

















「お前の方が———の側に、相応しいからだよ、ケイッ!」


『え———』


 言い終えた直後、翔吾のクラッシュは敵の大群を突き抜けた。

 そして、その奥———今まさにこちらに向かって進行している、例の砲台の足下に迫りつつあった。



『ちっ……違う、だって僕は———!!』


「胸を張れよ、ケイ」


『っ!』







「お前は———もう。

 そんなことを気にする必要なんて、ないんだからよ。


 お前……なぁ、立派に謝って見せたじゃねえか……



 だからよ……それができるんなら、きっと……俺より上手く、生きれるはずさ」


『し……っ、ショーゴ…………ッ!』



 ケイの目からは、自然に涙が溢れ出していた。

 それもそのはず———ケイにとって、もはやショーゴは親友とも呼べる仲だったのだ。


 そんな友を、失うことを……ケイが良しとするはずもなく。だからここまで、呼び止めたと言うのに。




「それによ……俺は、後悔する選択だけは、したくないんだ。


 で、考えたら……これが俺の、最適解だったわけだ」


『…………っっ、ショーゴ……?』





「———ああ、だから俺は……コイツをやらなきゃ、先に進めねえ……っ!


 あの時、動けなかった自分にも……っ、」


 思い出される情景は、父が殺されたあの夜で。


「何もしてこなくて、後悔した自分にも……っ、」


 思い起こされる情景は、あの後悔に塗れた月の夜で。



「———決着を、つけられねえっ!」


 無駄死になど、許されないと———。

 

『ショーゴッ! ショーゴォッ!!!!』





「だから…………俺は———っ、









 魔力機関、最大出力……」





 砲台の足下にまで迫ったクラッシュ。

 既に、その大砲はヤツの元に向けられており。


「———っ、ブチ飛ばすぜぇぇぇぇえええええっ!!!!」


 そして、そこにて———最大出力の魔力大砲は、放たれた。





『待って……ショーゴ…………やだ、いやだよ、ショーゴ……ショーゴォッ!!!!』

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