謝りたいことがあって。

『コーラス7、聞こえるかコーラス7!』


 開いていたのは秘匿回線。2機以上で———とか言ってたが、それの誘いだろうか。


『こちらコーラス6。……ちょうどお前しかいなかった、一緒に後退願えるか?』


 ショーゴ……

 ……だめだ、やっぱり心残りなんだな、あの話。



「……ああ、分かった」


 ———と、その瞬間、スラスターを吹かした6番機が真横に降り立つ。


『背中合わせでスラスターを吹かしながら後退することにしよう……そっちの推進剤はどのくらいある?』

「あと……スラスター吹かしすぎたかな、半分しか無いや」



『なるほど、俺の方が多いか……


 ……こっちも砲撃戦主体のクラッシュだしな……よし、俺が後ろを引き受けよう』


「……いいの?」


『ああ。その代わり、進路を切り開くのは任せたぜ、ケイ!』


「ぅ……うん!」


 ———よかった、好意的に接してくれて。



『10秒後に発進といこう。……うまくついてきてくれよ、ケイ』


「ついてくるのは…………そっちだよ……」


『っはは、まあ……———いくぜっ!』


 2機、スラスター同時点火。

 ほぼ密接に背中を合わせながら、僕のラヴエルは前進し始めた。


『おらおらぁっ! 来てみろよ、俺のクラッシュは伊達じゃねえぜえっ!』



 ———心強いな、ショーゴが後ろにいてくれるってだけで。


 ……そうだ。


「……ショーゴ」


『おう、なんだ?』


「その……戦闘中にごめんだけど……謝らせて……ほしいんだ」


 戦闘は続いている。レーダーにも映っている通り、今ショーゴは背後の神話的生命体に向かって魔力砲を放ち続けている。


 でも、そんな中でも。


 例え迷惑だとしても、ここで言っておきたいことだったんだ。


『ったくよ、こっちの負担も考えずに……』


「ごめ———」


『いいぜ、好きなだけ吐いていきな』


 ……やっぱり、すごいよ、君は。


「謝る……って言ったけど、聞きたいことが…………あるんだ。


 ショーゴはなんで、あの模擬戦を開いたの?」


『なんでかぁ?……そりゃあ言ったろ、ただの気晴らしだって。


 お前がどこか悲しそうでな、景気付けにやっとこうと思ったんだよ。……ま、その原因の一端は俺にもあったわけだ……がっ!』


 ……違う、違うよ。……君のせいなんかじゃない、僕が…………僕が悪かったんだよ、なのに君がそんな……


 でも、やっぱり……気晴らし、だったか。なら…………



「……ありがとう。…………だからこそ、ごめん。


 僕は……最低なことをしたよ。仲間のことを使えないって口にして、リコにカッコいいところを見せる為に戦って……君の想いも、無下にして」


『……ああ』


「でも、気付けたんだ。それが間違っているって。それも……君のおかげだよ、ありがとう……ショーゴ」


『———気は済んだか?』


「え———」


 ……どこか、僕の発言が気に触れて———、



『お前はそれで、後悔してないか———って、聞いてるんだよ。


 で、どうなんだ?』


 ……話し方は変わっていなかった。怒っているわけでも、高揚しているわけがもない。ひどく落ち着いた時の、ショーゴの話し方だった。


「後悔は———うん、してない。


 もう……それが間違ってたって、気付けたから、何も」


『……なら、いいじゃねえか。謝る必要も、お前が根に持つ必要も、どこにもねえ。


 お前が間違ったまま、後悔することがなくって———よかったよ』





 ———、

『間違ったまま……後悔したくないだろ』

 ……


 あの時の、ショーゴの思い出話と同じだ。

 ずっと……ずっとショーゴは、そのことばかり気にかけててくれたんだ。


 …………僕は……

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