下準備
◇◇◇◇◇◇◇◇
『今から……戦場だね』
静かだったコックピットより、リコの声が聞こえる。
「———あ、あうん、確かにそうだね」
『気が抜けすぎじゃない?』
言われた通りだ。後、数十分後に僕たちは正体不明の敵と戦い始めるってのに、なんでこんなにも気が抜けているのだろう。
やはり実感が持てていないのか。
今から———殺し合いが始まると言う実感が。
『搭乗ライセンス承認、LOGIC OS、起動確認』
もはや聴き慣れた機械音声。
音声の鳴った瞬間、眼前の画面には真っ暗な景色と、その周りを覆うようにさまざまなアイコンだったりとインタフェースが表示される。
しかし一番着目すべきは右上のインタフェース。
円状のレーダー。しかし今回は、そのレーダーにいくつもの赤い点が表示されている。
その赤い点にはそれぞれ番号が振ってあり、今のところその点々は隊列を組むように綺麗に並んでいるが———おそらくコレは僕たち第0機動小隊のメンバーの機体をレーダーで表したモノだろう。
振られている番号は全部で18。僕はその内の7だ。おそらくコールもこれで行われるのだろう。
『各員、動作確認は済んだか?』
教官の声。言われてみればしていないと思い、急いでメインスラスターや腕を稼働させる。
……正常だ。
『……それでは出発だ。私に着いてくるようにスラスターをを吹かせて着いてくればいいだけの話だ、貴様らにとっては簡単な話だろう?』
そう聞こえた瞬間、ホース・アルビオンの、奥の方の格納庫の扉が開く。
この格納庫と滑走路はどうやら繋がっているようで、奥の方、前方に並んでいるサイドツーの隙間からはジャンプ台のようなモノも見えていた。
格納庫の隔壁の向こう側に見えるのは、整備士……のような、なんだか見慣れない服を纏った人が、片手で蝋燭……のようなものを振っている姿。
何の意味があるのかは僕にも分からない。
2列で並ぶサイドツーの列の最前列に1機だけ佇むサイドツー・ジンは、そのアンテナ……と呼ばれる魔力受信装置の大きさから見て指揮官機、ライ教官の機体と見て間違いないだろう。
指揮官機含め、どの機体も色は黒を基調として塗装されている。ただ、さっき少し見たが、僕のラヴエルだけは銀色だった。気を利かせてくれたのだろうか、少し嬉しい。
『———着いてこい、第0機動小隊。
我々が赴くのは戦場だ、死は当たり前だ、身構えていようともいなかろうとも、さも当然のように死は迫ってくる。
恐れるな、とは言わない。しかして諦めるな。生命の炎が燃え尽き朽ち果てるその時まで、決して諦めず、戦うことを絶対にやめるな。
———それがこの隊の絶対規則だ、分かったな?』
『「了解!」』
数秒後、サイドツーの隙間より、身振り手振りで何かを伝えていたあの変な服の人が、何やら姿勢を屈め、前方を指差しポーズを取った。
瞬間、ジン指揮官機はスラスターを吹かしながら発進、それに続いて後ろの列の機体も発進し始める。
———ようやくだ、ようやく、僕たちは戦場へと向かう。
何が待ち受けているかは分からない、僕の日常も、僕の命も、全てが今日で終わりかもしれない。明日から先は全て寸分先も見えぬ暗黒で覆われているかもしれない。
それでも構わない、諦めないこと、それだけを考えるのみだ。実感なんて湧かなくったって、それさえできればある程度は戦えるはずだ。
『目的地、西諸国連合直属真珠海監視用前哨基地! サイドツー、全機前進っっ!!!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます