士気昂揚
『———流石……だ、流石だな、第0機動小隊部隊長、セン。
……やはり貴様を隊長に選んで正解だった、それが貴様の覚悟と言うのなら———私はここで公言しよう』
「…………言うんですか?」
『士気昂揚のためにもそうしておいた方がいいだろう。もっとも、皆は混乱するだろうが、それでも心強いはずだ。
———では公言するとしよう、我が第0機動小隊部隊長、センは———かの魔王を倒した勇者のパーティ、『ワンダー・ショウタイム』の一員である』
……え?
いや、いや……え? 確かに、名前は同じ……なんだけど……
なら……なら、本当にそうなのだとしたら———、
貴方は別に、サイドツーに乗る必要なんて無いだろうに。
室内がざわつき始める、名前は一緒だ……としか思っていなかった人物がその実、英雄その人だったのだから、騒然とするのも無理はない。
『これで分かっただろう、この者を隊長にした理由が。
……ならばはっきりと言ってやろう。1年前、貴様ら全員の命を救ってみせたのが、このチンケな勇者様なのさ』
「チンケな、は余計です。……作戦概要説明を続けましょう、ライ教官」
いや、落ち着いて聞けるわけがないだろう。
目の前にいるのが本物の英雄ともなれば、さらにだ。
『……そうだな、皆が集中するかは分からんが、とりあえず説明はさせてもらおう。モニターに注目してくれ』
直後、モニターには地図のようなものが表示される。
画面右側の青に染まった地帯に、その地帯を左からU字に包むように広がる黒で染まった地帯。
その黒の地帯はオレンジ色の縁取りが描かれており、それがそれぞれの地帯の境界線と化していた。
『ここは西大陸真珠海沿岸、真珠海監視用前哨基地のある場所でもある。が、我々はこの場所に第一次防衛線を張る、と言うことになった』
防衛線、と思しきものが、入り江状の地図に赤い線で表示される。
海岸線からは少しばかり左に下がったところに、海岸線の形に沿るように線は続いている。
『先陣を切るのは、魔族や人間の罪人などで構成された『懲罰大隊連隊』と題されるサイドツー機動部隊、約1000機だ。その後に第0機動小隊が続くように応戦する形となっている』
たったの1000機とこの隊の10数機。兵力差は歴然、コレで10万の大群を抑えろと?
『いいか、サイドツーは固定された砲台でも、キャタピラ式で動く砲台でも無い、サイドツーは人型だ。人の写し身だ!
……だからこそ、サイドツーでできる戦い方は無限大だ。
戦力差は歴然———など、言われなくても分かることだ。だが我々には戦術がある! それに、魔術もだ!
……人の動きを、人よりも数十倍に強い力のもと行うことができる、そしてそれによる戦術が、我々を勝利に導くのだ』
……しかし、魔族も込みで構成された部隊の名前が『懲罰大隊』、か。
まさに今も残る魔族に対する差別を体現したような名前だ。
正直僕にとってはどうでもいい話だったが、ここまで身近に感じれる話を聞くことになるとは思わなかった。
『まず最初に———真珠海監視用前哨基地よりの魔力支援砲撃が行われる。その後に懲罰大隊らを先行させ、討ち漏らしたヤツらを貴様らが処理する、簡単な仕事だろう』
簡単な仕事———だと、よくもまあ言い切ってくれたものだ。
『当然ながら、近衛騎士のヤツらは王都の直接の護衛に回っている。
トランスフィールド諸国のヤツらも、兵力をこっちに寄越すには時間がかかりすぎるらしい。……あちらはあちらで、既に交戦しているようだしな。
味方軍の損耗率が危ういことにならない限りは、援軍も何もないと思え』
援軍はない。それでもやるしかないんだ。
『なお、今後このようなオリュンポスより現れた敵生命体のことを……神話的生命体———ミシカルオーガニズム、通称『
……思わず笑い声から溢れた一瞬だった。『牛かよ』だなどと聞こえてくる軽口が、どこか心の重みを和らげてくれた。
『この第0機動小隊の指揮官は私だ、今回ばかりは私も臨時でサイドツーに乗って貴様らと共に戦う。
本来なら近衛騎士の護衛の仕事があるのだが、今回ばかりはこちらにつけと言われたのでな。
……では各員、格納庫にてまた会おうではないか、30分までにサイドツーの動作確認等諸々は済ませておけ、いいな?』
『『了解!』』
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