出撃直前

◆◆◆◆◆◆◆◆


 ブリーフィングルーム1———僕たち第0機動小隊のメンバーが呼ばれたのはここだった。


 時間は18時14分、残り1分で何やら重大な話が始まるらしいが———まあおそらく、さっきリコが話していたアレだろう。


 皆の目の前には、黒に染まったモニターらしき何かがデカデカと設置してある。……一体何を表示させるつもりなのであろうか。


「に゛ゃ〜ごろごろ〜っ」


「おーうおう、猫の真似も結構似合うってもんじゃねーの?」


「……1人の女の子としては極めて不名誉なんですけど」


 ……リコとショーゴは何を話してるんだよ。

 いやまあ、確かにさっきの猫の真似は合っているとは思うけどさ。


 ……その他でも、雑音に紛れて、メンバーの会話が聞こえてきている。戦闘前ではあるが、むしろこの方が……和むし落ち着く。




『集まってはいる———な、よし、ならば話をしようじゃないか』


 部屋のドアを開けつつすぐさま話に入ったのは、皆の教官、ライさんだった。



『早速で悪いが、貴様らには戦闘をしてもらう。……それも、オリュンポスの歩兵———例の気色の悪い肉塊と……だ』


 もう僕は知っていたために驚きなどしなかったが、皆の顔には既に焦りや不安の色が見え始めていた。


「戦闘……

 まだロクな訓練すらしてないってのに、また戦争ですか、アンタたちは」


 落ち着いた声で、しかし怒りを露わにしながら立ち上がったのは、ブランだった。その後ろに座っていた秀徳とショーゴも立ち上がり、何やら文句を発している。


 訓練なんてロクにしてない———確かにそうかもしれないが、こういう非常事態のための即戦力としても集められた側面があるのだろう。何せ『第0機動小隊』なのだから。


 ならばこうなることは事前に予測がついていたはずだ。……少なくとも、僕はそうだった。


「そもそも、俺たちはあの地獄を生き抜いて、ここまで来たって言うのに、王都を守ったって言うのに———また、命を危険に晒せって言うのか……っっ!!」




「それ以上は…………話さないでほしい」


 その身に余る威圧感を持って突如話し始めたのは、この部隊の隊長———センだった。



「なっ……!」


「———今話していることは作戦の説明だ、僕にも君にも、この作戦に参加することに関しての拒否権なんて……最初から存在しない」


「———不当、だろ、そんなの……どれだけ俺たちを駒として使えば気が済む……!!」

「ブランの言う通りだと、俺も思うが」

「そーだそーだぁっ!」








「では、みんなの生き残った大切な人を守るのは誰だ?……


 大切な親や弟、親友、妻……ソレを守るために今から戦い始めるのは誰なんだ?




 …………答えなくてもいい、それは僕たちだ。


 戦わなければ何も守れない。トランスフィールドだって力を貸してくれはしないし、近衛騎士軍だって到着がいつになるかも分からない。


 それでも僕たちが今ここで戦わなければ、皆の家族も親友も何もかも守れやしないんだ。


 ……死にに行くようなものってのは、誰もが分かってる。






 ……それも承知の上でお願いだ、僕のために、みんなのために死んでくれ。


 責任を取るのも謝罪も何も僕にはできない、そんなことするための権力も何もかも、僕は持ち合わせちゃいない。


 ……だけどそれでもお願いだ、僕の、そして人類みんなのために……その命を散らす覚悟を決めてくれ」




 …………おかしいだろ。

 いくらなんでも、その年にしてその覚悟の決まりよう、とても人とは思えない。



『責任取れないけどそれでも僕のために死んでくれ』、そんなの僕には———というか、この場にいる誰もが、教官ですら言うのを躊躇ためらうくらいの言葉だろう。


 そんな重々しい言葉を彼は———セン隊長は軽々と、しかして熱く語ってみせた。


 一体何なんだあの人は、この部隊の隊長———なのはそうだが、それ以前に潜ってきた死線が、経験してきた人生がまるで180度も違うような感覚にさせられる。


 ———僕はあの人みたいな人を、他に知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る