ヴェンデッタ2号機
気の遠くなるほど長かった座学の時間が終わりを告げて2分。
まさかの呼び出しを食らってしまった、今日は模擬戦だのと色々疲れたからそろそろ眠って休みたいってのに……
『はじめまして、ケイ・チェインズ。
まずは自己紹介から入ろう。……私の名は、ライ・チャールストン。
人界軍の、近衛騎士団長———その片割れを担う者だ』
女性———ライさんは、その頭の仮面とも言える鎧を脱ぎながらそう口にした。
……聞いたことはある。レイさんと並ぶ片割れ、『人界軍の黒騎士』たる……ライさん。
『そして、貴様ら第0機動小隊の教官を務める者でもある。何せ、センのヤツが指導者とあっても、ヤツはあの中でも最年少クラスだからな……』
なるほど……教官とかいたんだ……
あ、それより……聞いてみたいことが……あったんだ。
「あの……」
『何だ?』
「ライって名前……レイさんに合わせて付けたんですか?」
『なわけあるか馬鹿者っ!』
……。
『そもそもな、レイのやつより私の方が先輩だ! 例の救世主———などとぬかしたガキと初めに戦ったのも、私だ!……まったく』
「あっ……はは、すいません……
それで、どういう話……なんですか」
強引に軌道修正。仕方ないと思う。
『貴様も薄々勘付いているのだろう?
———私が話に来たのは、ヴェンデッタ…………いや、貴様が乗った、『ヴェンデッタ2号機』についての話だ』
「……はい。
今度来るヴェンデッタの型式番号は、末尾が『1』でした。
でも、僕が聞いた、僕のヴェンデッタは……2号機だって……」
『その通りだ、今度ここに搬入されてくるのは、ヴェンデッタ……その1号機。
同じ魂を分かった機体であり、機動性に優れた2号機とは違い、重装性に優れた機体だ。
だが……まあ、貴様には伝えておいてもよいだろう。
ヴェンデッタ2号機———それがどこに行ったのか』
やはり、それだ。
『貴様の戦果は聞いている……
第一次王都防衛戦においての出撃はなかったが、新王都防衛戦においては、ヴェンデッタ専用装備『イグニッション』を装備し、イグナイテッド・ヴェンデッタとして出撃。
そのまま、敵神話的生命体を全滅……ドラグーン全機も撃墜し、しまいには強襲してきたヴェンデッタもどきも退けた、と……』
———もどき?
「ちょっと待ってください、ヴェンデッタもどきって……」
『ああ、あの黒いヴェンデッタだ。
あのような存在には、人界軍にはおろか、トランスフィールドや、基礎設計を行なった魔術世界のデータベースにすら…………ない。
そも、アレとの戦闘データを見るに……アレは…………
そもそもサイドツーですらない可能性が高い、とのことだが』
……そりゃあ、そうだ。
沈む武器。ヤツが持っていた、ライフルと思しきものは、ヤツの腕にそのまま沈んでいった。
その他にも、コックピットに人がいない……など、不明な点は多くあったが……
———そもそもサイドツーですらない?
『まあ、そんな敵のことは、今は置いておいて———だ。
そのヴェンデッタ2号機は、今……王城地下にて、修理を受けている最中だ。当分、誰も乗れはしないだろう。
そして、修理が終わったあと……実戦投入の際だが、その時に———貴様にパイロットを務めてほしい、ケイ・チェインズ』
「僕でいいんですか?」
というと、ライさんは少し小馬鹿にするように、鼻で笑って見せた。
『貴様でいいも何も、貴様しか乗れんだろう? あの頑固者はな』
「そうなん……ですか……」
『貴様以外が乗ると、システムの起動すらしない。ヴェンデッタ1号機とは大きな違いだ。
一応、レイのやつが乗った時には反応こそしたものの……リンクはできるだけで、本人の意思で操縦はできなかった……というより勝手に動いた……そうだ』
———じゃあ、一番最初に僕たちに接触したレイさんは……全く言うことを聞かないヴェンデッタに振り回されてあのザマだったわけなのか……
『だからこそ、貴様に頼みたい。いいな?』
返答には、困った。
やっぱり僕は、そんなもの……背負いたく、ない。
それでも、僕には……僕にしか、できないのなら……
それに、僕は決めたのだから。
「乗ります」
『……』
「僕は、ヴェンデッタの……パイロットです」
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