しかして。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「すいません……遅れました……」
「私も……遅れました……」
ニンナの部屋で話すこと数十分。もはや座学は始まっていた。
『8分遅れ、か…………
…………死ぬぞ』
部屋に入った瞬間、僕たち2人は前に立っていた女に睨まれる。
……何だあの人。何だって部屋でも鎧着てんだ……?
『……さっさと席に座れ。もう話は始まっているのだぞ』
「あっす、すいません……」
「ごめんなさい……」
空いていた席は、リコの隣———左の端っこと、右の端っこ……あそこはブランの前だ。
リコがこっちを向いて『ここ、ここ』と言わんばかりに席を指さしているが……違うな、多分アレはニンナさんに向けてだ、僕はあっちに座ろう。
———しかし、何者だ?……黒い甲冑に身を包んだ、レイさんみたいな話し方の女性。
見た感じ、トランスフィールドの人……じゃあなさそうだが……センさんは?
『次は、サイドツーについての話だな……』
———もう続ける気満々じゃないか。
……どうしよう、色々あって眠たい。……眠たいなんて感覚が、まだ自分にあったことが驚きだけど。
でも、座学に入った瞬間……無性に寝たくなる。
『今我々が乗っているサイドツーは、競技用として用いられていた第一世代サイドツー……通称『Mark.1』をベースに、より『汎用兵器』としての側面を強めたさまざまな改良が施されている。
手に持って装備した武装を即座に機体側と魔術的に繋がりを持たせ、小銃武装の残弾などをディスプレイに表示させる、なんていう機能も、この改良によって『実戦仕様』として追加されたものの1つだ。
サイドツーは基本的に、人間の動きをより巨大な身体で再現しようとする、強化外骨格的なコンセプトを元に作られているが、そんなサイドツーも人間とは1つ違う稼働部位がある、それはなんだ、セン!』
……うおっ、今まで
「…………はい、
センさん?!……そこにいたのね?!
しかもなんか……やっぱりすごいなあ、何であんなにビシッとしてられるんだろう。
『正解だ、流石は隊長、と言ったところだな。
……サイドツーの基本武装として、腰部に1対の『跳躍スラスター』、つまりは機体を浮遊させたり、より高度な機動を行うための推進装置が付いている。
もっと細かく言うとバーニアスラスターやらメインスラスターだのと色々あるのだが……
…………まあとりあえず、これは魔力を元とした推進剤を用いて、比較的短時間の飛行やより
……先程、ある者らがシミュレーターを用いて模擬戦を行っていたのだが、そこで感心したのはこのスラスターの使い方だった』
……え、僕たちのアレって監視されてたの????
『名前は伏せるが、彼のスラスターを用いた機動はなかなかに面白かった。空中での方向転換による俊敏かつ立体的な動き、流石は第0機動小隊のメンバーと言わざるを得ない素晴らしいものだったとも。
……話を戻そう、スラスターは機動性に重きを置いたモノだったが、先程上げられたジェットパック装備は違う。
ジェットパック装備は、同じく魔力式の機関を用いて、長時間の飛行による航空戦力としてのサイドツーの運用を考えられた装備だ。……まあ、こちらもバーニアスラスターと組み合わせれば機動性は確保できるがな。
まだ開発されてはいないが、空対地ミサイルが出てきた時にはこの装備が主流になる時がくるかもしれないな。
……さて次はサイドツーのOSについての話だ、あまり話す事はないが、まあ貴様らが困惑しないためにも話しておこう。
現行のサイドツー用のOSは、『
……まあ後述のあるOSとは違い、基本的な動きができるようになるためのものでしかない。皆が知っている通り、ワイヤーと操縦桿を用いた腕部の稼働などの制御を行ってくれている。
特徴……と言えば、機体の姿勢制御をある程度行ってくれる……ぐらいと言ったところか。
しかし現在開発中の『
これの1番のメリットと言えば、思考と実際の機体運用のタイムラグが少なくなる事にある。
ある程度は自分で動かすのだが、動かした機体をOS側が自らの思考を読み取って、その行動を演算、予測し補正してくれるのだそうだ。
その他にも、武装の簡易的な選択、サイドツーの指……マニュピレーターの正確な駆動……など、色々とメリットがある。…………まあ、サイドツーとこちらの神経を繋げる以上、脳にかかる負担は大きいが』
———ちょっと待った。
……アーシック……アーシック……って、ヴェンデッタのじゃんか!!
ようやく思い出したけど、どこに行ったんだ……僕のヴェンデッタ……?
『……はっきり言ってワケの分からない話だろう、私だって聞いているだけで耳が痛くなってくる。
開発者のブドゥー博士に直接聞いてみるのもアリだとは思うな、知る必要は無さそうだが』
ブドゥー博士、か……
お世話になることがあるかもしれない、覚えておいて損はないだろう。
『それで、なぜこの話を『困惑しないように』だとか言って上げたのかと言うと———、
———このOSを搭載した試験用の機体が、貴様らの下に実戦配備されるかもしれないからだ』
ガタッ、と皆の椅子が一斉に揺れる。文字通り激震が走る。
それまで長話を聞いて疲れ切って寝てしまったであろうチームメンバーも、今の発言には飛び起きるしかなかった。
AACIC……新OSを搭載した機体を、僕たちが操れる———未だほぼ全員が扱ったことのない、一段上の機体を操れるチャンスが、他でもない僕たちにあるという事実。
……まあそんな事実に一番目を輝かせていたのは、もうお察しの通り……
「ハイハイ!!!! その機体いつ来るんですか!!」
……ついさっきまで、完全に眠りかぶっていた副隊長、リコだった。
……でも、分かるよな……それが何か、って……
『いつ……近日中、としか言われていないな……
型式番号『ST-V-01』、機体名は『ヴェンデッタ』で、白銀の装甲を纏った機体……としか聞いていない。
……そもそも搭乗者すら決まってない、全ては搬入されてからのお楽しみ、と言うワケだ。
———だが…………既に乗った者がいるらしいな……?……あえて名前は出さんがな』
…………
『ヴェンデッタ2号機———』
僕が乗ったアレは、確か2号機だったはずだ。
だったら今度来るのは、僕が乗ったことのない……1号機?
「あ〜ヴェンデッタねハイハイ……
(こっちは腐るほど見たっての……)」
リコの小言が面白い。残念ながらそれがここまで聞こえている時点でアウトだ。
…………新OSの試験運用……つまりこの小隊は、試験小隊としての運用も兼ねたものとなっているのか?
確か教官は最初らへんに『手本となるような』だとかなんとか言ってた気もするし、そういう意味も含めたものだったのかもな……
『……さて! 貴様らが眠くな〜る座学の時間は、コレで終わりとする!
これからはまたまた各自自由時間だが……
……ケイ・チェインズ!……貴様はこれが終わった後に私のもとに来い、以上だ、解散!」
……ん?
ケイ・チェインズ……って、僕……呼ばれた?!
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