惨め、でも。

「リコが……って、なん……で……」


『話したんです……話されたんです、いっぱい……いっぱい……! なのに……ぃっ!』


 僕の身体は以前倒れたままだった。……が、その上にニンナが覆い被さってくる。まるで、追い詰めるように。

 

 いかがわしい雰囲気など、ことこの場においては、微塵も。


『なんで貴方は……そんな、自分はどうだの、好かれないだの、性能が、人格が、だなんてっ!』


 ———こぼれ落ちてきたものは、これもまた涙だった。


『そんなの……まだ、リコさんの口からも聞いていないってのに、何でっっ!!』


「ぐっ……!!」


 その胸を掴まれ。しかし震えていたその腕の力は、さほど強いものではなく。


『じゃあ……私はなんなんですかっ!……もう、ショーゴさんに……私を好いてもらえることも、ないってのに……ないのにぃっ!!!!』


 殴りかかられるものの、それすらも痛くはない。


『愛される……可能性だって、あるんですから…………っ……





 ———だから、だったら…………そんなこと、言わないでくださいよっ!!




 …………何で、自分が、愛されないことなんて……分かってる…………っのに、そんなの、見なきゃ……いけないんですか…………っっ!!』





 ———そうだ。こんな姿、もう誰にとっても、示しがつかない。


 何だよ、ほんとに。何なんだよ、僕は。こんな被害妄想を押し付けて、それで———終わりか? そんなもので、僕は……こんな、ことを……


『英雄なら、救ってみて……くださいよ…………こんな、私を……私を…………っっ!!


 惨めだなんて、分かってますよ……こうやって、貴方に理想を押し付けることも、自分勝手なんだって…………そんなの、分かってるんです、知ってるんですよ、そんなの……っ!



 ———でも、もう……色々と、おかしくなりそう、なんですよ……みんな、みんな死んで……自分も、死ぬかもしれなくって……っ!


 なのに、希望は……せめて希望の光すら、見せてくれないって言うんですか、ねえ…………ねえっっっっ!!!!』



「———」



 違うんだ。英雄なんか、そんな存在なんかじゃない。


 僕だって失った。僕だって怖かった。それがどれだけ嫌で、どれだけ希望を求めたか。


 希望が欲しいのは……僕の方だよ。だって、だから……こうして、縋って、みっともなく。



 僕はそもそも、英雄なんかじゃなかった……ただの、ただの一般人なんだ。


 だから……僕は『希望』なんかじゃない。


 ———でも、誰かの目には……僕は希望に、そして英雄に映っていた。



 その事実は、僕が受け止めて、そして受け入れていかなきゃいけないって、分かってた。

 


 一体、どれだけ惨めなんだよ、今の僕は。




「僕…………は…………どう、したら、いいんだ……?」


『———っっ』


「何が、僕の……正解で、何が、正しくて……」


 違う。そんなこと聞いたって意味はない。

 なぜかというと、あっちも分かってはいないんだ。



『…………』




「……ねえ、僕は———」


『……』


「僕は……もう少し…………



 ……惨め…………でも、何、でも……



 ……気楽に生きたって、いいのかな……」



『———、
















 馬鹿ですよ、貴方は…………っ。




 ———でも……




 …………素直なのは、変わらずで…………いて、ください』

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