僕に、僕なら、できること

「うおおおおおおおおっ!!!!」


 ある程度の高さまでその機体を押し出した後、ブースターを反転させ、着地行動をとった。


 ……そうだ、サナさんには近づけさせない。



「うおおっ……流石は……すごい機動してるよね、ホントに……」





『ケイ! 大丈夫なの、貴方も戦うって———』


「…………大丈夫……じゃ、ないと思います。…………でも、やらなきゃダメだ、って、思ったから———」




『…………そう。

 なら……うん。無事を祈るわ。生きて帰ってね、ケイ』


「…………はい!」


 発した瞬間、3機もの黒い機体から銃弾が放たれる。


「…………っっ!」


 だけど、僕のこの機動について来れる者はあまりいない。それを分かっているからこそ、僕はこれを回避するための行動に出た。


「うわわわっ、ベルトなしじゃ、結構キツイなぁ……酔っちゃうかも……」


 だけど、このままじゃ攻撃ができない。武器もない、競技用に調整されたオペレーティングシステム。どうやって勝てばいいのか。



「一か……八か。使ってみるか、僕の———魔術」


 僕の魔術。あまりにも下手すぎるものだ。使えるものは、風属性魔術と、サナさんに教えてもらった氷魔術。


 ならば、これで武器を作る。大きさ故に魔力の消費も激しく、そしてイメージするのも大変だ。


 だけど、それ以外に道がない。



 刺突武器は無理だ。ヤツの強固な装甲を貫くすべを持たない。ならば打撃武器。


 イメージだ、イメージ。魔術はイメージだ、師匠に何度も言われた言葉だ。

 イメージでできた『型』に、魔力の液を流し込む。そして———完成だ。


「はあああああっ、ふんっ!」


「うええっ、魔術?! すごっ!」


「ちょっと少女は黙っててっ!」


 ラヴエルは天を見上げる。魔術で編み出された、巨大な氷槌ひょうついを手に。


「行く……ぞっ!」


 今、ラヴエルが持っているのは、あまりに巨大にして重量のある氷の槌。故に、腕の操縦桿にかかる負荷も尋常じゃない。

 

 負荷をオフにもできるが、そうしたらラヴエルの動きと腕の動きが合わなくなる。だったら、このままの方がマシだ。



「でえええいっ!」


 氷槌を横に振りかぶる。ヤツらにはもちろん回避された。あまりにも振るのが遅すぎる。

 ……でも、これは1撃目で終わらせるものじゃない。




 この時、ラヴエルの噴出ブースターの1つは下に向いていた。もう1つは横。

 このブースターを吹かせばどうなるか。


 この時、氷槌は振りかかった遠心力を失ってはいない。だからこそ、そのままの力でヤツらに浴びせてやる。


 そのための……機動だ。



 一瞬の方向転換、一瞬にして行われる機体の反転。無論、掛かる負荷は凄まじい。でも、僕なら耐えられる———!!


「りゃあああああああっ!!!!」


 一瞬にして体勢を変えたラヴエル。その視界の先には、高速で移動した氷槌に押し潰される黒い機体が見えていた。


「やった、1機!」



「———ちょっと?! まだ後2機残ってるよ?!」


 だが、その子の言葉に気付いた時には遅かった。後ろのモニターには、既にこちらに銃口を向けていた機体が1機。それに、まだ控えてるもう1機もある。


 

 終わっ———、



『…………フリーズクリスタルッ!』


 その声が響いた瞬間、背後の機体の腕より氷が突き出た。


 まさか。サナさんの氷魔術か!


「っあ、ありがとうございますっ!」

『やればできるじゃないの、ケイ! 礼はいらないから、もう1機の方に専念して!』


「あ…………分かりましたっ!」


 一度ブースターを用いて、そのもう1機より距離を取る。

 ヤツの両手には、そのサイズに見合った巨大な銃。当たるところに当たれば、流石に即死も免れ得ないものだ。


 だからと言って、ヤツに立ち向かわない理由にはならない。


「何をしに来た……何をしに来たんだああああっ!」


 やることは変わらない。この氷槌を、ヤツの頭に当たるのみ。

 ヤツの発砲。だがしかし、その1つ1つを見分ける……ことは難しいが、それでも避けることはできる。


 どこに狙ってくるか。そのくらいは分かるから。




 ———何のために、戦闘用シミュレーターをやったと思っているんだ……!!


「ぐがあっ……っぅ!!」


 肩部被弾……!! ダメージ表記は、メインモニターにモロに映るのか……邪魔だ!


「それでも……勝てるっっ!」


 最後の一瞬、加速してヤツを叩き割る———!!


「でりゃあああっ!」


 氷槌を振り下ろした瞬間、それはヤツに直撃。すぐさま場から離れた瞬間、その機体は爆発して空に散っていった。



「…………っは、勝った…………勝った、んだ、僕……」


「…………すっ……ご〜……」


 実感が持てない。それはサイドポーツ決勝戦もそうだったが、この時も同じだった。



 そうか。やっぱりコレが、僕のできることだったんだ。

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