出撃———。

 瞬間、氷の壁の向こうから、煙と衝撃が吹き荒れる。その瞬間に、一瞬のみの安寧は崩れ去った。


 その中より現れた、一筋の光。そして、その巨体。


「サイド……ツー?」


 サナさんはその巨体をサイドツーと称したが、アレは多分サイドツーなんぞじゃない。


「黒い、サイドツー……でも———」


 その黒い機体は、既にこちらに銃口を向けており。その持っている銃が発砲された瞬間、銃弾はサナさんの展開した半透明な魔力障壁に阻まれた。


「……ヤツは、敵ってこと……っ!」


 そうだ。僕達に発砲した以上、ヤツはおそらく敵だ。あんな機体見たことも聞いたこともないし、おそらく……どこかの勢力だろう。


 これではっきりした。ヤツらは何らかの組織だ。この惨劇は、間違いなく……人が引き起こしている。



「……ケイ、サイドツーに、あのグリントラヴエルに乗りなさい」

「え———」


「乗りなさいっっっっ!!!!」


「———っ、」


 何かを言い返そうとした。その瞬間、再度ヤツからの銃撃が挟まれる。


「っ、あぐぅっ!」


 銃撃に直接当たったわけじゃない。が、サナさんの腕より血が吹き出た。


 ———まずい。


「…………っっ、早く……乗りなさい…………早くっっ!」




 よろけ、倒れかかるサナさん。が、こちらを見上げながら発したその言葉に———僕は無意識のうちに反応してしまった。








 僕はそのまま、脇目も振らずに銀色のラヴエルに乗り込んだ。

 何も解決していないのに、何もかもを振り切ったような爽快感があったのは、印象深いことだった。


「スタートアップ、サイドツー・ラヴエル」


『搭乗ライセンス承認、LOGIC OS、起動確認。サイドツー・グリントラヴエルモデル、システム起動。


 搭乗者———ケイ・チェインズ。


 取得中……メインモニター表示』



 視界が開けた。やはり銃撃が続いていたが、サナさんはそれをものともせず、迫り来る黒い機体に対して氷魔法を放ち続けていた。


 ———だが、1機ソレを倒したところで———、


『うそ……まだ来るわけ?!』


 今度は天井に風穴が空いた。いくつも空いた風穴の上にいたのは、3機ほどの黒い機体が見えていた。


 ……まずい。このままじゃ、サナさんが……



『ケイ! 貴方が一番危ないんだから、早く逃げて! ここは私が何とかするから!!』



 でも、その顔に余裕はなかった。



 サナさんの生身の実力は、実は高いわけじゃない。むしろ本当に低い。魔術以外、何もできないか弱い少女———だったんだ、おそらく。


 既に腕に一撃喰らっている。ヤツの銃弾というわけではないが、それによって破損した破片による傷。


 その傷をマトモに受けているというのに。あの人が、必死に戦っているというのに。


『っ、うわあああっ!』


 上空より爆炎が降り注ぐ。一瞬にして、格納庫内は戦火に包まれた。



『…………ケイ……ケイ! 早く…………動きなさい…………よっ!


 生きる……チャンスが、あるのに……何の罪も、背負っていないのに……! なのに、何もしないなんて…………そんなの、私は絶対に許さないんだから……っ!』


 その目には、涙が流れていた。信じられない。何でこんな僕のために、涙を流してくれていたのか。







 ……でも、そうだ。

 僕は最低な人間だ。ここに来て、師匠まで巻き込むなんて。








 ……でも、そうだ。

 動ける。まだ、機体がある。

 できることは、僕にも———。




『———っっ!!』


 爆音と共に、上から瓦礫と、その黒い機体が降ってくる。







 今しか、ないんだ、僕は…………

 僕の唯一誇りに持てること……それは———それこそ———!






「ほら、色々言われてるよ?」


 ———え?


 そのの声は、下から。


 握り締めた操縦桿のすぐ下……そこに、淡藤色の髪を覗かせていた



 ……え?


「な…………っ、ななな……っ!」


 ……誰だこの人。僕はこんな人知らないぞ。


 僕たちのチームにいたわけでもなかったのに、何でこの子はこのラヴエルに乗ってるんだ?!


「ほ〜ら〜、早く行かないとまた怒られちゃうぞ〜?」


「え、いや、は、え? あ、あの……誰……?」


「私のことはいいからいいからっ! さ、サイドツー動かそ? 何なら私が動かそっか?」


「いいいいや、だから、貴女は一体誰で———」


「今はそんなこと関係ないない!

 …………さ、行こ? ケイ君…………いや、ケイ・チェインズ……だっけ?」



 ———はい?

 名前が覚えられてる? 僕はこんな人に会った覚えもないし、名前を教えた覚えもないぞ?


 授賞式もやってないんだ、名前がバレてる可能性なんて少ない……じゃあ何で僕の名前を知ってて…………?



『ケイ、何してんのよ! 早く逃げてってばあ!』


 そのサナさんの言葉によって、ようやく僕は正気に戻った。

 ———そうだ、今まさに、上空から敵が来ている……!


「ちくしょう…………っ、


 サイドツー、ラヴエル…………動けぇぇぇぇぇえええええっ!!!!」




 もう、なんでもいい。


 両腕のトリガーを押し倒した瞬間、僕のサイドツーは、降りてきた敵機の体を空へと押し出した。

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