勝利の中で。
「アンタ……ケイ、すごいじゃないの本当に!!
ほんっとに……サイドツーの才能だけはあるのね、貴方……」
そんなこんなで試合後。勝利の余韻を残した空気の中、サナさんは僕のことをベタ褒めしてくれた。
……嬉しいな、この人に褒められるのは。どんなことであろうと、僕は常にこの人の後ろ姿を見てきたばかりだから。
「あ……………ありがとう、ございます……」
「別に、照れる必要はないのよ。むしろ胸を張るべきなの、だって貴方は……勝ったんだから。
……私だって、自分のことのように嬉しいわ。
だって、アレだけ何もできないって嘆いてた貴方が———ことサイドツー操縦においては、トップクラスの才能を発揮できるなんてね……
まあ……うん、よかったじゃない。誇れることができて」
「……はい」
「元気……なさそうね。どうしたの?」
サナさんは心配そうに、俯いた僕の顔を下から覗きに来る。が、その喜びに満ちた空色の目を見つめようと、僕の中のモヤモヤが消えることはなかった。
「いや…………なんか、上手くいきすぎてるな、って思っただけです」
「うまく?」
「…………今までの人生、何にも、上手くいかないことばかりで。
でも、今回はずっと上手くいってばかりで、実感が湧かなくって…………」
「…………誇りに思っていいのよ。別に恥とするべきことでも、道を踏み外したことでもない。貴方は今、貴方自身の才能でそこまで来ているんだから。
だから、今のうちにその喜びを実感しておくことよ。人生ってのはね、その喜び以上に、苦痛に塗れたものだから」
……こんな言葉が日常的に、普通に出てくる師匠なんだ。
どんな人生を送ったかなんて、一緒に冒険したわけじゃない僕は分からないけど、それでもその言っていることに説得力があるんだって、信じ切ってしまう僕はいたんだ。
『あ、おい見ろよ、アレ!!』
『優勝賞品のラヴエルじゃねーか!』
『銀色の塗装……渋いな、優勝賞品にしては』
僕たちのいたサイドツー整備庫……その奥に、たった今運ばれてきた機体。
それこそ、僕たちのチームに贈られる優勝賞品の機体、銀色の特殊コーティングのなされた機体、ラヴエルであった。
ラヴエル。関節を共通規格化、脱着に適した仕様にすることにより、非常時でもすぐに四肢の換装が可能なのが強みな機体なのに、アレじゃ換装したら終わりじゃないか。
コーティングのない機体の四肢と交換したら、もう元々のコーティングなんて意味ないんじゃないのか。
『しっかし、やっぱ首なしのってのキツいよなーー』
『銀色の塗装ね……むしろ首なしの人型のデザインだから映えてる気もするんだけど』
「サナさん、あのラヴエル、チームでどうしておくんですか?」
サナさんはチームリーダーだ。いくら勝利に導いたのは僕とは言え、あの賞品機体の行く末を決めるのはサナさんだろう。
「ラヴエル?……ああ、アレね……記念だから使うの勿体無いし、しばらくチームの格納庫に放置しといて、金が足りなくなったら売っ払えばいいんじゃない?
使ってコーティング剥がれましたとか、壊れて交換しましたとか嫌でしょ? 見栄えが悪くなるだろうから」
「格納庫……って、あんなボロ倉庫に収容しとくんですか……?」
「雨風に晒すよりマシよ。それに、優勝賞金のレメル金貨も入ってくるんだから、倉庫はそれで色々と改修すればいい話。
……それか、アレは即時売っ払うか。……でもしばらく眺めておきたいでしょ?」
「で、ですね……もらった瞬間売るとか、確かに何か虚しいですもんね、はは……」
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