私の仲間は…

@Rui570

私の仲間は…

 ここは我々が住んでいる世界とは全く異なる次元にある異世界。この異次元世界で農業を営んでいる九堂家に一人の少女が生まれた。少女は蘭と名付けられた。これは、蘭が自分が住んでいる世界でもある異次元世界を守るために戦う物語である…。




 誕生から16年。蘭は自宅の広い庭でサツマイモやキャベツ、ニンジン、キュウリ、ジャガイモなどさまざまな野菜を両親と共に収穫をしていた。

「高校から帰って来たばかりなのにいつも手伝ってもらっちゃってありがとうね。」

「いいよ。私も入りたい部活とか特にないし、こっちの方がやりやすいから。」

蘭は母親に答えた。

「ところで蘭、高校を卒業した後ってどのような感じで考えているんだ?卒業まであと2年あるから、まだ決まっていないならまだ決まっていないって言ってくれればいいんだけど、どうなのかな?」

収穫した野菜の入った籠を運びながら蘭の父親が質問する。

「一応私は大学に進学したいんだけど、お父さんやお母さんがこの農業の手伝いをやってほしいと思うのなら農業の手伝いをしたいんだ。」

「そうか。それなら農業の手伝いは大丈夫だ。」

「そうよ。人を雇ったりしてこの農業はどうにかするんだから、自分のやりたいことをやればいいのよ。」

「でも、農業の手伝いも私にとってやりたいことの一つだから。」

 どうやら蘭は農業以外にもやりたいことがあるようだ。ただ、それを口にしていないため、なんなのかは分からない。




 その日の夕方のこと。蘭は自宅の自分の部屋で宿題をやっていた。

「最近、ドラゴンみたいな顔つきをした怪物たちが町に現れて人を襲っているとか聞いたけど、このままだと私の家の農業も危ないかもしれないな。」

どうやら蘭は家族と実家が営んでいる農業を守りたいと考えているみたいだ。

「蘭、夕飯できたから降りてきなさい!」

下の階から母親の声が聞こえてきたので蘭は階段を駆け下りていった。




 1階の台所。2階から降りてきた蘭は席に着く。テーブルにはサツマイモが入ったカレーが3人分並んでいる。

「このサツマイモはさっき収穫したサツマイモだぞ。」

「早速使ったんだね、お父さん。」

「そうだよ。その今日収穫したばかりのサツマイモを母さんが作ったカレーライスに入れてみた感じだ。」

蘭の父親が笑顔で言って席に着く。

「それじゃあみんないただきましょう。」

蘭の母親も椅子に座る。

「「「いただきます!」」」

蘭はスプーンでサツマイモやキュウリ、トマト、ナスなど様々な野菜が入ったカレーを頬張っていく。

「すごい…!めちゃくちゃおいしいよ、この野菜カレー!」

畑で収穫したばかりの野菜が入ったカレーライスを食べて蘭が声を上げる。そんな蘭を見て蘭の父親と母親は優しく微笑んだ。

 この時、蘭はまだ何もわかっていなかった。これから起こってしまう悲劇のことを…。いや、悲劇だけではない。その悲劇によって、戦いの道を歩んでいくことになってしまうこともまだ何も知らない…。




 ある日の昼頃。この時、蘭は高校の教室で一人の友人と二人きりで話をしていた。

「最近、邪龍人とかいうドラゴンみたいなやつらが人間を襲っているんだって!」

「それ、最近ニュースで結構やるようになったよね。」

蘭が友人にそう言う。

「怖いね、それ。その邪龍人の目的って一体何なんだろう?」

「分からない。でも、とにかく最近何人か犠牲者が出ちゃっているから私たちも気を付けないとね。」

「蘭のうちって農業をやっているとか聞いたけど、それっていつも外でやっているの?」

「そうだね。畑仕事だから外じゃないとできない感じだね。」

蘭はクラスメイトの友人にそう答えた。

「じゃあちょっと、気を付けた方がいいよ。」

「そうだね。帰ったらお父さんとお母さんにもそのことを話さないと。」

その時だった。

ガシャーン!バリーン!バリバリーン!

遠くから飛んできた何かが教室の窓ガラスをぶち破って教室に入ってきた。ドラゴンのような顔つき、背中から生やした翼、手足の指先から生えている鋭い爪、口から飛び出ているギザギザした牙…。しかも、二足歩行で歩いている。こいつは一体何者なんだ?

「人間…どうやら俺たちの噂をしているみたいだな…」

ドラゴンのような顔つきをした二足歩行の怪物はそう言うと、両手の爪を伸ばした。今にも襲いかかってきそうだ。

「こいつよ!こいつが邪龍人よ!」

蘭と友人たちは悲鳴を上げながら一目散に教室から逃げ出した。

「逃がさんぞ…人間どもぉ!」

邪龍人と呼ばれたドラゴンのような二足歩行の怪物は近くで震えている高校生たちに爪を突き刺し、殺害し始めた。




 蘭たちが廊下を駆け抜けていきながら上げている悲鳴は校舎の1階にある職員室にも聞こえていた。

「騒がしいな…。一体何をしているんだ、自分のクラスの生徒は……?」

蘭の担任を務めている白いジャージ姿の体育教師が不思議そうに思いながらも廊下に出る。すると、職員室の横を全速力で駆け抜けていく蘭とその友人たちの姿があった。

「おい、コラ!君たち、騒がしいぞ!それに廊下を走っては駄目じゃないか…。職員室の近くで騒ぐのは辞めなさい!」

「先生、ドラゴンみたいな姿をした変な怪物が窓ガラスを粉々にぶち砕いて教室に入って来たんです!」

「ドラゴンみたいな姿をした変な怪物?窓ガラスをぶち砕いて教室に入ってきた?何バカなことを言っているんだ、君たちは?」

どうやら蘭たちの担任を務めている体育教師は邪龍人のことを何も知らないようだ。

「先生、最近ニュースとかで出ている邪龍人とかいう変な怪物が教室に出たんですよ!どうにかしてくださいよ!」

「ハッハッハ!あんなの作り話に決まっているだろ。だいたいテレビを見たりとか漫画を読んだりとかゲームとかやりすぎたりしているからそうなるんだよ、君たちは。わかったらとっとと帰って宿題やるなりしなさい。」

担任の体育教師がそう言った直後だった。

「俺はしっかりとここにいるぜ…」

担任の体育教師が振り向くと、先程のドラゴンのような怪物が立っていた。邪龍人だ!

「う……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」初めて見る怪物に担任の体育教師は悲鳴を上げた。

ドがッ!

「うわぁ!」

担任の体育教師は突如現れた邪龍人に殴られ、廊下で仰向けになって倒れてしまった。

「フフフフフ……」

邪龍人は蘭とその友人たちに近づいていく。蘭は突然の出来事に驚きのあまり、腰を抜かしてしまい、逃げることができない。いや、逃げるどころか立ち上がることすらもできない。その気力すらも失ってしまったのだ。

(もう駄目だ……。私の人生はここで終わっちゃうんだ…。お父さん、お母さん……………ごめんね…私はもう……死んじゃう……)

蘭がそう思った時、邪龍人の背後からこっそり近づいてきた何者かが背中を殴りつけた。しかし、邪龍人はびくともしない。それどころか金属バットが折れ曲がってしまった。やったのは先程、邪龍人に殴り倒された蘭たちの担任を務めている体育教師だった。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

金属バットが折れ曲がってしまっても諦めようとしない体育教師は腕を掴む。

「俺の生徒に手を出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

邪龍人は体育教師を再び殴りつけるが、体育教師は怪我を負いながらも何度も立ち上がる。

「九堂君、君たちは早く逃げるんだ!」

「でも、先生は…」

「馬鹿野郎!生徒を守り、守り抜いた生徒に未来を託す……それが自分たち教師のするべき仕事だ!」

そう言うと、体育教師は折れ曲がった金属バットで向かっていく。

「先生、絶対に助けますから!」

そう言うと、蘭は友人たちと共に校舎から走り出していった。

 蘭とその友人たちの担任を務めている体育教師は蘭を見届けると、再び邪龍人に視線を向けるが、その時には邪龍人の手指から生えていた鋭い爪が迫っていた。

グサッ!

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

爪が体育教師の胸部に突き刺さり、体育教師の悲鳴が響き渡る。出てきた血によって全身を覆っていた白いジャージが赤く染まっていく。

「抵抗しなかったら…お前は奴隷になるだけで死ぬことはなかったのに…残念だったな…」

「いや……こ……これで……これで……いいんだ……自分の生徒に……こ…………これからを……託すこと……が………できた……から……」

蘭とその友人の担任を務めていた体育教師は満足そうに微笑んだ。

「あ……あとは…た、………頼んだ……ぞ………く……九堂………く……ん……うう……」

蘭たちの担任を務めていた体育教師は弱々しい声でそう言うと、空を見上げた状態で口から血を吐き、静かに目を閉じたのだった。

「愚かな人間だ…。まぁいい。愚かな人間どもはいずれ我ら邪龍人に歯向かうことになるからなぁ。あいつらもろとも八つ裂きにしてやる…!待っていろ…光…!人間を皆殺しにし、貴様を悔しがらせてやる…!」

邪龍人は冷酷な笑みを浮かべると、背中から生やした翼を羽ばたかせて空へと飛び立った。それにしても、光とはいったい何者なのだろう?




 担任の体育教師が自分たちを守ろうとして邪龍人に戦いを挑み、命を落としてしまったことも知らずに蘭とその友人たちはただひたすら走っていた。その一方で考え事もしていた。なんとか学校からは逃げ出すことはできたものの、これから私たちは一体どうすればいいのか全然分からない。

「ねえ蘭、私たちこれから何をすればいいの?」

「それは分からないよ。これからどうすればいいのかを逃げながら一緒に考えようよ。」

蘭は冷静にそう言うが、蘭の友人は落ち着きがない。

「このままじゃいつの日か殺されちゃうよ!」

「落ち着いて、紀子。パニックになりそうなのは私も一緒だけど、こういう時こそ冷静さを保ってこの後のことを考えればきっと大丈夫だから。」

蘭にそう言われながらも紀子と呼ばれたポニーテールの少女はなかなか落ち着かない。

「早く逃げないと私たち死んじゃう!」

紀子は走り出す。

「待って、紀子!」

蘭も紀子を追う。

「突然のことにパニック状態になっちゃうのは仕方ないとは思うけど、こういう時に単独行動は流石にまずいよ!」

蘭は両手を紀子の両肩に回すが、紀子は蘭の手を振りほどいた。その拍子に蘭は尻餅をつく。「私は絶対に生き残るために逃げたいの!だから、邪魔しないでよ!」

紀子は蘭に向かって怒鳴りつけると、そのまま走り去ってしまった。

「紀子…私は一体どうしたら……」

その時だった。

「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

紀子が走り去っていった方から紀子の悲鳴が聞こえた。

(紀子の声だ…。まさか……!)

ひょっとしたら邪龍人に襲われたかもしれない。もしそうでなかったとしても何かがあったことには間違いない。助けに行かないと!

 蘭はパニック状態に陥り、一人で自分勝手な態度を取って走り去ってしまった友人紀子の元を目指し、走り出した。




 邪龍人の出現、そして襲撃によってパニック状態に陥ってしまい、自分勝手な単独行動をし始めた紀子は走り出した直後、行き先にいた邪龍人と鉢合わせをしてしまっていた。

「来ないで!私は絶対に…生き残りたいの!何があっても生き残らないと駄目なの!」

「ほう…それなら俺たちのところにお前の仲間を連れてくれば俺たちの仲間にしてやってもいい。どうする?拒否するなら今からここで八つ裂きにするまでだがな。」

その言葉を合図に2体の邪龍人が紀子の背後に舞い降りた。

「さぁ、どうする?もしも殺される道を選んだとしてもあの世で仲間に会えるぞ。」

「私は……私は……」

腰を抜かしていた紀子はゆっくりと立ち上がると、正面にいる1体の邪龍人を真っ直ぐ見つめた。どうやら決心はついたみたいだ。

「返事はこれよ…」

まさか裏切るのか?それとも裏切らずにその場から逃げ出すのか?

邪龍人たちが緊張し始めた次の瞬間、そこへ、一人の人間が走ってきた。

「紀子、大丈夫?」

九堂蘭だ。

「蘭!」

紀子は蘭に向かって駆け寄ると、背後に回り込む。

「紀子、大丈夫?一緒に逃げよう!」

その時だった。紀子は背後から手を伸ばし、蘭を拘束。突然の出来事に蘭は驚きを隠せない。「紀子、これは一体どういうこと?」

「悪く思わないでね、蘭。私が生き残るためだから。」

紀子は自分自身が助かるために友人である蘭を裏切り、邪龍人側に寝返ったのだ。これはもう人間を辞めた邪龍人といってもおかしくはないだろう…。

「紀子、あなた…」

先程まで行動を共にしていたクラスメイトでもあった友人を蘭は睨みつける。

「悪いわね、蘭。生き残りたくて必死になっている友達のために……犠牲になりなさい!」ポニーテールの美少女は冷酷な笑みを浮かべると、正面にいる3体の邪龍人に視線を移して大声を上げた。

「何をもたもたしているの⁉さっさとこの女を八つ裂きにしなさい!」

紀子の突然すぎる過激的な行動に3体の邪龍人たちは驚きながらも翼を羽ばたかせ、宙に浮きながら突進していく。

「悪いけど、私だって生き残りたいから!」

蘭は自分を含む人間を裏切り、人間を襲う邪龍人側についた元友人であるポニーテールの美少女をの腕を振りほどき、肘打ちを放った。

「うぅっ……」

強烈な肘打ちを受けた紀子は苦しそうに膝をついた。紀子が怯んだ隙をつき、蘭はその場から全速力で走り出した。邪龍人たちも突然すぎる行動に対応しきれず、紀子とぶつかって地面に転がってしまった。

「あと少しで作戦が成功するはずだったのに……」

蘭を裏切った紀子は立ち上がりながら悔しそうに声を上げる。次の瞬間だった。

 グサッ!

紀子の腹部を邪龍人の1体の手指から伸びた爪が貫通した。それによって、血が滴り落ち、地面ににじんで地面が赤く染まっていく。

「そ…そんな……ど……どうし……て……」

紀子は苦しそうに背後にいた邪龍人たちに視線を向けながら膝をつく。

「お前は用済みだ。まぁ、どっちにしろ人間は皆殺しにするつもりさ。お前のようなすぐに騙されて友人までも裏切ってまで生き残ろうとするクズもな。」

邪龍人は元から紀子を仲間にするどころか生かしておくつもりもなかったのだ。

「そ……そんな………ど………どうして…………私は………ただ……………生き残りたかった…………だけ………なの………………に……」

蘭と和解したふりをして裏切り、邪龍人に売って生き残ろうという作戦も失敗し、挙句の果てには邪龍人に騙されていたことも知り、背後から爪で突き刺されてしまった紀子もとうとう力尽き、その場で動かなくなってしまった。

「短すぎる間だったが、今までご苦労だったな…人間のクズが…ハッハッハッハ!」

邪龍人たちは笑い声を上げながら翼を羽ばたかせて、大空へと飛び立っていった。




 なんとか紀子と邪龍人たちから振り切った蘭だったが、先程まで行動を共にしていた友人によるまさかの裏切りにショックを受けていた。

「紀子があんなことをするなんて……。やっぱり信じられない…。でも、生き残るために私を邪龍人に本気で売ろうとしていた…」

だが、今は友人による裏切りに悲しんでいる場合ではない。蘭はこの後どうすればいいのかを考え始めた。考えていた矢先、脳裏に自身が住んでいる家と自身の両親の姿が思い浮かびあがった。

「そうだ。お父さんとお母さんと一緒に逃げないと…!」

蘭は自宅に向かって走り出した。

 自宅を目指して走っていく蘭の近くを一人の人物が歩いていた。青く染めた髪に胸部を覆う銀色のプロテクター、額に巻かれた赤いバンダナ…。年齢は10代後半から20代前半くらいだろうか。その青年の上空を邪龍人が飛んでいくのが目に入った。邪龍人は蘭が走っていった方向と同じ方向に向かって飛んでいく。

「邪龍人…見つけたぜ…」

そう言うと、青年は蘭と邪龍人を追って走り出した。

 この青年は一体何者なんだろう?そして、この青年の目的も一体何なのか?




 全速力で走っていき、蘭はなんとか自宅の近くまで来た。

「よし、もうすぐで家に着く。もうひと踏ん張りだ!」

家に到着するまであとほんの数メートル。蘭は足を急がせた。

「えぇっ⁉ウソでしょ…⁉なんなの、これ⁉」

 自宅に到着した蘭を待っていたのは信じられない光景だった。畑が荒らされ、家も壊され、廃墟のように朽ち果てている。

 まさか邪龍人たちが先回りして襲ったのではないのか?お父さんやお母さんは無事?

蘭の頭を最悪のシナリオが思い浮かんでしまった。その時、廃墟のようになってしまった家から二人の人物が出てきた。

「お父さん!お母さん!」

蘭は出てきた二人の人物がすぐに自身の両親であることがすぐに分かり、すかさず駆け寄った。だが、父親も母親も様子がおかしい。蘭が二人に手を伸ばし、あと少しで届きそうになったところで二人は地面に倒れ込んでしまった。

「お父さん!お母さん!一体何があったの⁉」

二人は血を流して倒れている。

「蘭……今すぐ……ここから…逃げるんだ……」

「何を言っているの…お父さん…」

蘭は父親が言っていることを理解できない。でも、分かっているのは明らかに普通ではないということだけだ。蘭の父親が動かなくなった直後に、母親も口を開いた。声も弱々しくなっている。

「このままでは……奴らに………あなたまでも……殺されるわ……」

蘭の母親はそう言い残して動かなくなってしまった。

「フフフフフ……次はお前がこうなる番なんだよ…」

壊れかかった廃墟のような自宅から2体の邪龍人が現れた。今の蘭には逃げる体力なんてない。

「ごめんね、お父さん、お母さん。私も……もう……」

蘭が死を覚悟した時だった。

「君、伏せるんだ!」

背後から若い男性の声が聞こえた。言われた通り蘭は地面に伏せると、一人の若い男性が伏せている蘭の頭上を横切り、手にしていた剣で2体の邪龍人を一瞬で切り裂いてしまった。邪龍人を一瞬で倒した若い男性は蘭の方を向く。

「奴らの仲間がまたここに来るかもしれない。」

「あの…突然出てきてあなたは一体何者なのか教えてくれない?」

しかし、青年は蘭の右手を握って走り出す。

「悪いけど、その説明は俺たちの隠れ家でじっくりさせてもらう。今はまず逃げるんだ!」

「う、うん。わかった。」

見知らぬ男性に助けられた蘭はその男性を見て頬を赤らめながら見つめた。




 自身の命を救ってくれた謎の青年に連れられ、蘭は森の奥へとやって来た。

「もうじき俺たちの隠れ家に到着する。こっちだ。」

謎の青年はツタをどけて進んでいき、蘭も青年に着いていく。歩いてくと、なん本ものツタが上から伸びている。

「ここら辺がめちゃくちゃツタが伸びているけど、切ったりとかしなくて大丈夫なの?」

「これはわざと切らないようにやっているから大丈夫だ。というか切らない方がいいぜ。」

「えっ?切らない方がいいってどういうことなの?」

「このツタを切ると、俺たちの隠れ家が邪龍人たちに見つかってしまうからな。ツタでできたカーテンで隠れ家につながる道を隠しているんだ。」

髪を青く染め、額に赤いバンダナを巻いた謎の青年は蘭にそう説明した。

「もうすぐ着くぜ。」

ツタでできたカーテンをどけると、正面に洞窟が現れた。洞窟の奥は真っ暗な闇に包まれているため、洞窟の中がどうなっているのかは何も分からない。

「この洞窟の奥に俺の仲間たちがいる。ついてきてくれ。」

洞窟の中が真っ暗で蘭は怖くてたまらなかった。今にも何かが飛び出してきそうだと感じたからだ。

「どうかしたのかい?」

気がつくと、蘭は自分でも気づかないうちに、命を救ってくれた恩人でもある青年の右手を握っていた。

「あっ…!…ご、ごめんなさい…!」

蘭は顔を赤らめながら手を離した。

「いや、全然大丈夫だ。怖ければ無理して強がらなくていいさ。」

そう言うと、青年は出会ったばかりである一人の美少女の右手を握って、引っ張りながら歩き出した。蘭も歩きながら命を救ってくれた謎だらけの青年の左手を握り返す。

(この人…一体何者なのかはよく分からないけど、強いだけじゃなくて心優しいし、かっこいいな…)

蘭は頬を赤らめながら青年についていった。

 この時、蘭もこの謎の青年も何も知らなかった。邪龍人たちと戦う中でさらなる悲劇が起きることを…。




 洞窟の奥へと進む蘭と謎の青年。そこには25人ほどの人々がいた。みんな剣や銃、槍などといった武器の整理をしている。

「光、その女の子は一体誰なんだ?」

「彼女は邪龍人に襲われて、家族を殺されてしまった。家も破壊され、邪龍人に殺されそうになったところを助けてここに連れてきた。」

光と呼ばれた青髪の青年は声をかけてきた中年の男性に答えた。中年の男性は納得したのかうんうんと頷きながら弓矢の整理を再開する。

「申し遅れてすまない。俺の名は神道光。この人類反乱軍のリーダーを務めているんだ。年齢は20歳だ。よろしくな。」

髪を青く染め、額に赤いバンダナを巻いた青年は自己紹介をする。それに対し、蘭も自己紹介を始める。

「私の名前は九堂蘭です。高校一年生で16歳です。よろしくお願いします。」

蘭は光だけでなく、近くで武器の整理をしている人々にもお辞儀をした。近くで武器の整理をしている人類反乱軍のメンバーたちはにこりともせず、真顔でこくりと頷くだけだった。「ところで邪龍人というのが最近、私たちの町で人を襲っているということ以外何も分からないんですけど、奴らは一体…」

蘭が光に聞く。光は近くの椅子に蘭を座らせると、自身も近くの椅子に座って持っていた剣を近くに置き、説明を始める。

「邪龍人というのは太古の昔、この世界でドラゴンから人型へ進化した怪物だ。目的は全人類を滅亡させ、世界を支配すること。あいつらはかつて一人の勇者によって封印されたのだが、その封印の際に使用された封印の剣の力が弱まってしまって、現代に復活したんだ。」

邪龍人が太古の昔に誕生したことを初めて知った蘭は驚きを隠せない。

「奴らは俺の家族を殺した…。父さんも…母さんも…妹も…!」

「家族を殺されてしまったのは私も一緒だよ。こうなったら、もう一度奴らを封印の剣で封印すれば…というか封印しちゃおうよ!」

蘭がそう言うと、光は蘭に自身が愛用している剣を見せた。鍔の部分についた宝石が青白く弱々しく光っているのが見える。

「これがその封印の剣さ。本来なら青く輝いているが、青白くなっているののがわかるか?」そう言われて蘭は頷く。

「これは奴らを封印するための強いエネルギーがなくなってきている証拠だ。この状態ではもう、奴らを封印するのではなく、斬り倒すことしかできないんだ。切れ味はいいけど、封印することはできないから、面倒だ。」

光の説明を黙って聞いていた蘭もようやく口を開く。

「封印ができないなら、みんなで協力して戦えばきっと……」

「いい心がけだな、お嬢ちゃん。」

声の聞こえた方を向くと、緑色の槍を持った金髪の男性が近づいてくる。年齢は10代後半から20代前半くらいだろうか。

「雅人…」

「ちょっと言いたいことがあってな…」

光に雅人と呼ばれた金髪の青年は剣の横に槍を置いて蘭の方を見つめる。

「お前の心がけは素晴らしい。感動的だな。だが、君に奴らを倒すことなんてできるのか?」たしかに蘭は邪龍人と戦った経験は何もない。あるとしたら走って逃げているだけだ。邪龍人との戦闘の経験ではなく、邪龍人からの逃走の経験の経験しかない蘭は何も言えない。

「邪龍人というのは簡単に倒せるもんじゃないんだぜ。それだけは覚えておきな。下手したらお嬢ちゃん、死んじまうかもしれないぜ。」

それを聞いて蘭は怖くなった。

「戦いに身を投じるのなら覚悟で決めな。戦いに参加することになったら勝って生き残るか、負けて死んじまうかのどちらかだからな。」

「雅人、あんまりきつく言うな。こういう経験がある人達は比較的少ないはずだから。」

光は雅人に注意すると、蘭の方を向き直る。

「雅人の言う通り戦うには覚悟と勇気がいる。俺も君に協力してほしいとは思ったけど、別に無理して戦いに参加しなくていい。だから、これに関しては今ここで決めてくれるかい?」

そう言われた蘭は考え始めた。確かに邪龍人と戦うのは怖い。でも、このまま邪龍人たちを放っておいたら、多くの犠牲者が出てしまうだろう。それだけでなく、生き残ることができたとしても家族や友人などといった大切な人々を失ってしまった状態で生き残るという哀しき人々も出てしまうだろう。

「今日から私、みんなのために人類反乱軍のメンバーとして頑張ります!」

ついに邪龍人たちと戦う決意をした九堂蘭は大声を上げた。その声を聞いて人類反乱軍に所属する人間たちが一斉に蘭の方へ視線を向ける。

「私は…邪龍人に襲われた。それと同時に家族を……恩師を……友人を失ってしまった。そんな私みたいな人々が二度と出したくない。そして、明るくて平和な未来を掴み取りたい!したがって、私は人類反乱軍のメンバーとして今日から頑張ります!よろしくお願いいたします!」

大声でそう言うと、蘭は頭を下げた。

「なるほど。いいだろう…」

そう呟くと、光は蘭の隣に立って周囲にいる反乱軍に所属する人々を見回す。

「今日より九堂蘭を人類反乱軍の新たなるメンバーとして迎える…!異議のある者は?」誰も何も言わない。どうやら異議なしという解釈でいいだろう。光は蘭の方を向いて右手を蘭の左肩に置く。

「蘭、よく聞いてくれ。今日から君は人類反乱軍のメンバーだ。俺たちと共に頑張ろう…!」「はい…‼頑張ります‼」

蘭も笑顔で答えた。この一瞬が人類反乱軍のメンバーとしての人生の始まりでもあり、邪龍人との死闘、そして悲劇の始まりに過ぎなかった…。




 翌朝。蘭は光にたたき起こされた。

「蘭、起きるんだ。もう朝だぞ。」

「ん…もう…朝かぁ…」

起き上がった蘭が近くに置いてあった時計を見ると、時計はまだ5時となっている。

「まだ5時じゃん…。もうちょっと寝かせてほしいよ。」

「何寝ぼけたことを言っているんだ⁉邪龍人たちはいつどこで人を襲うのか分からないんだぞ!だから早く起きて見回りをしなくちゃいけないんだろ!」

光の隣に雅人が現れて、寝ぼけている蘭にきつく怒鳴りつける。

「落ち着け、雅人。彼女はまだ入ったばかりの新人だ。それに、戦いとか朝起きた後の見回りとかの経験なんて未経験だって昨日知ったばかりだろ。彼女のことなら俺が面倒みるから、君はいつも通りやっていてくれ。」

「ああ。わかった、いつも通りにさせてもらうぜ。」

雅人は槍を取りにその場から歩き去っていった。

「あと、蘭はまだ入って間もないんだからあんまりきつく言わないで、優しくしてくれよ。」光は遠ざかっていく雅人の後ろ姿にもう一声をかける。

「はいはいはい!わかったわかった!」

本当に分かっているのかな?いや、分かっていなさそうだな。

光はそう感じたが、雅人が怒ってしまうと感じ、あえて口にはしなかった。だが、蘭にこれだけは伝えないと。

歩き去っていった雅人の後ろ姿を見届けた光は蘭の方に視線を向ける。

「ごめんな。草野沢雅人は本当はめちゃくちゃ優しくていい奴なんだけど、邪龍人に家族を殺されてから気性が荒いんだ。そんだけ邪龍人を許さない気持ちが強いっていう証拠だよ。」「そうなんだ。雅人さんも…邪龍人に家族を…。」

私も光君や雅人さんと同じように家族を邪龍人に殺されてしまったんだ。邪龍人…絶対に許さない!それに、私以外にもこのような悲しい思いをする人を出さないように、光君や雅人さんたちを見習って、平和な未来を掴み取らないと!

「私も頑張らないと…!」

そこへ、光がご飯やみそ汁を乗せたお盆を運んできた。

「朝飯を持ってきたから食べてくれ。朝起きたら飯を食べたその後に見回りだ。」

それを聞いて蘭は部屋のベッドの近くの椅子に座り、朝ご飯を受け取り、食べ始める。その横に座りながら光が声をかける。

「この後俺と二人で見回りに行くけど、見回りに行く際には武器を必ず持って行かないと駄目なんだ。もしも見回りをしている途中に邪龍人と遭遇したら戦うことになってしまうかもしれないからな。」

「言われてみれば確かに。もしも戦いになった時に武器がないと、邪龍人に応戦することができないもんね。」

蘭は朝ご飯を食べながら返事をする。

やがて、朝ご飯を食べ終えた蘭はお茶碗とお盆を片付けようとする。

「食器とかを片付けたらそのまま見回りの準備に取り掛かろう。まずは見回りに行くために自分が持っていく武器を選ばないとだ。」

「分かった。でも、その武器ってどこへ行けば選べるの?」

「武器庫がある。ついて来てくれ。」

光の言う通り蘭はお茶碗などを乗せたお盆を運びながら光の後をついていく。




 食器などを片付けた蘭は武器庫へとやって来た。武器庫には弓や矢、剣、槍、盾、鉄球、ハンマーなど様々な武器が並んでいた。

「それぞれ個性があるのがこれら武器のいいところなんだ。初めてのうちは色々使ってみて、それからどれが自分にとって使いやすいのかを決めてほしいと俺は思うんだ。」

蘭は先端が三又になっている細長い槍を持ち上げた。

「トライデントか。これなら最大3体の邪龍人を刺し貫くことができるな。うまくいけばの話だけど。」

蘭はトライデントと言われた三又の細長い槍を見つめると、すぐに置いてその隣に置かれている赤い剣を持ち上げた。

「これはドレインソードだな。邪龍人を斬りつけると同時にその邪龍人の魂を吸収して破壊力を上げていく凄まじい剣だ。人間が相手だと効かないから、そこを気をつけないとだけどな。とにかくこれは邪龍人相手だとかなり凄まじい武器だと俺は思うぜ。」

「へぇ。これちょっと使ってみようかな。」

蘭はドレインソードと言われた赤い剣を気に入ったようだ。

「その剣は強くなるたびに使いこなすのが難しくなっていくが、修行をすれば大丈夫なはずだ。安心してくれ、蘭。もしも君がやばい状況に陥った時には、僕が君をサポートするからな。」

「ありがとう、私も頑張るよ、光君。」

見回りの準備は整った。さぁ、出発だ!




 隠れ家でもある洞窟から出た蘭と光は町の方を歩き出した。相変わらず人や車などでにぎやかで、何の変哲もない平和な町だ。

「気をつけてくれ。邪龍人の中には人間に擬態することができる個体が一部存在するんだ。」「人間に擬態する能力?そんなこともできるなんて信じられない!」

「ああ。中には俺たちからその能力を使って俺たちに気づかれないように人を襲ったり、あるいは俺たちに気づかれないように人間のふりをしながらこっそり不意打ちを狙ったり、逃げようとするやつらが代表的だ。」

光が人類反乱軍のメンバーになったばかりの蘭に説明を終えたばかりの頃、黒いコートを羽織った一人の男性が光と蘭にこっそり近づいていた。しかし、蘭と光は全く気づいていない。黒いコートを羽織った男性はニヤリと冷酷な笑みを浮かべると、ゆっくりと二人に歩み寄っていく。その男性の右手から鋭い爪が伸び、太陽の光で反射してキラリと光る。この鋭い爪を生やしているということはもはや人間ではない!人間に擬態した邪龍人だ!

「人類反乱軍…終わりだ…」

邪龍人が擬態した黒いコートを羽織った男性の右手から伸びた鋭い爪が二人に迫る。蘭に鋭い爪が突き刺さりそうになった次の瞬間だった。

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

苦しそうに悲鳴を上げて倒れたのは蘭でも光でもなく、黒いコートを羽織った人間の男性に擬態した邪龍人だった。右腕が完全に切り落とされている。

「終わったのはお前の方だったな。」

そう言ったのは光だった。光は邪龍人が黒いコートを羽織った男性に擬態し、後ろから不意打ちを仕掛けて殺そうと企んでいることを既に気づいていたのだ。

「ちくしょう…なぜ……わかった……⁉」

「なぜわかったかだって?答えはこれさ…!」

光は太陽の日光によって映っている影を指さした。

「お前が邪龍人の武器である手指から生えた鋭い爪を出している時、影が変化したのが見えたのでね。」

それを聞いて蘭は納得する。

「なるほど。流石だね、光君。」

「邪龍人はいつどこから俺たち人類反乱軍や人間たちに襲いかかって来るのかは分からない。だから、周囲をよく用心することが必要だな。今のがその証拠だな。」

「おのれぇ…」

光に剣で右腕を切り落とされてしまった邪龍人は反撃しようとするが、身体が思うように動かない。ゆっくり立ち上がろうとした瞬間、光が剣を胸部に突き刺した。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

光の使用する剣は邪龍人の胸部を貫通している。光はそのまま刺し貫いた剣で邪龍人を真っ二つに切り裂いた。これにより、邪龍人の一体は死亡した。

 光が邪龍人を一瞬で倒した光景を目にし、蘭は驚きの表情を隠しきれない。

「す……すごい…!あの邪龍人を一瞬で…!」

「どうだい?君も邪龍人と遭遇したり、邪龍人に人が襲われているのを見かけたりしたらこういう風に邪龍人と戦ってもらいたいんだ。OK?」

「うん。でも、私には…」

人類反乱軍のメンバーになったばかりで今日が見回りをすることが初めてである蘭はやっぱり不安そうだ。

「まあ…最初の方は俺が一緒に行動するから、リラックスして望んでくれれば大丈夫だと俺は思うよ。」

「うん。ありがとう、光君。」

「次はちょっと蘭も邪龍人と戦ってくれ。俺もサポートに回るからな。」

「分かった、やってみるよ。」

次の瞬間だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」「キャアァァァァァァァァァァァァァァァ!誰かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」「誰か助けてくれええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

近くから大きな悲鳴が響き渡った。その悲鳴を聞き、蘭と光は目を合わせて頷くと、悲鳴の聞こえた方へと走り出した。




 蘭と光が走り出した先では二人の若いカップルが邪龍人を怯えた表情で見て後ずさりしていた。邪龍人はカップルを見て冷酷な笑みを浮かべると、口から飛び出しているギザギザした牙をむき出しにして突進してきた。

「まずい、こっち来る…!逃げろ!」

カップルは手をつなぎながら逃げ出すが、彼女の方が転んでしまう。

「大丈夫か?」

彼氏が転んでしまった彼女に肩を貸して逃げようとするが、邪龍人がすぐ近くまで来ているから、こうなってしまったら間に合わない。もう駄目かと思った次の瞬間だった。何かが横切り、それによって邪龍人は跳ね飛ばされた。その近くで一人の美少女がしゃがんでいる。人類反乱軍の新たなメンバー・九堂蘭だ。

「ここは私たちに任せて、お二人は急いでここから逃げてください!」

「は、はい。」

「ありがとうございます。」

カップルは蘭にお礼を言うと、その場から急いで逃げ去っていった。

 カップルを逃がした蘭を立ち上がった邪龍人が反撃する。反撃を受けて蘭はよろけてしまうが、すぐに起き上がって昨日武器庫で選んだ赤い剣・ドレインソードを構える。

「よくもやってくれたわね!絶対に許さないんだから、覚悟しておきなさい!」

そう言うと蘭はドレインソードを構えて向かっていく。

「はぁっ!」

蘭は目の前にいる邪龍人めがけてドレインソードを振りかざすが、斬撃はなかなか当たらない。よって、蘭はの表情が焦りへと変わっていく。

「あれ?何で当たらないんだろう…?」

「フフフ…下手くそが…そんなへなちょこな攻撃でこの俺が…俺たち邪龍人がやられてたまるかぁぁ!」

邪龍人が強烈なミドルキックを与え、ミドルキックを受けた蘭は勢いよく跳ね飛ばされてしまい、背中を打ち付けてから倒れてしまう。

「どうしたどうした、この程度かぁ…かかってこい、小娘!」

邪龍人は鋭い爪を伸ばし、きらりと光らせると、そのまま飛びかかっていった。手指から伸びた鋭い爪が今にも蘭に突き刺さりそうだ。

「おっと、俺もここにいることを忘れては困るねぇ…!」

何者かが邪龍人の爪を剣で受け止めた。光だ。

「蘭、まだやれそうか?」

「もちろん。できるに決まっているでしょ?」

そう言って蘭は笑いながら立ち上がる。さぁ、反撃開始だ!

 光は真っ先に剣で斬りかかり、邪龍人が光の剣を右手の指先から伸びた爪で受け止める。「もらった!」

蘭が横から飛びかかり、ドレインソードを振り下ろした。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

予想外の攻撃を受けた邪龍人は苦しそうだ。

「今だ!」

蘭は大ダメージで動けない邪龍人にドレインソードを叩きつけていく。その度に赤い剣が少しずつ赤く光り始めていく。どうやら邪龍人の魂を少しずつ吸っているみたいだ。

「おのれぇぇぇ……」

蘭のドレインソードの斬撃を受けた邪龍人は苦しそうに膝をついている。

「よし、とどめだ…!」

蘭がブラッドソードを振りかざそうとした時、ブラッドソードが重く感じて蘭は変な方向へ剣を振りかざしてしまった。

「あ…あれ?急にどうして?」

その光景は光だけでなく、邪龍人の目にも焼き付いていた。

「へへへ、ラッキーだったなぁ…俺…!」

そう言って立ち上がった邪龍人は蘭に強烈なアッパーカットを放つ。

「うわぁぁぁ!」

アッパーカットを受けた蘭は宙に浮き、後ろに回ってからうつ伏せに倒れ込んでしまう。「そんな……こんな…ところで…」

蘭の意識が遠のいていき、やがて気を失ってしまった。

「形勢逆転だな…」

邪龍人が気絶している蘭に両手の爪を突き刺そうとしたその時、光が爪を剣で受け止める。「蘭、ちょっと使わせてもらうぜ…!」

光は蘭のドレインソードを拾い上げると、二刀流で応戦。

「そんなおもちゃで俺に勝てると思っているのかぁぁぁ!」

邪龍人が両手の爪を振りかざした。光は敵の鋭い爪を二本の剣で受け止め、そのまま右足でミドルキックを放った。

「ぐぅ………」

ミドルキックが脇腹に直撃し、邪龍人は苦しそうに膝をついてしまう。

「もらった!」

光は二本の剣を交差させ、挟み込むように切り裂いた。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 邪龍人を倒した光はため息をつくと、気を失って倒れてしまっている蘭に駆け寄った。「蘭、大丈夫か?」

しかし、返事はない。隠れ家の洞窟までここから相当距離があるから、まずは一旦安全なところへ移動しようか。光は蘭の背中と両膝の裏に手を回し、持ち上げてその場から歩き出していった。




 邪龍人の強烈な攻撃を受け、気を失ってしまった蘭は町のはずれにある野原で横たわっていた。やがて、目をこすりながら開き始める。

「う…ん~…あれ…?ここはどこ…?さっきの邪龍人は…どこへ行ったんだろう……?」「どうやら気がついたみたいだな。」

起き上がった蘭の横に座っていた人類反乱軍の若きリーダーが声をかける。

「あっ、光君……さっきの邪龍人はどうなったの?」

「さっき俺たちの前に現れた邪龍人なら俺が倒した。だから大丈夫だよ。」

「そっか…」

光の返事を聞いた蘭は落ち込むかのようにうつむく。

「どうした?どこか怪我でもしたのかい?」

「いや…怪我とかは特にないんだけど……なんか…光君の足を引っ張っちゃって申し訳ないなって思って…」

「そんなことないよ。俺は前に新しく入ったメンバーと行動を共にしたけど、君と同じように最初はみんな邪龍人にやられてしまっているからね。でも、今となってはレベルが上がってきて邪龍人ともまともに戦えるようになっている。だからな蘭、君も邪龍人に少しでも対抗できるように少しずつ強くなっていけばいいんだ。」

それを聞いて蘭は涙を流しながら立ち上がった。

「光君、ありがとう。」

蘭がお礼を言うと、光は優しく微笑みながら頷いた。

「それじゃあ、休憩は終わりだ。見回りに戻ろう。」

その一言と同時に蘭と光は目の前に見える山に向かって歩き出した。




 ここは蘭の実家があった町や人類反乱軍の隠れ家の洞窟がある森のある国のすぐ隣にある無人島。この無人島は太古の昔に封印され、現代に復活した邪龍人によって占領されていたのだった。

「ほう…人類反乱軍に新たなメンバーが加わったか…」

邪龍人のリーダーらしき存在が部下である他の邪龍人の報告を聞き、口を開く。そして、その場に集まっている大勢の邪龍人たちに大声で呼びかけた。

「皆の者、よく聞け!我らに歯向かう愚かな人類反乱軍と先程報告があった新たなメンバーが我ら邪龍人を滅ぼすために牙を向くだろう。その時はためらうことはない。情けも容赦もなく、殺せ!そして、この世界を我ら邪龍人のものにするのだぁぁぁぁあ!」

「「「「「オオオオォォォォォォォォォォォォォォ‼」」」」」

邪龍人のリーダーらしき存在は満足げに笑みを浮かべる。その一方で不安そうな表情を浮かべた。

「どうかなさいましたか、邪龍神様?」

邪龍人がひざまずいた状態で声をかける。

「いや、なんでもない。しかし、邪龍魔神のやつが人間に擬態して人間に関する情報を取得してくると言って殺した一人の若い男性に擬態していったが、それ以降戻ってきていない。それどころか人間に関する情報も特にない。一体どういうことなんだ?」

邪龍魔神とは一体何者なんだろう?殺した人間に擬態していると言っていたが、一体だれを殺したんだ?

 それは邪龍神にも邪龍人にも分からなかった。




 見回りをするために出かけていた蘭と光は邪龍人を一体倒した後、一日中見回りを続けた。その際に遭遇した邪龍人と激闘を繰り広げたが、蘭は苦戦していて行動を共にしていた光に助けられてばかりだった。

 隠れ家のある洞窟へ帰る途中、光が見回りと邪龍人との戦いを経験した蘭に優しく声をかけた。

「蘭、初めての見回りとか邪龍人の戦いはどうだったかな?」

「そうだね。ちょっと光君の足を引っ張りすぎちゃったから、もっと特訓とか必要なのかなって感じた。」

「そうかい、分かった。それなら明日は俺と一緒に1日中特訓をしてみよう。」

「分かった。…でも、明日の見回りとかはどうすればいいの?」

蘭の質問に光が答える。

「それなら他のメンバーに俺から頼むから心配しないで。」

「そっか、分かった。」

蘭と光の会話が終わると同時に隠れ家のある洞窟へと到着した。




 洞窟に入ると、先に隠れ家に戻っていた雅人が出迎えた。

「お帰り。結構疲れたみたいだな、蘭。」

「雅人さん…明日光君と特訓する予定になっているんだ。」

それを聞いて雅人は頷く。

「お前にはやっぱり修行が必要だと俺も思ったよ。」

「雅人、君も彼女の特訓に付き合ってやってくれないか?俺も参加するけどな。」

「なんで俺が?というか光がいるなら十分だと俺は思うぜ。」

雅人は蘭と特訓することを嫌だと感じているようだ。

「頼むよ、雅人。人を襲う邪龍人に対抗するためには特訓して強くなることが必要になるだろ。頼むよぉ!」

光は手を合わせて頼んだ。

「分かったよ、しょうがねえな。明日俺も特訓に参加するわ。それでいいだろ?」

雅人はふてくされながらそう言う。




 翌朝。蘭と光、雅人の三人は洞窟の近くにある岩場に立っていた。

「それじゃあ、これを巻いて両目を隠して。」

光は雅人と蘭に白い鉢巻を渡した。蘭と雅人は言われた通り両目を覆うように鉢巻を巻いた。だが、蘭はこれから何が始まるのか何も把握していないため、何も分からない。

「光君、この鉢巻を巻いた後、私たちはどうするの?」

蘭は光に声をかけているつもりが、鉢巻で目隠しをしているため、光のいる方とは全く別の方向に話しかけていることに気づいていない。

「俺はここにいる。」

そう言って光は蘭を自分のいる方向へと向かせる。

「武器を足元に置き、その状態で逆立ちをして。」

光に言われ、蘭と雅人は目隠しをしたまま逆立ちをし始めた。

「今から水が入ったコップを足の裏に置くよ。それを15分間こぼさないように逆立ちを続けてくれ。君のバランスがこの訓練の成功のカギとなる。」

説明を終えた光は水の入ったコップを上に来た蘭と正夫の足の裏に一個ずつ置いた。

「置いた瞬間からスタートだ。」

 水が入ったコップを上に来た足の裏に乗せた蘭と正夫はコップをこぼさないようバランスを保っている。しばらくたったその時だ。

「ああっ!」

バシャン!

バランスを崩し、倒れてしまったのは蘭だった。蘭がバランスを崩して倒れてしまったことでコップの水がこぼれ出て、蘭の服にかかってしまう。

「光君、ごめん。失敗しちゃった……。」

蘭は両目を覆っていた鉢巻を外し、光は蘭が落としてしまった水の入ってたコップを回収。「逆立ちでバランスを保ちながら水をこぼさないようにするためには、身体を支える腕力だけでなく、精神を落ち着かせることも成功のカギなんだ。」

「その通りだ。深呼吸とかをして心を落ち着かせないと、この訓練は成功できないぜ。」

コップを光に取ってもらった雅人が逆立ちをやめて元の状態に戻る。

「この鉢巻は一体何なの?」

「この鉢巻で両目を隠してわざと真っ暗にしているんだよ。」

「わざと真っ暗にしている?どういうこと?目を閉じればいいだけだと思うけどなぁ…」雅人が蘭の質問を答えるが、蘭は雅人の答えを理解することができない。

「つまり、目をつぶったとしても人は自然と目を開けてしまうから、鉢巻で両目を隠すように巻けば、目を開けても閉じてもどっちにしろ何も見えないから、その状態で精神を統一させるつもりっていうことだよ。」

「なるほど、そのための鉢巻だったのね。」

雅人に代わり、光が蘭に説明をすると蘭は納得したようにうんうんと頷いた。

「それじゃあ、次の訓練いってみよう。」

 次の訓練?次は一体どんな訓練をやるのだろう?蘭はそう感じながらも光の後をついて歩いていき、雅人もその後ろをついていった。




 光に連れられて蘭がやって来たのは広場だった。

「光君、次はここで何をするの?」

「ここで色々な攻撃が来るからひたすら避けたり、武器でその攻撃を防御したりしなくてはならないんだ。最初に俺がどんな感じでやるのかを分かりやすくお手本を見せるからよく見ていてくれ。」

蘭の話を聞き、頷く蘭。

「それじゃあ、始まるぜ。みんな、頼む!」

今、光君は一体だれに頼んだんだ?ここには私と雅人さんしかいないはずなのに…。蘭が自分以外に誰がいるのか周囲を見回すが、誰もいない。気がつくと、雅人の姿もなかった。さっきまで一緒に歩いていたのに…。もしかしたら、移動している途中、邪龍人に…………。蘭の脳内を最悪のシナリオが駆け巡ったその時、光の真正面から一本の矢が飛んできた。「光君、危ない!」

すると、光は剣を抜いて飛んできた矢を叩き落とした。叩き落とされた矢は地面に突き刺さって、動かなくなる。

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!

今度は周囲から光めがけて数本の矢が飛んできた。

(まさか、特訓の最中に邪龍人が襲いかかって来た?)

蘭がそう思っていると、光は飛んできた数本の矢を平然と目にも止まらない速さで主要武器の剣で叩き落としていく。

「おりやぁっ!」

誰かの声を聞こえた声がしたかと思うと、先程まで行動を共にしていたはずの草野沢雅人が両手で持った両手で光の背後から飛びかかってきているのが見えた。しかし、光は素早く振り向いて、雅人の槍を剣で受け止めると、そのまま蹴り飛ばした。

「中々やるなぁ…光……。」

蹴り飛ばされた光が腰を撫でながらゆっくり立ち上がった。そんな雅人に蘭が歩み寄った。「なんだよ…俺に何の用だよ……?」

「雅人さん、どういうつもり?こっちは特訓の最中なのに光君に襲いかかっちゃって…!まさか、邪龍人側に寝返ったつもりなんじゃ……?」

「何を言っているんだよ?」

雅人は蘭の言っていることを何も理解することができない。

「蘭、これがその特訓だよ。」

「えっ?」

光の一言を聞いて蘭は驚きを隠せない。これが特訓?一体どういうことなんだ?

「俺たちの周囲から色々な攻撃が来るからその攻撃を避けたり、武器で防御したりしていくという訓練なんだ。」

「そうか、だから周辺の色々な方向から矢が飛んできたんだ。」

「俺は背後から攻撃を仕掛けてくる敵みたいな感じでやるよう光に頼まれただけだ。」

雅人が裏切ったと勘違いをした蘭を睨みつけながら言った。

「ごめんなさい。完全に私の勘違いでした。」

蘭は雅人に申し訳なさそうに頭を下げる。

「全く…邪龍人側に裏切るとか…なんで毎回俺がそうなるんだよ……」

毎回そうなる?どうやら雅人は人類反乱軍に新たに加入したメンバーとの訓練の際に、裏切ったと勘違いをされてしまったことが何度もあったみたいだ。

「まあまあ…初めての人は大体こうなっちゃうし、何も分からない状態でもあるんだから許してやれよ。」

人類反乱軍の若きリーダーの光が短気な雅人を注意する。

「分かってるよ…うるせえなぁ……」




 その日から光や雅人と共に訓練の日々を送り続け、蘭は勇ましく強力な戦士へと成長を遂げ、普通の女の子のような容姿からたくましい戦士のような容姿へと変わっていった。「蘭、訓練を開始してからしばらく経っているけど、結構腕が上がっているね。」

「そう?ありがとう、光君。」

その時、背後から槍を構えた雅人が飛びかかってきた。蘭は槍をドレインソードで受け止め、雅人を武器ごと投げ飛ばす。

「うわぁっ!」

投げ飛ばされた雅人は槍を地面に落とし、自身も仰向けに倒れ込んでしまう。

「こういう感じの不意打ちのパターンもあるからそれも覚えておかないとだね。」

「その通りさ。」

雅人の不意打ちを対処した蘭に光も笑顔で声をかけながら近づく。その右手には邪龍人たちを封印する際に使われていた剣が握られていた。

「隙やり!」

光が蘭に襲いかかるが、蘭は赤い剣で受けて立ち、反撃をする。蘭のドレインソードが光の胸部の装甲に直撃した瞬間だった。蘭のドレインソードの刀身が赤く光り始めた。それはまるで赤い血を吸っている吸血鬼のようだった。

「うわっ……わ……わ…あぁ………ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!」

「あっ、ごめん!」

苦しそうに声を上げる光。蘭は慌ててドレインソードを投げ捨てると、赤い血のような光は消えた。邪龍人の魂を吸うことができるドレインソードは人間の魂は吸い取ることはないはずなのに一体なんで?

「光君、大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫だ。」

「お前…本当に普通の人間なのか?」

近くで見ていた雅人が声をかける。

「さっきドレインソードがお前の魂を吸い取っているように見えたんだが、ひょっとしてお前邪龍人の仲間なんじゃないのか?」

雅人は光を睨みつける。

「雅人さん、光君はそんなんじゃないよ!光君は平和のために戦っているだけじゃなくて、私たちも引っ張ってくれているじゃん!」

蘭が雅人に文句を言うと、雅人は蘭にも睨みつけてきた。

「じゃあさっきのは一体何なんだ?お前にそのことを説明することができるのか?それとも、お前まさか光のことが好きなんじゃないのか?」

それを聞いて蘭は頬を赤くする。

「べ、別にそんなんじゃないよ!と、と、というか、なんでそうなるのよ⁉」

「二人とも、やめてくれ。とにかくドレインソードの機能がいかれちまったかもしれないんだし、あとで俺がチェックしてみるよ。」

口喧嘩となっている蘭と雅人の間に光が割って入った。

「蘭、君が使っているその剣をちょっと俺に預けてくれないかい?」

「う、うん。それじゃあ、確認お願いします。」

蘭は愛用していたドレインソードを光に渡した。

 ドレインソードは邪龍人の魂は吸い取るのだが、人間の魂を吸い取ることはない。それなのになんで光の魂は吸い取られかけたのだろう?

 このたった一つの謎は後に起こる悲劇の序章であることをまだ誰も知らないのだった。




 その日の夜。人類反乱軍のメンバーたちが眠っている中、光は蘭から預かってきたドレインソードを見ていた。先程は邪龍人ではない普通の人間である自分の魂が吸い取られかけたのだろう?その原因と思われるものなどはなにも見つからないのだった。

「どこもおかしいところなんてないのに…さっきのは一体何だったんだ…?」

 もしかしたら俺は普通の人間ではないのかもしれない…。もしもそうだとしたら俺は一体どうすればいいのだろう?俺は今まで一緒に戦ってきた仲間である蘭や人類反乱軍のメンバーたちの敵となってしまうのか?

そう思っていた時だった。

「光君、どうだった?」

後ろからした声を聞いて振り向くと、寝室で寝ているはずの蘭の姿があった。

「ああ、特に問題はないはずなんだけど…なんで俺の魂が吸い取られかけたのかに関しては原因がよく分からない。」

そう言うと、光は蘭にドレインソードを返した。

「なぁ、蘭。寝る前に俺から一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「うん、いいよ。どうしたの?」

いつも自分に光が色々教えてくれるのに、光から自分に教えてほしいことがあるってなんだか珍しい感じがするな。蘭はそう思った。

「もしかしたらなんだけど…」

「もしかしたら…って…何かあったの?」

光はとても言い辛そうに重々しく口を開く。

「もしかしたら……俺は……ふ、普通の…人………人間ではない…かもしれないんだ……」「光君が普通の人間じゃない⁉そんな…何を言っているの?というかどういうことなの?」「さっきの特訓の最中に、ドレインソードが俺の装甲に直撃した瞬間、俺の魂がドレインソードに吸い取られかけた…」

それを聞いて蘭は驚きを隠せずにその場で何かを言うだけでなく、凍り付いて動けなくなってしまう。

「だから…俺は普通の人間じゃなくて…邪龍人なのかもしれない……もしもそうだとしたら…君はどうするんだい…?」

「えっ……?」

突然すぎる質問に蘭は困惑し、その場で沈黙してしまう。困惑している蘭を見て光は謝った。「ごめんな、、急すぎてびっくりしたよな?今の質問なかったことにしてくれていいぜ。じゃあ、また明日な。」

蘭に謝罪した光はそのまま自分の部屋へと向かおうと歩き出すが、次の瞬間、蘭がその背中に抱きついた。

「……えっ……」

突然すぎて光の頭の中は真っ白になった。

「たとえ普通の人間でなくても……私は…優しい光君のことが好きです!」

光の背中に抱きついた状態で蘭は大声でそう言った。

「えっ…何を言っているんだ…君は……?」

光は蘭の言っていることを理解することができない。

「突然すぎてごめんね。邪龍人にお父さんとお母さんを殺されて光君に助けられた時から、私は光君のことが好きだった…!」

蘭はもう一度告白した。蘭の告白を聞いた光も振り向いて、身体を蘭の正面に向ける。

「ありがとう…嬉しいよ、蘭。俺も君のことが好きだ…。ずっと隠していたけど、目的を達成するためにひたすら真っ直ぐ頑張る君を見て好きになったんだ…」

それを聞いて蘭は目に涙を浮かべながら光に抱きつき、光も蘭の身体を優しく抱きしめた。「光君、私と付き合ってください…!」

光に抱きしめられた状態で蘭が言う。

「もちろん付き合おう。…でも、今は邪龍人を倒さなくてはならない…。デートとかは邪龍人との戦いが終わってからにしような…。」

「うん…約束だよ…」

 恋人同士となった蘭と光。だが、これから二人に与えられる悲劇の試練の始まりに過ぎなかった。




 翌日。町に大勢の邪龍人が現れ、破壊活動を行っているという情報が入り、蘭と光、人類反乱軍のメンバーたちは町へと急行した。

「蘭、特訓通りにやるんだぞ。ピンチになったら俺がサポートするぜ。」

「分かった。私も特訓通りできるよう頑張るよ。」

蘭はドレインソードを構え、邪龍人の軍団に突進していった。光も邪龍人を封印した際に使われ、今となってはシンプルに切れ味がいいだけの剣を手に突進していった。

「俺も負けていられないなぁ…いくぜぇ!」

雅人も長槍を振り回しながら駆け出す。




「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

人類反乱軍のメンバーたちが邪龍人の手で一人、また一人とやられていく中、蘭はドレインソードで次々と襲いかかって来る邪龍人たちを一人、また一人と切り裂いていき、その魂を愛用している剣で吸い取っていく。

「貴様ぁ…」

邪龍人たちが蘭を睨みつける。

「アンタたち、邪龍人は私の家族の…恩師の敵だ…!絶対許さない…!私のような悲しい人間を一人も出したくないし、平和を取り戻させてもらうんだからぁ…!」

邪龍人に両親、そして恩師を殺害された蘭は憎き敵である邪龍人にドレインソードを向け、斬りかかっていった。




 髪を金髪に染めた雅人も緑色の長槍で周囲にいる大勢の邪龍人たちをなぎ倒していく。「オラオラオラァ!かかってこんかぁい、邪龍人どもぉ!」

雅人は荒々しく長槍をぶん回すと、正面にいる邪龍人の胸部に突き刺し、そのまま勢いよく振るって投げ飛ばした。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりやあぁぁぁぁぁぁ!」

「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

投げ飛ばされた邪龍人は他の邪龍人たちとぶつかり、強い衝撃で動かなくなった。これで大勢の邪龍人が倒されたが、邪龍人はまだまだ大勢いる。

「やっぱりこの長槍での戦い方の方が調子いいぜぇ!」

雅人は猪突猛進で長槍を振り回していく。




 蘭や雅人、人類反乱軍のメンバーたちが戦っている頃、光も愛用している剣で次々と襲い来る邪龍人たちを一人、また一人と真っ二つに切り裂いていった。

「さぁ、次の俺の相手は誰だ?」

光が周囲を見渡した時だった。

「フッフッフッフ……」

どこからか不気味な笑い声が聞こえた。

「誰だ…⁉」

周囲を見回す光だが、笑い声の主はどこにも見当たらない。

「我が来たからには貴様らのような反乱分子もおしまいの時が近いようだな…」

振り向くと、紫色の身体をした邪龍人が不気味な笑みを浮かべて立っていた。

「お前は…」

「我が名は邪龍神。ところで、なぜ貴様は生きている?」

「どういうことだ?」

光は突如現れた邪龍人のボス・邪龍神の言っていることを理解することができない。

「過去にお前によく似た人間を殺害し、その人間に擬態した我の部下がいたのだよ。人類反乱軍に潜入する仕様とか言ってね。そいつが今だに行方不明だが、どうやらその正体はお前のようだな。」

「うるさい!お前たち邪龍人は…俺の家族の敵だ!」

光は真っ直ぐ邪龍神を睨みつけ、剣を構えなおして斬りかかっていった。

「はぁっ!」

邪龍神は突然右腕を突き出し、掌から紫色のエネルギー波を放射した。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

邪龍神のエネルギー波を浴びてしまい、苦しそうに声を上げる光。

「光君!」

近くで邪龍人と戦っていた蘭は光を助けようと、駆け出した。あと少しで光の元へたどり着くと思った次の瞬間だった。紫色のエネルギー波を浴びている光の姿が変わり始めた。蘭の目の前で…。

「グワァ……グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

発狂と共に光の姿が人間からドラゴンのような姿へと変貌していく……。

「ウワアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」やがて、光の姿が完全に人間ではなく、一体の邪龍人の姿へと変わってしまった。

「…そんな………噓でしょ……⁉光君が…………人間ではなく…邪龍人だったなんて…!」「フッフッフ…そいつは邪龍人の中でも最強の戦闘力を誇る邪龍魔人だ。本当の神道光は既に邪龍魔人の手によって殺されているのだ。人類反乱軍の情報を取得するために潜入として、殺した神道光に擬態したのだが、その神道光が持っていた邪龍人に対する強い憎悪と復讐心までもコピーしてしまったからか自分が邪龍魔人であることを忘れてしまったみたいだな。」

嘲笑いながら説明をする邪龍神に蘭はショックと動揺を隠しきれない。ショックを受けているのは蘭だけでなく、自身が邪龍魔人もある光だった。本当の神道光はすでに死んでいる。自分は今まで家族の敵である邪龍人を倒し、この世界に平和をもたらそうとしていたのに、自分も邪龍人だったなんて…。一方、雅人は光の正体が邪龍人であることを知り、自分たちをずっと騙していたと感じ、カンカンに怒っていた。

「光ぃ……やっぱりお前は邪龍人だったんだなぁ…」

「……雅人……俺は……」

雅人は仲間の正体でもある邪龍魔人の話を聞かず、緑色の長槍で殴りかかっていった。邪龍魔人は槍をひたすらかわし続ける。

「雅人、待ってくれ!…俺は…」

「そんな卑怯な手段に俺が引っかかるかぁ!」

雅人は槍を荒々しく豪快に振り回すが、邪龍魔人は必死に攻撃をかわし続ける。

「雅人さん、やめて!」

「うるせぇな!敵のことなんかに耳を貸すバカがどこにいるんだよ⁉」

蘭が雅人に声を変えるが、雅人は話を聞こうとすらしない。それどころか蘭の方を見向きもしない。

「うぉぉぉぉぉぉりやあぁぁぁぁぁぁ!」

とうとう雅人の長槍の先端が邪龍魔人の胸部にかすった。それによって邪龍魔人の動きが一瞬だけ止まる。

「このやろぉぉぉぉぉぉ!」

さらに豪快な一撃を繰り出し、邪龍魔人は倒れ込んだ。

「ぐわぁぁ!」

雅人は仰向けに倒れている邪龍魔人を睨みつけながら嘲笑うように口を開いた。

「邪龍人の中で最強の戦闘力を誇るやつだとか言っていたが…大したことない…想像していたのと全然違ったぜ…とにかく…とどめだ…!」

雅人がとどめを刺そうと、愛用している緑色の長槍を邪龍魔人に突き刺そうと、振り上げ、そのまま振り下ろそうとしたその時だ。

「やめて!」

一人の美少女が声を上げて剣で雅人の長槍を受け止めた。

「蘭、てめえ何しやがる⁉邪魔をするな‼」

「お願いだからやめて‼」

「そうか…わかった…お前も邪龍人かぁ…」

「違う!私はそんなんでは…」

蘭の言葉が終わらないうちに雅人は蘭を素手で殴り倒した。

「お前も後で殺してやる…邪龍魔人も…邪龍人も…邪龍神も…俺の敵や邪魔をする者はたとえ人間であろうが…全て俺がぶっ潰してやる…!俺が人類の救世主として頂点に立つ‼立ってみせる‼」

雅人は長槍を構え直し、ゆっくり立ち上がりだした邪龍魔人と向かい合った。

「まずは貴様から地獄に叩き落としてやる…光!いや…今はこう呼ぶべきだ…邪龍魔人!」雅人は緑色の長槍で邪龍魔人に駆け出していった。

「雅人、やめろ!俺は戦いたくない…!」

邪龍魔人は攻撃をかわしながらも必死に声をかけるが、雅人は攻撃を辞めない。

「邪龍魔人、お前も戦え…!お前はもはや人類反乱軍ではない…‼それどころか人間じゃないんだ‼お前は人類の敵だ!それがその証拠だ!」

人類反乱軍のメンバーたちを一人、また一人と殴り倒しながら邪龍神が大声を上げる。

「うわぁっ!」

ためらっている邪龍魔人に雅人の長槍が直撃する。

「大人しく地獄に落ちろ、邪龍魔人!自身が犯した罪を…あの世で償いやがれえぇぇぇ!」雅人は緑色の長槍をがむしゃらに振り回す。その時だった。邪龍魔人は振り下ろされてきた雅人の長槍を左手で掴んだ。そして、右足で雅人の脇腹を蹴りを入れた。

「ぐわっ!」

予想外の一撃を受け、雅人は怯んだ。邪龍魔人は右手から鋭い爪を伸ばすと、そのまま雅人めがけて攻撃を繰り出した。邪龍魔人の右手指から伸びた鋭い爪が雅人の頬に直撃し、雅人の頬にかすり傷ができ、赤い血が流れた。

「し、しまった…!雅人、ごめん…つい…!」

うっかり仲間であるはずの雅人に反撃してしまった光こと邪龍魔人は謝るが、時すでに遅し。雅人はもう戦う気満々で話を聞く耳を持とうとすらしない。

「やっぱりお前も俺たちの敵だなぁ!面白れぇ!」

雅人が長槍を構えなおした次の瞬間だった。

グサッ!

周囲に何かが刺さったかのような音が響き渡ったと思うと、雅人がうつ伏せになって倒れた。背後から邪龍魔人が人類反乱軍のメンバーから盗んだ矢を投げて、雅人の身体を貫いたのだ。雅人はうつ伏せに倒れた状態で矢を引き抜き、反撃をしようと近くに転がっている長槍を拾おうと手を伸ばすが、全身に苦痛が走って身体が思うように動かない。

「く………くっそぉ………ま………まだ……だ………………こ…………こんな……ところで……やられて……た………たまる……………か……」

雅人が愛用していた長槍を掴みそうになったその時、邪龍魔人が瀕死状態の雅人の首を右手で掴んで、ゆっくり立たせた。一体何をするつもりなのだろうか?

「光君、待って!やめて!」

蘭が駆け出すが、邪龍人最強の邪龍魔人となった光は蘭を右足で蹴り飛ばす。

「俺はもう神道光じゃない!邪龍人最強の戦士・邪龍魔人だ!俺たち邪龍人に逆らう愚か者は皆こうなるのだぁ!」

邪龍魔人はそのまま右手を勢いよく握りしめた。

グキッ!

 雅人の首の骨が音を立てて折れた。

「お前たちには勝ち目はない…」

邪龍魔人は雅人の遺体を投げ捨て、光の姿へと変わる。

「さっさと諦めるんだな……」

光はそう言うと、蘭に背を向けてどこかへと歩き去っていった。

「待ってよ、光君!私たちこれからも仲良くなれるよ!だからこれ以上罪を重ねないで!」しかし、光は何も言わずに右手の親指と中指をはじいて、パチリと鳴らした。

「パチン!」

光こと邪龍魔人のフィンガースナップを合図に大勢の邪龍人たちが口から青いレーザー光線を発射した。邪龍人たちのレーザー光線によって大爆発が起き、爆風で蘭や生き残った人類反乱軍のメンバーたちは吹き飛ばされた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」爆風で吹き飛ばされた蘭の意識は遠のいていき、そのまま気を失ってしまった。




 邪龍人たちによる攻撃で気を失ってしまった蘭が目を覚ますと、そこは人類反乱軍のアジトでもある洞窟の自分の部屋だった。

「そうか……あの時、邪龍人たちが起こした爆発で…吹っ飛ばされちゃって、気絶したんだっけ……でも、光君が……」

本当の神道光は既に邪龍人たちの手によって殺されていて、今いる神道光は邪龍人最強の戦士である邪龍魔人が擬態したもの。擬態した際に邪龍人に対する強い憎悪までもコピーして自分が邪龍魔人であることを忘れてしまっていた。そして、そのことを知って草野沢雅人までも殺害してしまった。それだけでなく、完全に邪龍人側について今となっては身も心も邪龍魔人だ。一体どうすればいいのだろう?

蘭がこれからどうすればいいのか考えていた時だった。

「光さんも雅人さんもいなくなっちまったからには俺たちにもう勝ち目はないんだよ!」

「でも、僕たちがここでやられたら未来なんかないだろ⁉」

「そんなことは分かっているよ!でも、今の状態となったら勝ち目はないんだから諦めるしかないだろ⁉」

部屋の外から男たちが揉める声が聞こえてくる。




 蘭が部屋から出ると、人類反乱軍のメンバーとして共に戦ってきた仲間たちが口論となっていた。

「何度も言わせるんじゃねえよ!もう俺たちに勝ち目も未来も何もないんだよ!」

「「「「「そうだそうだぁ‼」」」」」

一人の中年の男性が大声を上げると、その男性に賛同するメンバーたちも大声を上げた。

「光さんや雅人さんがいなくなったなら、僕たちがこの世界に平和をもたらすという意思を継いでいかなくては駄目だろ‼」

「「「「「そうだそうだぁ‼」」」」」

今度は若い銀髪の男性とその男性の意見に賛成をする人類反乱軍に所属しているメンバーたちが大声を上げた。

「小僧、いい加減にしないとぶちのめすぞ…!」

「なんだと?それならアンタたちを返り討ちにしてやろうか、おっさん!邪龍人たちをぶっ潰すのはそれからだ!」

今にも大乱闘が始まりそうだ。人類反乱軍が壊滅の危機に陥っていた。

「みんな、待ってよ!」

蘭が諦める側のメンバーたちと戦いを続ける側のメンバーたちの間に割って入った。

「今はめちゃくちゃやばい状況なんだよ!仲間割れをしている場合じゃないでしょ⁉」

「うるさい!新人は引っ込んでいろよ!」

戦うことに反対し、諦めようと考えている壮年の男性が蘭を突き飛ばし、蘭は尻餅をついた。「大丈夫か、新入りのお嬢ちゃん?」

銀髪の若い男性が蘭に駆け寄る。

「私は……大丈夫です……」

銀髪の若い男性は蘭を助けると、蘭を突き飛ばした年上の男性を睨みつけた。

「テメェ、なんてことしやがるんだ⁉俺たちが一丸になって戦おうとしているのを邪魔して、争い合っているのを止めようとしている彼女に手を出して…ふざけるのもいい加減にしろよ!」

「それなら俺は人類反乱軍を脱退する!戦おうが諦めて逃げようが、どっちにしろ俺たちに勝ち目なんてないんだよ‼」

そう言うと、中年の男性は洞窟の出入り口へと歩いて行ってしまった。

「悪いけど、僕も今日から人類反乱軍を辞めさせてもらうよ。」

「私も今日から脱退する。今まで世話になったな。」

先程、戦うことを反対し、諦めようと主張していた中年の男性に賛成していた人類反乱軍のメンバーたちも隠れ家の出入り口へと向かっていった。




 人類反乱軍のリーダーの神道光が邪龍魔人であり、正体を知って以降は邪龍人側へとついてしまい、強力な戦士でもあった草野沢雅人も殺されてしまい、さらにはこれ以上戦っても勝ち目はないと諦めてしまい、人類反乱軍を大半のメンバーが辞めてしまった。残っているのは蘭と未来を勝ち取ろうと考えている銀髪の若い男性とその男性に賛同する数名のメンバーたちだ。

「大丈夫か?体調が万全という訳でもないのに悪かったな、あの馬鹿どものせいで…」

髪を銀に染めた青年が蘭に謝る。

「大丈夫だよ。そんなことよりこの人数だとちょっと少ないね。」

「ああ。光さんや雅人さんがいなくなった今、俺たちが人類反乱軍を率いて、チーム一丸となって邪龍人たちに立ち向かわなくてはならないというのに…。」

銀髪の若い男性はうつむくと、蘭の方に視線を移した。

「申し遅れた。僕の名は真田雄吾だ。今まで別々で行動をしていたから、君とははじめましてだな。よろしく。」

そう言って悟は蘭に右手を差し出した。

「はじめまして、私は九堂蘭です。よろしく。」

蘭も雄吾の右手を右手で握り返す。

「蘭、急すぎて悪いけど、光さんの正体…君も知っているのか?」

「うん。光君は私の目の前で邪龍魔人へと変貌を遂げてしまったの。」

「邪龍神は言っていた。本当の神道光は既に殺されていて、今まで俺たちの前に姿を現していたのは邪龍魔人が擬態したものだって。俺たち人類反乱軍の情報を取得するために…。でも、光さんに擬態した際に邪龍人に対する強い憎悪までもコピーしたことが原因で自分が邪龍魔人であることを忘れてしまった。」

近くで弓と矢を持ち、矢を射る練習をしている一人の若い女性が声をかけてきた。

「さっきの戦い、見ていたけど、光さんはまるで戦うのをためらっているみたいだった。」「もしかしたら、本当は私たちと戦いたくないのでは…」

蘭がそう言うと、雄吾は首を振った。

「でも、雅人さんはその邪龍魔人に殺害されてしまった…。それはおそらく身も心も邪龍魔人となってしまったからだということなのではないかと僕は思う…。」

「でも、私も見たんだけど、雅人は自分から光君を殺しに行っていたのに対して、光君は攻撃を必死に避けてばかりだった。まるで戦うどころか戦いを避けたいと考えている一人の人間みたいだった…。」

「でも、その後に雅人さんに反撃をして、殺害をしたのは嘘じゃないだろ?」

その時だった。どこからか紙飛行機が飛んできた。飛んできた紙飛行機は蘭と雄吾の間まで飛んできて、二人の足元に落ちて止まった。

「なんだ、この紙飛行機は?」

紙飛行機を拾ったその時、見回りに行っていた一人の男性が慌てて走ってきた。

「雄吾さん、その紙飛行機、見回りから戻ろうとした瞬間にどこからか飛んできたんです!」「誰が飛ばしたのかまでは分かるのか?」

「いいえ、すいませんが、そこまでは分かりません。」

男性の話を聞いた後、雄吾は紙飛行機を広げ始めた。紙飛行機を広げると、そこにはメッセージが書かれていた。

『人類反乱軍のメンバーとして戦っている愚か者の諸君へ

 貴様ら人類反乱軍の全メンバーを含む全人類を一人残らず全滅させてやる。まずは町の人々を血祭りにあげ、その後に貴様ら人類反乱軍の番だ。覚悟しておけ。

                             邪龍魔人より。』と書かれている。これは宣戦布告だ。どうやら邪龍魔人は邪龍人たちと共に本気で人類を滅亡させようと企んでいるようだ。

「光君…」

蘭は宣戦布告の手紙を読んでショックを受けた。邪龍人との戦いが終わったら、二人でどこかへと行ったり、遊んだりする約束をしていた約束の相手が完全に敵に回ってしまったなんて…。

「私は……私は一体…どうすれば……」

蘭はその場で膝をついて、泣き崩れた。

「どうかしたのか?奴らを倒さないと多くの命が犠牲になってしまう…早くいかないと…」「分かっているよ!でも、相手が光君だから……」

それを聞いて雄吾は眉をひそめて黙り込んでしまう。

「もしかしたら光君は私たちに助けを求めているんじゃないかなと思うんだ。」

「助けを求めている?どういうことなんだ?」

雄吾は蘭の言っていることの意味が分からない。

「光君はもしかしたら本当は私たち人類反乱軍のメンバーと戦ったり、人類を滅亡させたりすることが嫌だと考えていて、だからわざと宣戦布告の手紙を送ってきて邪龍人たちを倒してもらおうと思っているんじゃないのかな?」

「でも、人類を滅亡させてそれから人類反乱軍たちを一人残らず殺すってこの手紙には書いてあるわよ。」

弓矢の稽古をしていた女性が手紙を持って言う。

「それはたぶん他の邪龍人や邪龍神に怪しまれないようにわざとそう書いたんだと私は思うんだ。」

「どうしてそう思うんだ?」

武器の整理をしながら雄吾は首を傾げた。

「それは……さっきの戦いで……」

「でも、さっきの戦いで何をしたのか見ただろ?僕たちの仲間を殺したんだぞ?人の心は持っているのかもしれないけど、罠かもしれない。」

そう言うと、雄吾は雅人が使用していた長槍を持って走り出した。人類反乱軍のメンバーたちも雄吾についていく。

 やっぱり戦うしかないのか…。でも、ここで私は邪龍人を倒した後の約束を果たしたい!だから、全人類だけでなく、神道光も絶対に救ってみせる!

 九堂蘭は神道光こと邪龍魔人を救うため、あることをしようと思いついた。一体何をするつもりなのだろうか?




 町。人類反乱軍のメンバーたちが住んでいる隠れ家に届いた紙飛行機に書いてあった通り邪龍人たちがビルや家などといった建物を破壊し、人々を襲っていた。建物を壊し、人々を虐殺していく邪龍人たちの中には邪龍人たちのリーダーにあたる存在・邪龍神や光こと邪龍魔人もいる。

「さあ、人類反乱軍たちは俺たちの元へやって来るのかなぁ?」

「邪龍魔人様もよく思いつきましたね。関係のない人間どもを襲って人類反乱軍を呼び寄せて一気に皆殺しにする作戦だなんて。」

「フッフッフ…。俺は邪龍人最強の戦士だから、これくらいのアイデアくらい当然思いつくに決まっている。」

その時だった。

「そこまでだ、邪龍人ども!」

髪を銀色に染めた一人の青年が剣や槍、盾、弓、矢などで武装した大勢の人間たちを率いて走ってきた。真田雄吾率いる人類反乱軍だ!

「邪龍人ども、これ以上お前たちの好き勝手にはさせない!この世界の未来は俺たち人間が俺たちの手で勝ち取るんだ!」

そう言う雄吾の隣に遅れてやって来た蘭が立ち止まった。

「光君、目を覚まして!これから大変になっちゃうかもしれないけど、人間として生きていきたいと思えば私たち人間と共存することができる!だから、これ以上罪を重ねないで!」それを聞いて邪龍魔人は鼻で笑うと、左手の中指と親指をはじいてぱちりと鳴らした。邪龍魔人によるフィンガースナップを合図に大勢の邪龍人たちが人類反乱軍に所属する戦士たちめがけて走ってきた。

「来たぞ、邪龍人たちが…!僕たちもいくぞ!」

人類反乱軍のメンバーたちもそれぞれが所持している武器を構え、次々と襲いかかって来る邪龍人たちに反撃していく。だが、人間をはるかに上回るパワーやスピード、スタミナ等を誇る邪龍人の方が明らかに強い。

「フフフ…強さは別格だなぁ、弱くて愚かな人間どもぉ!」

邪龍人が一人、また一人と人類反乱軍のメンバーである戦士たちを弾き飛ばしていく。

「それはどうかな?光さんや雅人さんがいなくなった僕たち人類反乱軍だって、負けていないぜ!」

「そうよそうよ!私たち人間の実力を舐めないでよねぇ!」

蘭と雄吾も負けていない。自身がそれぞれ所持している武器で次々と覆いかかって来る大勢の邪龍人たちをなぎ倒し、切り裂いていく。

「おのれぇ……こうなったら……」

「邪龍神様、あの小娘は俺にやらせてください…」

邪龍魔人は邪龍伸にひざまずいた。

「ほう…たしか記憶を取り戻す前のお前の恋の相手だったな…あの小娘は…」

「はい…あの九堂蘭とかいう小娘を俺のこの手で、血祭りにあげ、俺があなた様に忠誠を誓っていることをご証明いたしましょう…!」

それを聞いて邪龍神は冷酷な笑みを浮かべた。

「クックックックックック……いいだろう…だが、あの蘭とかいう小娘は人類反乱軍に入り始める前よりも桁外れに強くなっていることに間違いはない…だから油断はするなよ…」邪龍伸がそう言った次の瞬間だった。

 グサッ!

「グワァ…!」

突然、邪龍神の上半身を爪のような鋭い刃物が貫通した。それは邪龍魔人が人類反乱軍のリーダーとして戦っていた青年・神道光に擬態していた頃に使用していた剣だった。邪龍魔人が人類反乱軍のリーダーとして戦っていた神道光に擬態していた当時に使用していた剣を使って不意打ちを仕掛けたのだ。うつ伏せに倒れ込んでいる邪龍神の身体から紫色の血がドクドクと流れ出ている。

「貴様ぁ……何をしやがるんだ……⁉……一体……どういうつもりだ……⁉」

「申し訳ございませんねぇ…邪龍神様…」

邪龍魔人は嘲笑うように甲高い声を上げながらうつ伏せに倒れている邪龍人のリーダーを見下ろしている。

「あの小娘・九堂蘭はこの俺一人の手で殺したいのですよ…弱くて愚かな人間どもだけでなく、あなた様や他の邪龍人たちに邪魔されても困りますのでねぇ……特にあなた様が一番危険だ…ここで死んでもらう…!」

「……邪龍魔人……貴様ぁ……!」

邪龍神は反撃しようとするが、先程の神道光こと邪龍魔人による不意打ちを受けたことで、全身に苦痛が走り、反撃をするどころか立ち上がるための力も思うように出し切れず、思うように動くことすらできない。

「さらばだ、邪龍神………地獄に落ちろ!ゴートゥーヘル‼」

邪龍魔人は光に擬態していた頃に使用していた剣で邪龍神の両腕を切断し、さらに両足を切断すると、そのまま背中を再び貫いた。

「はあっ!」

剣で串刺しになった邪龍神を持ち上げると、そのまま勢いよく剣を振り上げて、串刺しになった邪龍神を剣を振り上げた勢いで真上に投げ飛ばした。

「終わりだ…!改めて地獄に落ちろ!」

真上に投げ飛ばされた邪龍神が急降下してきた瞬間、邪龍魔人は左腕で紫色の槍を構え、光に擬態していた頃に使用していた剣と二刀流で落下してきた邪龍神の首を切り裂いた。

「ぎいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

首を切断され、邪龍神の遺体と切り離された頭部が地面に転がる。

「消え失せろ!」

その一言と同時に邪龍神は目から黒いレーザー光線を発射した。邪龍魔人のレーザー光線を浴びた邪龍神の遺体と切り離された頭部は消滅した。

 人間を虐殺をしてきた邪龍人の冷酷なリーダー・邪龍神が邪龍人最強の戦士・邪龍魔人の裏切りによってとうとうこの世から去ってしまった。




 邪龍魔人が邪龍神を裏切り、そのまま血祭りにあげていった地獄のような光景は蘭や雄吾、人類反乱軍のメンバーとして戦っている人間たちだけでなく、その場で人類反乱軍の戦士たちと戦っていた全ての邪龍人たちの視界にも焼き付いていた。人間も邪龍人も驚きを隠せないだけでなく、なんて言葉を出せばいいのかもわからず、その場で凍り付いてしまっている。

「光君が……私たち人類反乱軍を裏切って……さらに邪龍神までも裏切るなんて……!」

「あいつ……なんてやつだ……目的のためにリーダーまで殺害するとは……」

驚きのあまり蘭と雄吾は凍り付き、言葉を発するのがやっとだ。

「次はお前たちの番だ…人類反乱軍を名乗る弱くて愚かな人間ども…!」

邪龍魔人は蘭と雄吾に視線を送った。蘭と雄吾もいつでも受けて立てるように武器を構え直した。その直後だった。

「貴様ぁ、あのかたを裏切ったなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

大声を上げたのは邪龍魔人めがけて走り出していく一人の邪龍人だった。その後ろには人類反乱軍のメンバーたちと激闘を繰り広げていたはずの大勢の邪龍人たちが武器の爪や牙を光らせながら走ってきている。

「我らが死ぬまで尊敬し、従うべきリーダー・邪龍神様の敵を討つのだああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼あの裏切り者を八つ裂きにしろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼」

大勢の邪龍人たちが邪龍神を裏切った邪龍魔人の周囲を囲むと、そのまま突進していった。こうなってしまったらさすがの邪龍魔人が強烈な攻撃を繰り出すことができたとしても、勝利を得られることはほとんど不可能と言っていいだろう…。まさに多勢に無勢だ。

「人数の差がとんでもなさすぎる…!こうなってしまったら…邪龍魔人の負けは確定だ…」

雄吾がそう呟いた次の瞬間だった。

「お前ら……俺のしもべになりやがれぇぇ!」

邪龍魔人の口から出てきた言葉の意味は一体どういうことなんだろう?蘭と雄吾が何なのかを考え始める間もなく、邪龍魔人の両肩から複数の青く細長い触手が伸びていき、邪龍魔人の周囲を囲んで一斉に集中攻撃を仕掛けようとしていた大勢の邪龍人たちの胸部に突き刺さった。邪龍人の体から伸びている触手から紫色に光っているものが触手の中を通り抜けていき、触手を突き刺された邪龍人たちの体の中へと注入されていく。邪龍魔人が体から伸ばした触手から紫色の光を注入し終えた邪龍魔人は触手を縮めて自身の体に戻す。その直後だった。先程まで邪龍神を裏切ったことがきっかけで邪龍魔人に対する完全な敵意をむき出しにしていた大勢の邪龍人たちが一斉にひざまずき始めた。

「邪龍魔人様、申し訳ございませんでした…。我々としたことが……とんだご無礼をお許しください…。」

邪龍人の先頭に立っていた一人の邪龍人が全員を代表するかのように謝罪の言葉を述べた。どうやら邪龍魔人は触手を伸ばして、相手に突き刺すことで毒を注入して、マインドコンロトールつまり洗脳をすることができるみたいだ。

「いいだろう…今日からは俺様が邪龍人の支配者だ…。いいや、全邪龍人たちがこの世界を恐怖と混乱に陥れ、その邪龍人をさらに支配するのがこの俺様だ!この世界は俺様の意のままとなる!ハッハッハッハッハッハ!」

「そんなことは私たちが許さないから!」

邪龍人たち邪悪な種族の実質的な大首領的ポジションに収まった邪龍魔人の嘲笑うような声を聞いて、蘭は思わずそう叫んだ。

「ほうほう……こんな絶望的な状況でも、我ら邪龍人一族に立ち向かおうとはなかなか諦めが悪いな…。いい根性をしているなぁ…感動的だな…だが無意味だ…!なぜなら我ら邪龍人は知能も身体能力も全て貴様ら人間どもに上回っているからだ!だから、貴様ら人類反乱軍の腰抜けどもは全員ここで死亡するんだよぉ!」

邪龍魔人の口から出た言葉を合図に邪龍魔人のマインドコントロールによって、邪龍魔人の完全なしもべとなってしまった邪龍人全員が両手の指先から生えたナイフのように鋭い爪と口から飛び出している鋭い牙をむき出しにして、蘭や雄吾、邪龍人たちに突進していった。邪龍人たちの武器であるナイフのように鋭い爪や牙が太陽の光に反射し、キラリと光る。こうなってしまったらもう戦うしかない。

「みんな、いくよ!」

人類反乱軍のメンバーたちを代表するかのように蘭が声を上げた。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

先頭を走っていく蘭に雄吾や人類反乱軍のメンバーたちもついていく。

「たしかに弱くて愚かかもしれないけど、私たち人間だって未来を掴み取るために必死に頑張っているんだから負けるわけにはいかないんだからねぇ!」

大声を上げながら蘭は愛用しているドレインソードを振り回し、ものすごいスピードで次々と襲いかかって来る複数の邪龍人たちを一人、また一人と切り裂いていき、魂を剣に吸い取っていく。ドレインソードを使いこなすことができなかった人類反乱軍にメンバー入りした頃とは全くと言っていいほど蘭の戦闘力は上がっている。あの頃とは完全に別人だ。「あの小娘ぇ…あんなに戦闘力が上がっていたとは……」

蘭たち人類反乱軍のメンバーと邪龍人たちが戦っているところを少し離れたところで見ていた邪龍魔人の顔から余裕の笑みが消え、驚きを隠しきれない表情へと変わった。

「邪龍魔人様、このままでは我々は敗北するでしょう…」

「そうだな…。こうなってしまったら、一旦退却した方が良さそうだな…」

邪龍魔人はどこかへと逃げようと背を向けた。このまま放っておけば、邪龍魔人は逃げられてしまう。それどころか人間以外にも動物などといった数えきれないほどの多くの命が犠牲になってしまい、この世界も崩壊の道へと辿っていってしまうだろう…。

「蘭、ここにいる邪龍人たちは僕たちがなんとか食い止めてみせる!だから、君は今すぐに邪龍魔人を……神道光を……俺たちの元リーダーを……君の恋人を追うんだ!」

「でも、邪龍人たちの数が……」

蘭は邪龍人たちを切り裂いていくが、邪龍人たちの数はとてつもないほど多い。雄吾が蘭の背後から不意打ちを仕掛けようとしている一体の邪龍人めがけてナイフを投げつけた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

雄吾によって投げられたナイフが胴体を貫通し、蘭に不意打ちを仕掛けようとしていた自邪龍人は仰向けに倒れて、絶命した。一体だけではない。その後ろにいた大勢の邪龍人たちの胴体までも貫通していき、大勢の邪龍人たちが絶命した。

「早くいってくれ!ここのことなら僕たちに任せてくれればいいんだ!早くしないと、人間だけでなく、動物とか数えきれないほどある多くの命が犠牲になってしまうんだぞ!それだけじゃなく、この世界も崩壊の道へと辿っていってしまう。それに、君の恋人もこれ以上罪を重ねないで済むはずだ!だから、急いでくれ!」

今ここで大勢の邪龍人たちと戦っている雄吾や人類反乱軍に所属している仲間たちを助けたいと思う蘭だが、光が邪龍魔人として邪龍人側についてしまって以降、行動を共にしていた仲間である髪を銀色に染めた青年の言っていることはもっともだった。思い悩んだ末、蘭は邪龍魔人を追跡することを選んだ。

「分かった。ここはみんなに任せるよ!邪龍魔人のことは…光君のことは私に任せて!」

蘭は邪龍魔人が逃げた方向へと駆け出していった。

 邪龍魔人の歪んだ目的を止め、光君を救って、この世界に平和と明るい未来をもたらしてみせる!

人類反乱軍のメンバーとして戦う16歳の美少女・九堂蘭は改めて決意した。

 世界の命運を懸けた人類反乱軍と邪龍人たちの最終決戦の日札が今、叩き落とされたのだった。




 邪龍魔人をたった一人で追跡した蘭はとうとう邪龍魔人を瓦礫で覆いつくされて廃墟と化した地区へとやって来た。

「もう逃げられないよ!」

蘭が背を向けて立ち止まっている邪龍魔人に声をかけた。それを聞いて邪龍魔人も振り向きながら紫色の不気味なオーラを発した。紫色の不気味なオーラが邪龍魔人の全身を包み込んだ瞬間、邪龍魔人の姿が変化し始めた。二足歩行に背中から巨大な翼を生やしたドラゴンのような容姿からみるみる人間のような姿へと変化していく…。やがて、邪龍魔人は額に青いバンダナを巻いた若い男性の姿へと変化を遂げた。その姿は以前まで人類反乱軍のリーダーとして人類反乱軍を引っ張ってきた若き戦士で邪龍人との戦いが終わって、世界が平和になったら付き合おうと約束をした相手でもある青年・神道光だ。

「光君…やっぱり私たちは……戦わなくてはいけないのかな…?」

邪龍魔人が擬態した神道光は目を細めながらゆっくり蘭の方へと歩み寄ってきた。

「蘭…今ここには俺たち二人しかいない…俺と君の二人きりの状態だ……」

「……えぇっ……?」

邪龍人最強の戦士が擬態した神道光は一体何を言っているんだ?

神道光に擬態した邪龍魔人の言っていることの意味を理解しきれず、困惑している蘭に構わず、光に擬態した邪龍魔人は話を続ける。

「今までの態度や行動は全て演技なんだ…」

「全て演技?」

「そうだ。俺は邪龍魔人であることを知ってから仲間を失う以上のショックだった。自分の家族も殺した倒すべき相手の正体が自分自身であったから……。雅人からも敵視され、自分自身が嫌になった。そこで俺は雅人の攻撃を避けながらあることを思いついた。わざと人類反乱軍を裏切って、邪龍人側につこうとな。」

それを聞いて蘭は驚いて目を丸くした。そうだったのか、だからあの時、雅人さんに攻撃をしたんだ…。でも、雅人さんを殺す必要までもなかったのに…。

「わざと邪龍人側について、邪龍魔人を殺して、邪龍人の大首領となって自分もろとも君たち人類反乱軍のメンバーでもある君たちに倒してもらおうと俺は考えたんだ。」

「でも、どうして雅人さんを殺害したの?雅人さんの考えもあんまりよくなかったけど…殺す必要はなかったはずだよ…!」

邪龍魔人が擬態した神道光の行動の真意を知った蘭は大声で叫んだ。

「たしかにあの時の俺は雅人の首の骨を折って殺害した。だが、あの後俺は自身が持つ回復能力で彼を復活させた。邪龍魔人として人間を裏切った直後に君たちが吹っ飛んだ直後にこっそりな。」




 九堂蘭が邪龍魔人に追いついた頃、真田雄吾率いる人類反乱軍に所属する人間たちと大勢の邪龍人たちが大乱闘を繰り広げていた。その様子を一人の青年が見ていた。頭髪を金色に染め、右手には緑色の長槍が握られている。この青年は邪龍魔人によって首の骨を折られて殺害されてしまった草野沢雅人だ!先程邪龍魔人が言っていた通り、邪龍魔人の特殊能力の影響で復活を遂げたのだ。

「俺の出番だな…!よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」復活を遂げた草野沢雅人は愛用している緑色の長槍を荒々しく振り回し、豪快な攻撃を叩き込んで次々と襲いかかって来る邪龍人たちを一人、また一人とはじき飛ばしていった。「草野沢さん、どうして⁉」

復活した雅人が戦っている様子を見て驚く人類反乱軍のメンバーたち。

「雅人さん、あなたは生きていたのですか?」

「ああ。俺にもよくわからねえけど、目が覚めたら人類反乱軍と邪龍人の大群が戦っているのが見えたんだ。」

悟の質問にそう答える草野沢雅人はどうやら、自分は一度邪龍魔人の手によって殺されているという記憶がないようだ。

「貴様、なぜ生き返ったのかは知らんが、今度こそ地獄に叩き落としてやる!」

「生き返ったという言葉の意味はよく分からねえけどよぉ…今度こそ返り討ちにしてやるぜ!覚えておけよ!」

雅人は緑色の長槍を豪快に振り回しながら突進していく。

「僕たちも負けていられないな…!」

雄吾も短剣を両手に一本ずつ持って雅人を援護するために走り出した。




 蘭と邪龍魔人が擬態した神道光の会話はまだ続いていた。

「今の俺の望みはたった一つだけだ……。君の手で俺を今すぐに殺してくれ…………!」「ええっ⁉そんなぁ………」

邪龍人が擬態した神道光の叶えてほしい願いを聞いた蘭は驚きのあまり目を丸くし。その場で凍り付いてしまった。

「たしかに人類反乱軍にも仲間はたくさんいる…!でも、この願いをかなえられるのは君一人しかいないんだ、蘭!頼む、やってくれ……!」

「そ…そんなこと……で………できるわけないじゃん‼私は………心優しくしてくれた光君のことが……大好きなのに………愛しているのに……邪龍人たちとの戦いが……終わったら…付き合うって約束をしたのに……私にはできないよ……!」

蘭は涙をこらえきれず、泣き出してしまう。

「光君……もっと何か……そのぉ………そんな願いとか捨ててよ!これからは人間として生きていこうよ……!そっちの方が絶対いいって…!」

「俺だってそうしたい……だが……それは駄目だ…。そうでなくては…俺の目的が達成できない……」

「えぇっ?目的…?」

目的という言葉を聞いて蘭は首を傾げた。目的を達成できないとは一体どういうことなのかよくわからない。邪龍魔人が擬態した神道光は一体何をしたいのだろうか?

「俺は本当の神道光の家族を殺害した。それから本当の神道光も殺害し、擬態した際に邪龍人や邪龍魔人に対する激しい憎悪までもコピーしてしまったため、自分自身の正体が邪龍魔人であることを忘れてしまった。自分自身が邪龍魔人であることを忘れてしまった状態で神道光として生きていく中、俺は人々の平和を守るために全ての邪龍人を倒さなくてはならないという目的を持った。その目的は今でも変わらない…」

「それなら私たちと協力して戦えばいいのになんで…⁉自分を殺してほしいという願いの意味が分からないよ‼」

蘭は泣きながら怒鳴りつけた。

「それはなぁ……俺が……邪龍魔人だからだ……つまり……俺自身も…邪龍人に…全ての邪龍人に……当てはまるんだよ………それに、俺は自分自身が許せないんだ……家族を殺して、世界征服を企んで殺戮を好む残忍な種族の最強の戦士の正体が俺だから……」

それを聞いてひざまずいた状態で泣き崩れていた蘭が立ち上がった。しかも既に泣き止んでいる。表情は真顔で、まるで何かを決意したかのような状態だ。

「分かったよ…。私はあなたをこの手で倒す…!この世界の平和を守るため……邪龍魔人が擬態した神道光君の願いを叶えるため……そして…神道光君の意志を…平和を守りたいという意思を継ぐために……!」

そう言うと、蘭は赤いドレインソードを右手で持ち、構えた。

「それでいい…かかってこい……!……蘭…!」

邪龍魔人が擬態した神道光も全身から紫色の不気味なオーラを放出した。その不気味な紫色のオーラが全身に包まれていき、神道光の姿からドラゴンのような凶悪な姿へと変貌を遂げた。先程まで殺した人間である神道光の姿から擬態を解いて、邪龍魔人の姿へと戻ったのだ。神道光の姿から本来の姿へと戻った邪龍魔人は真正面でドレインソードを構えている九堂蘭を真っ直ぐ見つめた。蘭も倒すべき相手である邪龍魔人を真っ直ぐ見つめ返している。

ついに、決着の時だ!




 その頃、人間反乱軍を裏切って邪龍人側につく演技をしていた神道光こと邪龍魔人の特殊能力によって復活した草野沢雅人や真田雄吾、その他の人間反乱軍のメンバーたちの活躍で邪龍人たちの複数人が倒されていた。

「よっしゃぁ!かかってこいやぁ、邪龍人どもぉ!」

雅人は長槍をものすごいスピードで振り回すと、飛びかかってきた一体の邪龍人めがけて勢いよく投げつけた。

「とおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

槍は見事飛びかかってきた邪龍人の胴体を貫通し、近くの建物の壁に突き刺さった。投げつけられた槍で胴体を貫かれた邪龍人はそのまま絶命し、動かなくなった。

「まだまだいくぜぇ!」

雅人めがけて突進してくる邪龍人の大群を見て雅人は槍を一人の邪龍人の遺体から引き抜くと、ものすごいスピードで突進してくる邪龍人の大群めがけて再び緑色の長槍を回転で勢いをつけて投げつけた。雅人が愛用している緑色の長槍は拳銃やライフルなどから発射された弾丸のようなものすごいスピードで真っ直ぐ邪龍人に向かって飛んでいく。

「「「「「ぎいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」」」雅人が使用している長槍は物凄いスピードで雅人めがけて突進してきた邪龍人たち全員の胴体を貫通していき、飛んでいった先で邪龍人たちと戦っていた真田雄吾の左手に渡った。「すいません雅人さん、たまたま僕のところへ飛んできたんでキャッチしてしまいました。ちょっと使わせてもらっていいですか?」

「ああ、自由に使ってくれ。その代わり邪龍人に負けるんじゃねえぞ、後輩!」

 雅人が愛用している緑色の長槍をキャッチした雄吾は右手で普段自分自身が愛用している短剣を持ち、左手で先程キャッチした雅人が愛用している長槍を持って向かっていた。「そんなおもちゃで俺たち邪龍人に勝てると思っているのかぁぁぁ!」

大勢の邪龍人たちが雄吾に両手の指先から伸ばしたナイフのように鋭い爪を光らせ、飛びかかってきた。雄吾も両手で持った二種類の武器を手に受けて立つ。

「僕だって負けていないんだから舐めるなよぉ!」

雄吾は両手の武器で勢いよく正面の邪龍人を押し出した。それによって、邪龍人の動きが一瞬だけ止まる。

「よぉし今だぁ、反撃開始‼」

雄吾は雅人から借りた槍を竜巻のようにものすごいスピードで振り回して周囲で攻撃を仕掛けようとしている邪龍人たちをなぎ払った。

「「「「「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」」」雅人から借りた緑色の長槍を使用した雄吾によってはじき飛ばされた邪龍人たちにどこからか数本の矢が飛んできた。人類反乱軍のメンバーたちが一斉に発射したのだ。

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!

「「「「「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」」」矢が見事胸部に突き刺さり、大勢の邪龍人たちが絶命して、その場で横たわって動かなくなった。

「僕のとっておきの技をみせてやるぞ!」

そう言うと、雄吾は数本もの短剣を軽く投げて宙に浮かせた。そして、落ちてきて自分の正面に来た瞬間に、雅人から借りた長槍を一回転して勢いをつけ、素早く振りかざした。それによって、雄吾の短剣がミサイルのようにものすごいスピードで邪龍人たちめがけて飛んでいく。このような槍や短剣の使い方はまるで野球やソフトボールなどでよくやるノックみたいだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」雄吾のナイフと雅人から借りた長槍を駆使した大技で大勢の邪龍人たちが絶命した。

「よっしゃぁ!やったぜ!」

大勢の邪龍人たちを倒した雄吾は右手の親指を立て、サムズアップをみせた。




 その頃、邪龍魔人は蘭に攻撃を仕掛けていたが、蘭は反撃すらもせずにひたすらかわし続けていた。

「一体どういうことなの?自分自身を私に倒すよう頼んできたばかりなのに…」

「悪いな、蘭。倒される前に君の実力はどうなっているのかを試させてもらおうと思ってな。少しの間だけ攻撃を仕掛けさせてもらうぞ!」

邪龍魔人は紫色の剣を構えると、そのまま斬りかかってきた。蘭もドレインソードで受けて立つ。邪龍魔人は紫色の剣を勢いよく振り下ろすが、蘭は邪龍魔人の剣を左手で刀身を掴み、右手で持ったドレインソードを突き刺した。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ドレインソードが刺さったことで体力が吸い取られていく。蘭はそのまま愛用している剣を勢い良く振って邪龍魔人を投げ飛ばした。体力も削られ、邪龍魔人は苦しそうに倒れ込む。「とどめだ…!」

ドレインソードで斬りかかる蘭だが、剣を目の前で止めてしまう。

「どうした、蘭?思い出してくれ…あの時俺は俺を倒すよう君に頼んだじゃないか………」しかし、蘭は何も言わない。気がつくと、蘭は涙を流していた。やっぱり仲間を殺すことなんてできない。蘭は守るべきなのは仲間からの頼みを叶えることか、それとも仲間の命を守るべきなのか、迷っているのだ。

「しっかりしろ!それでも平和を守れるのか⁉」

瀕死の邪龍魔人は大声で怒鳴るが、先程の戦いで体がボロボロであるため、大声を出した瞬間にゴホゴホとせき込んでしまう。

「……さっき決意したばかりじゃないか……この世界を守るって……俺の…………神道光の意志を継ぐって……だから頼む………しっかりしろ…!」

それを聞いて蘭は左手で涙を拭くと、再び邪龍魔人を見つめた。

「戦いが終わった後の約束を…果たせなくて……ごめんね…今までありがとう……」

それを聞いた邪龍魔人は神道光の姿となった。

「俺の方こそ……ありがとう……これからもこの世界を頼む……強くなったな…蘭……!」それを聞いて蘭は涙を浮かべながら光に抱きつく。光も優しく蘭を抱きしめる。

「それじゃあ……愛しているよ…光君…」

そう言うと、蘭は光にキスをすると、再びドレインソードを構えた。光も満足そうに優しく微笑むと、擬態を解いて本来の邪龍魔人の姿へと戻る。その直後に蘭のドレインソードが空を切り、邪龍魔人の視界も真っ暗になった。

 こうして世界と全人類の命運を懸けた人類反乱軍と邪龍人の大乱闘は週末を迎えた。結果としては人類反乱軍の勝利だったが、九堂蘭と神道光の恋は悲しき末路を迎えてしまったのだった。

邪龍魔人を倒し、戦いを終えた蘭は涙を流しながら邪龍魔人の遺体を実家の畑の跡地に埋めた。そして、近くで取ってきた白い花を供えて、手を合わせた。

「光君…これから私は世界の平和のために頑張っていくよ…だから…私の家族と共に天国からいつまでも見守っていてください……」




 邪龍人たちとの死闘を繰り広げて数日たったある日のことだった。九堂蘭は人類反乱軍の隠れ家でたった一人で荷物をまとめていた。

「蘭、一体何をしているんだ?」

「今日から私、旅に出ようと思って。」

蘭は雅人にそう答えた。

「旅に出るってどういうことなんだよ?」

雄吾も首を傾げ、目も丸くする。

「これからもこの世界の平和を守ろうと思っているけど、そのためには色々なところを旅していっていろいろ知っておかないと駄目なのかなって思ったんだ。でも、安心して!何かあったら絶対に駆けつけてみせるから!」

それを聞いて雄吾は笑顔を見せた。

「そっか、分かった。こっちの方は僕たちが守る。今度はもっと強くなってから会おうね。」普段から無愛想な雅人も珍しく微笑んだ。

「最初は嫌な態度を取って悪かったよ。関係のない人を巻き込みたくなかったからさぁ。今思うと、やっぱりお前ってすごいぜ。旅に出てからも頑張れよ。」

「うん、ありがとう。頑張るよ!」

 九堂蘭は仲間たちに見送られ、人類反乱軍の隠れ家を後にして、孤独の旅に出ていった。

これから先、何が彼女を待っているのだろう?それは誰にも分からない。

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