第2話 兄弟とロッソ
雲一つない青空の下、だだっ広い草原が広がっている。遠くへ広がる地平線の先に紺色の山脈がそびえたつ。草原の中には茶色い一本の線をまるで巨人が引いたかのように道がある。道を歩くのは大きな荷物を背負った商人や、馬車、ときおりエンジン音を立てて乗り物であった。
太陽が頭の真上に来る頃、一台の二輪車が大きな音を立てて走っていた。黒く光る二輪車は太陽の光を反射して時折まぶしい光を放っている。
運転手は車体と同じような黒いヘルメットをし、これまた同じように黒いコートと黒いズボン、黒い靴を履いている。ヘルメットは顔全体を覆っており、顔は見えない。だが、背丈は高く、やシルエットからは男性のように思える。
運転手は右手のアクセルを緩めず、ただひたすらに前進している。長時間運転しているのだろうか、時折お尻をもぞもぞと動かし姿勢を整えている。
そんな彼の前に一人の男性の後ろ姿が目に映った。白いタンクトップに茶色いズボンをはいていて、髪の毛は短かった。
いったい彼はこんな草原の下で何をしているのだろうか?
運転手は、十分にハンドルを左へ切り、十分な距離を保ったうえで男性の隣を通り過ぎた。一瞬見えた男性の顔にはうっすらと顎髭が生えているのが見えた。顔つきから察するに年齢は20代半ばだろうか。
運転手はちらりと横を見て今さっき通り過ぎた男性の方を見ると同時に不思議そうに首をかしげた。
そこには奇妙な光景があったからだ。先ほどの男性の手から細長い布のようなものが伸びている。布の幅は40cmほどだろうか。驚くべきはその布がはるか遠く、地平線まで続いているということだ。
運転手はヘルメットのバイザーを上げ、視界を確保した。確かに男性の持っていた布が遠く遠くへと伸びているのが見える。
男は緑の瞳の目をぱちぱちと瞬きさせ、「よっし」と呟くと左足を踏み、ギアを一段上げた。再びハンドルをひねり、布(のようなもの?)の行く先をたどっていく。
1時間ほどほど走っただろうか、運転手は進行方向のずっと先に小さく、親指の第一関節程度だったが、人がいるのを見た。布の終点はそこであった。ゴールを見つけた運転手は、姿勢を正し、布の行く先へと急いだ。
二輪車が進んでいくにつれ、布の先にいる男性の姿があらわになってきた。背格好は先ほど見た布を持っていた男性に似ているように思えた。
運転手が最初に布を持った男を見てから約1時間と30分が経っていた。運転手はとうとう布の終着点へたどり着いた。
布を持った男性のそばまで来ると、二輪車のスピードを緩め、エンジンを切った。男性は不思議そうな顔で運転手と彼の乗り物を眺めていた。
運転手はヘルメットを脱ぎ、二輪車の座席付近にあるフックにヘルメットをひっかけて固定した。運転手は緑の目をして、黒い髪をしていた。長い運転でやや疲れた顔をしているが、目鼻立ちの通った青年の顔はまるでどこかの舞台俳優のようであった。
運転手が布を持った男へと近くと、それに気づいた男性が挨拶をした。男性は白いタンクトップに紺のジーンズをはいていて、口元に髭を生やしていた。
「やあ、こんにちは。かっこいいバイクだね」
「どうも、俺の名前はロッソ。俺の相棒、イケてるだろ?」
運転手にっこりと笑ってそう返した。そして、こう質問した。
「あんたの持っているそのとんでもなく長い布っていったいなんなんだい?」
「これはね、俺が兄貴と一緒に作った特殊な糸で編んだ『布』さ」
「布ねえ...。するってえと、あんたとその兄貴は元々服屋かなんかなのかい?」
ロッソは砕けた口調で男性へと質問を続ける。
「いや、俺たちは服屋でも、仕立て屋でもなく、科学者をやっているんだよ。『カイコ兄弟』って聞いたことないかい?」
ロッソは右手を顎に当て少し考えた。その後、2秒ほどして「すまない、知らない。」と答えた。
「ははは、旅の方はさすがに知らないか。俺たち兄弟は絶対にちぎれない布、とか食べれる布とかそういった不思議な布の開発研究を行っているんだ。」
「俺は化学とか力学とか、そういった類のことはよくわからないけど、なんだかおもしろい研究をしているんだな」
「そう言ってくれると嬉しいな。そうだ!ちょうどこんな広い草原だし、話し相手がいなくて暇だったんだ。せっかくなら少しお話していかないかい?急ぎならべつに断ってくれてもいいんだけど...」
男性はどうやら退屈しているようであった。
「構わないよ。せっかくだし色々研究について教えてくれよ。」
ロッソの返答に男性は布を両手でつかんだまま笑顔で笑って返した。
「よーし、じゃあ今俺の持っている布について教えちゃおうかな。」
「そうそう、それについて俺も知りたかったんだ。なんでずっと布を持っているんだい?」
興味深そうにロッソが男性へ訪ねる。
「実はこの布はね、繊維の一本一本が強い弾性をもっているんだ。」
ロッソが首をかしげる。
「弾性?」
「ものが元に戻ろうとする力のことだね。わかりやすく言うとこの布は長~~いゴムみたいなも」
突如破裂音のような音が響き、男性の言葉が不自然に途切れた。いや、それだけではない。男性の姿がロッソの目の前から消えている。目の前に残っているのは「弾性のある布」だけだった。
「......まさか」
ロッソは急いで二輪車に乗り、エンジンを始動させた。ロッソは先ほど科学者の男性に会う前に向かっていた方向へと走る。
かなりの速度で5分ほど走ったところ、左頬を真っ赤に腫らして倒れている人影を見た。倒れていたのは、研究者の彼であった。
───
──
─
余談だが、その後、ロッソは研究者の男性を介抱し兄弟のもとへと連れて行った先で、お礼としてかなりの御馳走をもらったそうだ。
ロッソとSS へどろいど @hedoroido1234
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