第109話 死闘

 レウスに向かって走る。全身のドラゴンメイルが音を立てる。強化された肉体が、俺のイメージ通りの動きを再現してくれる。


 今までどれほど願っても手に入れられなかった動き、その全てを今の俺は再現することができた。


 レウスが手をかざす。魔法が……来る。


重力魔法グラヴィト


 ヤツの魔法の発動と共に右へ飛び、そのまま一気にレウスの懐に飛び込む。


「ガルスソード!」


 驚愕の表情を浮かべるレウスにガルスソードの一太刀を浴びせる。ヤツの仮面を弾き飛ばす。しかし、魔王戦で能力を使い切ったガルスソード1ではヤツを仕留めることはできなかった。


「ジェラルドおおおおおおお!!」


 レウスの拳が顔面に直撃する。一瞬隙を作ってしまう。その隙を突くようにヤツが魔法を発動する。


重握魔法グラヴィセイズ!!」


 咄嗟に避けようとしたが、ヤツの重力の手が俺の左腕を掴む。メキメキという音と共に強烈な痛みが全身を駆け巡った。


「ぐああああああああ!?」


「そのまま死ね!!」


「んなわけねぇだろうがあ!!」


 右腕のガントレットからガルスソードⅢが射出される。それを空中で掴むとレウスの肩めがけて全力で突き刺した。


「が、あああああああ!? まだ残って!?」


「俺のガルスソードはまだあんだよ!!」


 そのままレウスに頭突きを喰らわせる。魔法の力が弱まった瞬間。ヤツの鳩尾みぞおちに蹴りを入れる。


 しかしレウスは怯まず、俺の左を掴みあらぬ方向へと折り曲げた。


「ぐぅっ!?」


「これで完全に折った! 諦めろジェラルド!!」


 レウスが再び拳を叩きつける。


「ドロシーは!! 苦しみ続けたのだ!! 泣き続けたのだ!! そんな人がこのまま死ぬなど許せるものか!!」


「ぐ……っ!?」


 何度も頬に衝撃が与えられる。その度に脳が揺さぶられ、意識が飛びそうになる。


「彼女の種族は滅びた! 彼女は魔王に家族を奪われ、もてあそばれた!! このまま死ねば彼女は何の為に生まれたのだ!! 何のために!! 私にはそれが耐えられない!! だから彼女の為に死んでくれ!! お前も! お前の女も!!」


 倒れ込む。馬乗りになったレウスが何度も俺を殴りつける。


「このままではダメだ! ダメなんだ!! ドロシーは幸せにならなければ……っ!」


 うるせぇ……。


「死ねぇ!! ジェラルド!!」


 レウスが拳を振り上げた瞬間。力を使い切ったガルスソードⅢをその脇腹に突き刺した。


「あ゛ああああああああ!!!」


「うるせぇ!!!」


 苦しむレウスの胸ぐらを掴み再び頭突きを浴びせる。怯んだ隙にヤツに馬乗りになって拳を浴びせる。



「ロナはなぁ!! 孤独に生きて来たんだ!! 魔王に、テメェに利用されてきたんだ!!! そんな女が不幸になるのを見過ごせるわけねぇだろ!!」


「ぐっ……!」



 殴りつける。



「全部終わったらロナに話すつもりだったんだろうが!! アイツの罪悪感につけ込んで、ドロシーに体を渡すよう仕向けるつもりだったんだろうが!!」


 殴りつける。



「許せねぇ!! アイツの優しさを利用すんじゃねぇ!!!」



「黙れ!! ドロシーを救う為なら私は!!」



 レウスが重力握魔法を発動させる。重力の手が背後から俺を狙う。



「く……!?」


 咄嗟に飛び退き、レウスと距離をとる。大地についた両脚がガクガクと震える。


 ちっ……だいぶダメージが来てやがる。


 

「ジェラルド……ロナを寄越せ。ドロシーの為に」



 フラフラと立ち上がるレウス。



 ヤツも限界が近い。



 仮面を付けていた時間から考えると、恐らくヤツの魔法は重握魔法グラヴィセイズなら1回。重力魔法グラヴィトなら2回が限度のはずだ。


 俺の武器は……。


 折れた右腕のガントレットに残るガルスソードⅢ。力があるのはこれで最後……致命傷を与えられる攻撃はこれが最後だ。



 ……へ、へへ。


 我ながらよく頑張ったぜ。弱いくせに武器も巻物スクロールも使うタイミング計って魔神竜に魔王……それに今レウスと戦ってるんだからよ。本当に、弱いくせに……。



 俺は……死ぬかもしれねぇな。



 ……でもよ。嫌なんだ。ロナが死ぬのは。



 ロナ。お前にだけは、笑っていて欲しいんだ。



 レウスも同じ……。



 ヤツも俺と同じ、惚れた女の為に戦ってんだからよ……。



「だから諦めきれねぇ。そうだよなぁレウス」



 折れた左腕のガントレットから最後のガルスソードⅢを取り出す。

 


「これが最後の一撃だ」



 レウスが俺へと真っ直ぐに腕を向ける。ヤツの脚も……もう回避もできねぇとみて攻撃に集中しやがったな。



「ジェラルド!!」

「レウス!!」



 レウスに向かって走る。ガルスソードⅢを構える。



重握魔法グラヴィセイズ!!」



 レウスが腕を叩きつける。頭上から重力の手が俺を狙う圧力を感じる。これでヤツの魔力が尽きる。これさえ避ければ……!



 運命の眼帯を発動する。スキル「回避」の力で攻撃を避け、一気にレウスの懐に飛び込む。


「食いやがれ!!」


 ナイフを構えた瞬間。レウスの顔が見える。ヤツの顔は……。


 諦めていなかった。



重力魔法グラヴィト!!」



 2度目の魔法。ありえない動き。俺の頭が一気に真っ白になる。



「なっ!?」



「運命の眼帯は知っている!!」



 ……そうか。



 レウスの野郎。俺に運命の眼帯を使わせる為に……さっき発動してたのはフェイクの重力魔法だったってことかよ。



 クソ……俺はここまでってことかよ……。



「死ね!! ジェラルド!!」


 


 上空から重力魔法が叩き付けられる。力が集約された、レウスの全力の魔法が。




 すまんロナ。俺は……。




 ──帰って来てね。




 脳裏に、ロナが言った最後の言葉が蘇る。あの微笑みが、蘇る。




 そうだ。




 俺は……ロナといたいんだ。アイツが幸せになるだけじゃ、ダメだ。




 そんなロナを俺は……見たい。




 一緒に生きたい。




 世界が遅くなる。



 迫る重力魔法。



 勝利を確信したレウス。




 動け。




 動けええええええええええええええええ!!!!




 全身に命令を出す。力を反対方向へと向ける。後ろに飛び退くように。




 そうだろ。聞いてくれ。



 俺の体。



 ジェラルド・マクシミリアンの体。




 今俺は……ヤツから、レウスの攻撃から……。




「にげる」んだろ。




 突如。




 全身から青い光があふれ出す。




 スキルの発動を意味する青い光が。



「うおおおおオオオオオオ!!!」



 叫びと共に脚へ力を込める。



 「にげる」のスキルが、身体強化魔法によって強化された体に発動し、重力魔法の速度を超える。



 後ろに飛び退く。



 重力魔法が鼻を掠める。



 目の前の大地が魔法によって円形状に潰される。



 それと同時にレウスの懐へ飛び込む。



 ガルスソードⅢを突き刺した。



 ガルスソードIIIの黄金の光が俺達を包み込む。



「ば、バカな……」



 レウスの全身から力が抜けていく。



 限界を迎えたレウスの体は、力なく崩れ落ちた──。




 ―――――――――――

 あとがき。


 死闘の末勝利したジェラルドは……間も無く最終回です。

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