第107話 二対の光

 異世界の勇者であった者……魔王デスタロウズがジェラルドの元へ飛び込む。


 デスタロウズが魔剣フレイブランドを薙ぎ払う。


「……っ!?」


 咄嗟にガルスソードⅠを盾にし攻撃を防ぐジェラルド。しかし、その威力は殺しきれず、後方へと吹き飛ばされてしまった。


「師匠!?」


「まずは邪魔な外野共からだ」


 デスタロウズが踏み込むと一瞬にしてエオルの目の前に現れる。


「なっ!?」


 反応速度が追いつかないエオル。そんな彼女へと魔剣が振り下ろされる──。


「エオル殿!!」

「ギィ!」

「ギギッー!!」


 ブリジットと2体の魔導騎士がデスタロウズへと組み付いた。


「うっとおしいガラクタどもが」


 デスタロウがブリジットの両腕を掴み、大地へと叩き付ける。あまりの衝撃で、ブリジットの鎧に亀裂が入る。


「があっ!?」


 そのまま、魔剣フレイブランドで2体の魔導騎士を貫いた。


「ギ……ア……」

「ギゥゥ!?」


「ブリジット!!」


 エオルがブリジットの元へと駆け寄る。


「エオル殿……逃げるであります……」


「何言ってんのよ!! 今回復の巻物スクロールを……」


「戦闘中に他者を気にするとは……」


 エオルの背中をフレイブランドが一閃する。


「かはっ……っ!?」


 倒れ込むエオル。その様子を見てデスタロウズは吐き捨てるように言った。


「器……いや、この世界の勇者と呼んでやろう。仲間が痛めつけられる様はどうだ?」


「……お前」


 ロナがワナワナとルミノスソードを握り締める。その瞬間、彼女の両眼が真っ赤に光り、全身から大量のオーラを放出させた。


「貴様は何かを奪われるのが嫌いだそうだな? 今すぐコヤツらを殺してやっても良いのだが?」


 デスタロウズがロナを見た瞬間。


 レウスが魔法を放った。


重握魔法グラヴィセイズ!!」


 周囲の空間ごと、重力で形作られた手のひらがガシリと掴む。


「ロナさん!! 私が抑えているウチに早く止めを!!」



「抑えるとは?」



 一瞬にしてレウスの懐に移動したデスタロウズ。彼のフレイブランドがレウスの肩を貫いた。



「があっ!? あああああああ!?」



「シリウスぅ? 貴様はとんだ失敗作だな。やはり元の世界の記憶などを頼るべきではなかった」


 デスタロウズがシリウスの瞳を覗き込む。


「魔王の真似事・・・など無意味だった。幹部共など生み出さねば良かった」


「ぐううぅ!! デスタロウズぅ!!」


 シリウスが無理矢理手を翳す。


重力グラヴィ……」


「貴様に魔力は不要だな。返せ」


 デスタロウズかシリウスの頭をガシリと掴む。


魔力吸収マジックドレイン


「あ、あ"ああああ!?」


 レウスの魔力が吸収されていく。やがて、その魔力がになり、仮面の男、レウスが意識を失う。そのまま、デスタロウズはレウスを大地へと叩き付けた。



 一瞬。



 本来の姿となったデスタロウズは、一瞬にして勇者パーティを戦闘不能にさせた。



「さて。次はお前の番だ勇者。勇者と元勇者の対決と行こうか」


「お前えぇぇぇ!!」


 ロナが大地を蹴る。マントを靡かせ、その赤い瞳が彼女の駆け抜けた後に赤い軌跡を描く。



獄炎旋風斬ごくえんせんぷうざん



 デスタロウズが魔剣を薙ぎ払う。炎の刃がロナへと襲いかかる。



「エアスラッシュ!!!」



 ロナが風の刃を放つ。仲間が倒された怒り。感情を鍵として発動するゲイル族の能力……それによって、身体能力が急速に向上したロナ。彼女が放つ一撃は今までの物よりも圧倒的に巨大な刃を作り出した。



 風の刃と炎の刃がぶつかり対消滅する。


「面白い!」


 デスタロウもロナの元へと飛び込む。


「絶対に殺してやる!!」

「勇者の言う台詞では無いな!!」


 交わるロナの光の剣とデスタロウズの炎の剣。それが薄暗い魔王の間に火花を散らす。


空舞斬くうぶざん!!!」

獄炎空舞斬ごくえんくうぶざん!」


 空中で高速回転した2人が激突する。ギャリギャリという音が響き渡る。


 回転が止むと同時にロナが「クロスラッシュ」を放つ。十字の刃を避けた魔王がロナを蹴り飛ばした。


「ぐぅっ!?」


「その程度か勇者ぁ!!」


 クルリと回転して着地したロナ。彼女はデスタロウズの着地地点へと再び飛び込む。


「エアスラッシュ!!」


 再び放たれる風の刃。デスタロウズが着地と同時に炎の剣で斬撃を受け止めた。


 その瞬間。


 目の前に飛び上がったロナが再び技を放つ。


「クロスラッシュ!!」


「ちっ」


 デスタロウズが後ろへ飛び退く──。


「逃げるな!!」


 ロナがマントを使い、デスタロウズの腕を絡めとる。避ける道を失った彼に十字の斬撃が直撃する。


「……!? 貴様ぁ!!」


 デスタロウズが剣撃を放つ。


「く……っ!?」


 高速の太刀筋。その全てが早く、重く、ロナは防ぐことしかできなくなっていく。


「何が勇者だ!! 守ってやった者達は勇者などすぐに忘れる!! 自分達の都合の良い歴史へ書き換え、お前の存在など歴史から消える!!」


 デスタロウズがロナに蹴りを放つ。かろうじてそれを避けたロナが反撃の突きを繰り出すが、デスタロウズは炎の剣でそれを弾く。


「世界を救う為に手を尽くした!! 母を殺した!! この手を汚したのは我だ!! だが世界は我に感謝などしていない!! 挙句、我はあの世界から追放された!! 真の王となるべき存在は我であったはずなのにだ!!」


「そんなこと……」


 ロナが剣撃を放つ。デスタロウズがそれを受けたタイミングを見計らって彼女はデスタロウの顔面を殴り付ける。


「ぐっ!?」


「知るか!! 僕は守りたいから守るんだ! 奪われるのが嫌だから戦うんだ!! お前みたいに何かのせいにしちゃいない!!」


 マントでデスタロウズの脚を絡めとる。バランスを崩したデスタロウズを蹴り上げる。


「お前が報われないからこの世界を奪うのか!? その為にドロシーにひどい事をしたのか!! お前の悲しみを癒す為に他人を不幸にするなああああああ!!」



 ロナが体勢を低く構える。その手のルミノスソードがキラリと輝きを放った。



連環輝舞れんかんこうぶ!!」



 幾重にも重なった斬撃が、人の姿のデスタロウズを切り刻む。極限まで引き上げられたロナの身体能力。通常斬撃に混じる風の刃。その全てがデスタロウズに直撃していく。


「ぐっ……あっ……」


 しかし。


「その……程度の技など!!」


 デスタロウズが血を吹き出すのを諸共せず、ルミノスソードを掴む。そしてその刀身を素手で叩き折った。


「ルミノスソードが!?」


「がはっ……っ! 油断してる場合では無いぞ勇者ぁ!!」


 デスタロウズが血を吐き出しながらロナを殴り付け、そのまま胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。



「このまま技の前に消えろ!! 目障りな小娘が!!」



 デスタロウズが剣を肩に担ぐ。デスタロウズが先ほど放った恐るべき一撃「獄炎崩撃斬ごくえんほうげきざん」を放つ為に。

 


 吹き飛ばされるロナ。しかし、彼女の目は死んでいなかった。



 まだだ。まだ……僕は戦える。ヤツを絶対に倒す。



 折れたルミノスソードを握りロナが大地を踏み締める。バキバキという音と共に地面を削りながら吹き飛ばされる勢いを殺す。



 まだだ……まだ僕は……っ!?



 ロナが必死に頭を回転させていると、急に背中を誰かに抱き止められた。吹き飛ばされた勢いが一瞬にして無くなった。



 誰? 僕の背中を支えてくれたのは?



「よぉロナ。待たせちまったな……エオルがヤバくてよ」



 その声に振り向くと、自分を抱き止めた男が1人。



 ドラゴンメイルに眼帯の男が立っていた。



「し、しょう……」


「武器がねぇのか」



 ジェラルドが腰のガルスソードⅡをロナへと渡す。


 ロナが、渡された鞘を見る。刻まれた鶏の刻印。それがぼんやりと黄金の光を放っていた。



「使い方、分かるか?」



 ロナの脳裏に、ジェラルドの姿が映る。ザヴィガルから自分を救ってくれた時の姿が。



「見てたから。師匠のこと、ずっと……」


「そうか。なら、何も言うことはねぇな」



 ジェラルドが、腰のガルスソードⅠを構える。ジリジリと脚を開き、抜刀の構えを取る。



「俺が支える。お前が決めろ」


「分かったよ……ジェラルド」



 少女が大切な男の名を呼ぶ。そして、ガルスソードⅡを腰に据え、抜刀の構えを取った。



「行くぞ!!」



 ジェラルドの声と共に2人は走り出した。




「馬鹿者が!! 貴様ら諸共吹き飛ばしてやろう!!」




 デスタロウズが魔剣フレイブランドに力を込め、技を放つ。



獄炎崩撃斬ごくえんほうげきざん!!」



 魔剣を大地へと叩き付ける──。



 が。



「な、なんだ? 剣が、動かぬ……?」



 技の途中でデスタロウズの体が動かない。叩き付けるはずの剣が、何か見えない力に押し返される。



 そう。それはまるで重力が逆に作用・・・・・・・しているような。



「この力……まさか!?」



 魔王が向けた視線の先には、倒れ伏した仮面の男。



 レウスが、その右手をこちらへと向けていた。重力魔法グラヴィトを放っていた。



「ふ、ふふ……魔力を微力だけ回復させる仮面……こんな所で役に立つとは」



 レウスシリウスが笑う。



「私の力が切れる前に早く!! 早く魔王を!!」



「シリウス!!! 貴様ああああぁぁぁあ!!」



デスタロウズの絶叫。それが響き渡る中、ジェラルドとロナがデスタロウズへと走る。



「ぐ……お、おおおおっ!!」



 全身から血を吹き出させながら魔剣を叩き付けるデスタロウズ。



「ぐっ……っ!? なんという力だ……っ!!」



 ジェラルドとロナがデスタロウズの懐へ飛び込んだ瞬間、レウスの重力魔法が限界を迎えた。



「死ねえええぇぇぇぇ!!!」



 叩き付けられる魔剣。放たれる技。それに向けて、ジェラルドのガルスソードⅠが放たれる。



「ガルスソード!」



 逃走回数254回。



 ジェラルドの極限を超えた一撃が魔剣フレイブランドを捉える。



「う、お"おおおおおおおお!!!」



 最弱の男の隻眼に炎が灯る。自らの守りたいと願う女の為に。その道を開く為に。



 デスタロウズの手が大きく弾かれる。最弱の一撃が、魔王に隙を作る。



「行けぇ!! ロナぁ!!」



「……うんっ!」



 少女が抜刀する。



 ガルスソードⅡの鞘から、鶏模様の刻印から、黄金の輝きが放たれる。



「ガルスソード!!」



 逃走回数254回。




 師匠が紡ぎ、弟子が放つ一撃。それが、黄金の軌跡を描く。





 一閃。





 そして訪れる静寂。




「な、なんだこれは……これは、これが、こんな物で、私は……し、死ぬのか……は、母う」



 デスタロウズそう言った直後。彼の全身から光が溢れ出す。


「が、あ"、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」



 雄叫びと共に……かつて勇者と呼ばれた魔王は、絶命する。



 この世界の勇者は……魔王を討ち倒した。師匠と共に放った二対の光によって。



 今ここに、勇者ロナは真エンドへと到達した。



―――――――――――

 あとがき。



魔王は死んだ。しかし。ジェラルドはある行動を……。



最後までどうぞお見逃しなく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る