第106話 極限

 燃え盛る炎が急速に止んでいく。魔王の視界が晴れていく。燃やし尽くした魔王の間の一角。そこにはドーム状の障壁魔法が展開されていた。


「あの炎を防いだか」


 障壁魔法がバリンと割れる。その中から、ロナとブリジット、2体の魔導騎士が飛び出した。


「ブリジット!! 攻撃のタイミングを合わせて!!」


「了解であります!」

「ギ!」

「ギギッ!!」


 魔王へ飛び込む4つの影。それに向かって魔王が技を放つ。


獄炎旋風斬ごくえんせんぷうざん!!」


 全身の回転を加え、斬撃を放つ魔王。それに炎の魔剣が呼応し、炎の斬撃が繰り出される。


「燃え尽きよ」


 その炎が真っ直ぐロナ達へと向かう──。


「無駄よ!!」


 エオルが叫ぶ。魔王が視線を移すと、そこには杖を掲げるエオルと仮面の男がいた。


「レウス! 魔導列車ホームの時の応用いくわよ!!」

「……分かっています」


 レウスが竜巻魔法トルネードブラストを放ち、エオルが火嵐タービナスフレイムを発動する。


 2つの竜巻が、ロナ達を挟み込むように現れる。


「……何をするつもりだ」


「アンタの炎を喰ってやるのよ!!」


 エオルが杖を高らかに掲げ、膨大なな魔力の流れを作っていく。それは、魔王の放った炎の刃へと繋がれていく。



双極炎嵐魔法ツイン・フレイストーム!!」



 エオルが魔法名を告げると、2つの竜巻に火が灯る。その気流に魔力の流れに誘われるように、魔王の炎が吸い込まれていく。


「そのままお返しするわ!」


 魔王の炎を喰らい尽くし、さらに巨大となった2つの竜巻が魔王へと襲いかかる。



「炎を喰らえ。フレブランド」



 魔王が魔剣を炎の竜巻へと向けると、その炎が魔剣へと吸い込まれていく。


「我に炎魔法など無意味だ」


「そうかしら?」



 エオルの叫び。魔剣に喰われる炎の竜巻。しかし、それは、魔王の意識を完全に奪っていた。



「はあああああ!!」



 吸い尽くされる炎の隙間から、勇者ロナが突撃する。魔王の懐に入ったロナが、魔王へと技を放つ。


「クロスラッシュ!!」


「……!?」



 咄嗟に魔剣で攻撃を防ぐ魔王。その背後から、ブリジットが大斧を叩き付ける。



頭蓋割ずがいわり!!」



「狙いはそれか」


 魔王が霧散して攻撃を避ける。


「くっ!? 中々に鋭いであります!?」


「今度こそ死ね」


 再び霧が集まり、魔王が剣撃を放つ瞬間。ロナと2体の魔導騎士が斬撃を放った。


「させない!!」

「ギイ!!」

「ギッ!!」


「うっとおしい者共だ!!」


 魔王が回転斬りを放つ。その威力は凄まじく、空間を歪ませるほどであった。



「強いでありますっ!?」

「ギィ!?」

「ギギッ!?」


「ぐっ!?」


 武器で斬撃は防いだものの、ロナとブリジット、2体の魔導騎士達が吹き飛ばされてしまう。



炎雷魔法フレイライトニング!」



 ポカリと空いた魔王城の上空から、魔王へと雷が降り注ぐ。魔王が技を放った直後にできた隙を狙って。


「……くっ!?」


 魔王が霧散して避ける。


重握魔法グラヴィセイズ!!」


 重力で作られた手が、空間を鷲掴みにする。それが霧状になった魔王を捕らえる。


「なんだと?」


「逃しません!!」


 魔王の囚われた空間に雷が直撃する。周囲を埋め尽くす電光。それは、霧となった魔王すらも飲み込んでいく。




「ぐぅ!?」




 部屋中に轟く雷音。眩い光。



 しかし。



 霧が集約し、再び人の形を成していく。


「嘘……でしょ……」


「あの電撃を喰らってなお……」


 杖を下ろすエオル。立ち尽くすレウス。



「言ったであろう。貴様達に絶望を味合わせると」



 絶望の表情を浮かべるエオル達。倒れるロナにブリジット。


「貴様達の力は分かった。後は1人ずつ死へと導いてやろう」


 魔王が人型へと戻る。ゆっくりと大地へ足を着く。その声は満足気にも聞こえた。自分を倒す為に己を鍛え、策略を巡らせ、挑んだ者達。それを蹂躙するという喜び。それが魔王へある種の快楽をもたらせた。



 だが……。



 そこに……魔王の意識に、弱者はいなかった。完全に意識の向こう側へと外れ・・ていた。



 持たざる者。弱き者。



 決して強くはなれない愚か者。



 絶対強者である魔王にとって眼中にすらなかった存在が。



「おい」



 男の声と共に、魔王の全身に光が放たれる。



 原初の・・・アミュレット・・・・・・の光が・・・



「何!? ぐ、お、おぉぉぉぉっ!?」



「お〜やっぱさっきのアミュレット無効化符呪エンチャントってのはハッタリだったな」


「あ"、お"ぉぉ……っ!!」


「やっと真の姿ってのが拝めるか」


 魔王の体が黒い粘液のようにドロリと溶けていく。顔面が溶け落ちながらも、怒りの形相を抱いた魔王がジェラルドの首を鷲掴みにする。



「貴様ぁ……雑魚の分際でよくも!!」



「雑魚だって思ってていいのかよ? 俺は切り札を持ってるかもしれないぜ?」



 魔王に掴まれてなお余裕を浮かべるジェラルド。虚をつかれた魔王はその意味を理解していなかった。



「雑魚が何をしようがこの魔王には届かぬ!!」


「そうか?」


 ジェラルドのガントレットがバカリと開く。そこから3枚の紙がハラリと舞った。


 それは魔法の巻物スクロール|紫の光を帯びた巻物スクロール



 それが舞う中、ジェラルドはポツリと呟いた。



「全能力上昇竜魔ドラゴン光焔スペルグリム


 その声と共に、3枚の巻物スクロールから紫の光が溢れ出し、ジェラルドを包む。



「な!? それはイリスの!?」



「テメェが捨てた光将様の力だぜ!」




 巻物スクロールに込められた魔王軍光将イリスの最終強化魔法。



 それは、一定時間全能力を急激に引き上げる強化魔法。しかしこれにはあるリミットが設けられていた。



 それは、高レベルになるほど重ねがけ・・・・ができないというリミット。だからこそ、イリスは自身へ一度しか使用できなかったのだ。


 そのリミットは、原作ゲームにおいて、全く意味の無い設定。制作者の遊び心でしかない設定。


 しかし、原作知識からその「無駄」を使い戦って来たのがジェラルドなのだ。彼の愛剣「ガルスソード」もまた無駄の塊だったのだから。


 彼の原作知識はその為にあると言っても過言では無かった。


 ……。


 レベル最大値が10であるジェラルドに「竜魔ドラゴン光焔スペルグリム」が重ねがけできる回数は3回。



 一度だけでも強力な強化魔法が3回。それがジェラルドの身体能力を極限まで向上させる。


「ガルスソード!!」


 ジェラルドのドラゴンメイル。その肩装甲が開き、ガルスソードⅢのナイフ2本が飛び出す。


 それを両手で掴んだジェラルド。彼は魔王の肩へとその2本を突き刺した。



 逃走回数254回。全能力強化回数3回。



 極限を超えたガルスソードの一撃が、魔王の体内に衝撃を与える。



「ぐああああああああああっ!?」



 突然の激痛に錯乱した魔王が、魔剣フレイブランドを薙ぎ払う。


「効かねぇぜ!!」


 強化された回避能力でそれを紙一重で避けたジェラルド。彼の腰アーマーが開き、空中にガルスソードⅢが射出される。



「ガルスソード!!!」


 ジェラルドが空中のナイフをガシリと掴みさらなる2連撃を与える。



「2連!!」



 斬撃を受け、魔王の全身が吹き飛ぶ。部屋中に魔王デスタロウズの断末魔が響き渡った。




「が、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」



 吹き飛ぶ体。光に包まれる魔王の間。



 ジェラルドが大きく飛び退く。彼はロナの元へと走り、その体を抱き起こした。



「や、やった! 魔王を倒した!!」


「いや、まだだ」


「え?」


「ヤツの真の姿はここからだ」



 光が収まっていく。収束した光の中から現れたのはだった。



 高貴な鎧を装備し、燃え盛る炎の剣を携えた男。それが、己の手をじっと見つめていた。



 その様子は冷静そのもの。



 まるで先ほどまでの戦いがなかったかのように。





「アミュレットの力で再び人の姿に戻るか」



 男が、剣を払う。その様子を見て、ロナが戸惑ったように口を開いた。


「な、なんなの……? 魔王は人だったの……?」


「アレは……勇者と呼ばれた者。異世界の勇者……それが魔王デスタロウズの正体です」



 レウスが拳を握りしめる。



「勇者が魔王やってるって何よ……?」

「なぜそんなことをしているのでありますか……」


「アレはもう成れの果てです。異世界を救った勇者は、世界から追放され永劫の時を彷徨った。その時にこの世界を見つけたのです」



「そんなことどうでもいいだろ」


 ジェラルドがロナを抱き起こす。


「ヤツはこの世界を狙ってる。ロナを奪おうとしている。それだけで戦う理由は充分じゃねぇか」



 ジェラルドの視線の先。その先で男……デスタロウズは殺意の籠った瞳を向けた。



「……貴様達を殺すことに変わりは無い。いくぞ」



―――――――――――

 あとがき。


魔王デスタロウズ最終形態。「勇者の姿」が現れた……次回、魔王戦決着です。

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