第105話 魔王

「魔王!!」


 ロナが剣を構え、デスタロウズの元へと飛び込む。


武装召喚ヴォイド・ウェポン


 魔法名を告げると、魔王の元に燃え盛る炎の剣──「魔剣フレイブランド」が現れる。


「うおおおお!!」


 ルミノスソードを叩き付けるロナ。その一撃を魔王が剣で受け止める。


「やはりゲイル族の身体強化能力は優秀だな。良き器に成長した」


「……僕を物みたいに言うな!!」


 怒りを込めたロナが魔王の剣を弾く。魔王に生まれた隙。そこを突き、技を放つ。


「クロスラッシュ!!」


 魔王が距離を取ろうと大地を蹴る。



 その後方に、ジェラルドが待ち構えていた。


「ガルスソード!!」


 ジェラルドが最大威力までチャージされたナイフ、ガルスソードIIIをなげ付ける。それが魔王の肩に突き刺さり・・・・・、魔王の動きが一瞬止まる。


「……ふん。ただのナイフではないか」


 魔王が己の肩からナイフを抜き、地面へと捨てた。


「ブリジット!!」


 ジェラルドの声に合わせるように、魔王の頭上から斧を構えたブリジットが襲いかかる。


頭蓋割ずがいわり!!」


 ブリジットの大斧かギラリと光り、魔王へと叩き付けるられる。


「読みやすい軌道だな」


 刃が当たる寸前、魔王が体を捻り紙一重で攻撃を回避する。


「避けられたであります!? だけどまだ!!」


ブリジットの意思に呼応するように魔導騎士達が魔王の脚へと組み付く。


「ギギギ!」

「ギッ!!」


「……小賢しい」


「今であります!!」


 斧を叩き付けるブリジット。4方向から剣で技を放つ魔導騎士達。


 その刃が魔王を捉え──。



「効かぬ」



 そう言った直後。魔王の体が霧のように・・・・・掻き消え・・・・、全ての攻撃がすり抜ける。


「なっ!?」


 咄嗟に攻撃を止めるブリジット達。無理矢理動きを抑えたことで、彼女達は大きく体勢を崩してしまう。


 その中心。先ほど魔王が立っていた場所に再び魔王が形作られていく。


「死ね」


 ブリジットへ回転斬りを放つ魔王。


「ギッ!!」

「ギギッ!」


 剣先がブリジットを捉える瞬間、2体の魔導騎士がブリジットを庇うように間に割って入る。


「みんな!?」


 魔王の攻撃が放たれる。その威力は凄まじく、庇った2体の魔導騎士ごとブリジットを吹き飛ばした。


「うあ"あああ!?」


「魔導騎士共か。邪魔だな」


 魔王は、脚に掴みかかっていた2体の魔導騎士を蹴り上げる。


「ギ!?」

「ギァ!?」


 空中に浮かぶ魔導騎士達。魔王、その2体の元へと飛び上がり、技を放った。


獄炎空舞斬ごくえんくうぶざん


 燃え盛る炎に包まれ、高速回転した魔王が魔導騎士を切り裂く。


「ギャッ!?」

「ァア"ァ!?」


 文字通り真っ二つにされた2体は、炎に包まれながら大地へ叩き付けられ動かなくなった。


 直後訪れる轟音。ブリジットが壁に叩き付けられる音。彼女を庇った2体の魔導騎士も、胴体に深い斬撃が残りダラリと崩れ落ちた。


「そんな……」


 バリバリと壁が剥がれ落ち、ブリジットが膝をつく。


「大丈夫か!?」

「ブリジット!!」


 ジェラルドが回復の巻物スクロールをブリジットに放つ。体力は回復したものの、彼女は仲間の魔導騎士達がやられたことにショックを受けているようだった。




 魔王がその手を握り締める。



「残念であったな。アミュレット無力化の符呪エンチャントによって貴様らの策略は失敗した」



「あ、アミュレット無力化の符呪……!? まだ完成していないはず……」


 レウスが声を震わせる。それは仮面越しでも彼が動揺していることを告げていた。


「シリウス。前にも言ったであろう? 我は何者をも信用しておらぬと」



 魔王が魔剣フレイブランドを肩に担ぎ、大地を踏み締める。魔王の周囲に恐るべきプレッシャーを放つオーラが渦巻いた。



「マズイ!! 皆私の後ろへ!!」


 ジェラルドとロナがブリジットと残った2体の魔導騎士を回収してレウスへと走る。


「エオルさん! 防御魔法は!?」


「炎の盾なら出せるわ!」


「それでいい!! 発動して下さい!!」



「……どこまで耐えられるのか。見せて貰うとしよう」



 ジェラルド達がレウスの後ろへ飛び込むと同時に魔王が炎の剣を振り下ろす。



獄炎崩撃斬ごくえんほうげきざん!!」



 魔王が斬撃を放った瞬間。



 その軌道に爆炎が巻き起こる。それはウネリを上げ、部屋中を飲み込みながらレウス達の元へ向かう。



竜嵐魔法ドラゴン・ストーム!!!」



 現れた3体の飛竜がレウス達を守るようにその身を寄せる。



 しかし。



「ギュオオオ"オオオオン!?」



 断末魔を上げながら燃やし尽くされていく。


 「くっ!? 私の竜だけでは防げないか!?」



 燃やし尽くされる竜。それでもなお炎は止められず向かって来る。


炎盾魔法フレイムシルド!!」



 エオルの炎が円盤状に集約され、その炎を受け止める。


「私が魔力の膜を操作してあいつの炎を受け止めるわ!」


 エオルが魔力を操作すると、魔王の炎が炎盾魔法へと吸い込まれていく。しかし、炎の威力に押され、魔力の膜が膨張していく。円盤状の盾は形状が維持できず、歪な形となっていた。


 焦りを抱きながらもジェラルドが周囲を確かめる。


 エオルの力だけじゃ無理だ。俺達に今できる手は……。


 炎盾魔法ごと炎を消すしかねぇ。


「レウス! 重力魔法グラヴィトを最大出力で使え! 炎盾魔法の周囲だけ重力を上に向けろ!!」


「分かりました!!」


「ロナ! ブリジット!! 炎盾魔法の下だ! 床を削り取れ!!」


「分かったよ師匠!」

「やってやるであります!」


 ブリジットが大斧を構え、メキリと大地を踏み締める。


「ロナ殿! 自分に合わせて!」


 ブリジットが大地へと斜めに技を放つ。


断空方撃打だんくうほうげきだ!!」


「エアスラッシュ!!」


 真空の刃と巨大な風の刃が地面を抉り取る。それは空間の一角を支配するほどの床面。それが切り取られた瞬間、レウスが魔法を放つ。



重力魔法グラヴィト!!」



 レウスが手を上げると、抉り出された床面が空へと飛んで行く。その床が、魔王の炎を飲み込んだ炎盾魔法を絡めとり、空へと昇っていく。



 そして、天井を超え、空に浮いた瞬間。


 空中で大爆発が起こった。


 「ふせろ!!」


 ジェラルドの声と共に地面へ倒れ込むパーティメンバー。ジェラルドは、ロナを庇うように抱き寄せるとガントレットから障壁魔法の巻物スクロールが発射する。展開された障壁が、彼らを包み込む。


 上空て巻き起こった爆風は熱風となり、魔王の間を一瞬にして焼き払った。


「きゃあああああ!?」

「や、焼け死ぬでありますぅ!!」



 天を見上げたジェラルドが再び障壁魔法の巻物スクロールを発動させる。二重になった障壁魔法が、熱風から彼らを守った。


 障壁を挟んだ向こう側で巻き起こる炎を見ながらジェラルドが思考する。



 アミュレット無効化だと? ふざけやがって……あんなのじゃ、もう一度アミュレットの光を当てることもできねぇぞ……。



「無駄だ。その攻撃に耐えられようとも、お前達が我を捉えることはできぬ。諦めよ」



 炎の向こうから魔王の声が聞こえる。


 圧倒的な攻撃力を誇る魔王。こちらの攻撃は一切通らない魔王。



 クソ。どうすれば……。



 ジェラルドが絶望に囚われそうになる。



 その時。



 ジェラルドの脳裏に何故かガルスマンの言葉が蘇った。



 それはロナ達がザヴィガルに捕らえられた時。ガルスマンにガルスソードⅢを作って貰った時の言葉が。



 ──弱いお前が持ち得る力はそのオツムと道具だけじゃろ。それを忘れおって馬鹿者が……っ!?



 ……。



 そうだぜ。諦めの悪さとずる賢さが俺の武器じゃねぇか!

 


 こんな所で絶対に諦めるんじゃねぇ!


 

 そうじゃなきゃガルスソードを作ってくれたあのじいさんにも……っ!



 ……。



 ガルスソード……Ⅲ?



 待てよ……。



 ジェラルドの頭が急激に回転していく。



 オレのガルスソードⅢ……ナイフはあの魔王に確かに刺さったよな? それに、ヤツの脚を押さえにかかった魔導騎士達も……。



 なんだ? 何か共通点が……。



「レウス。お前、アミュレット無効化の符呪エンチャントは未完成だって言ったよな?」


「え、ええ……そうです」



 ……そうだ。無効化符呪が完成していたならロナを狙う必要も無いはずだ。



 ……。



 なるほどな。あの魔王の言葉はハッタリって訳かよ。



「……いけるぜ。ヤツにアミュレットの光は効いてる」


「それって、攻撃が当てられるってこと?」


「そうだぜロナ。みんな聞け! ヤツには2回物理的接触があった、俺の攻撃と、魔導騎士達。それから考えられるの魔王の弱点は……」


「弱点は……? 早く言いなさいよ!」

「教えて欲しいであります!」



 ジェラルドが障壁の奥を見つめる。消えかかった炎の奥で、魔王は真っ直ぐジェラルド達を見つめていた。



「意識外の攻撃だ。ヤツにアミュレットの光は効いていた。未完成の符呪によっては光は防ぎ切れなかったんだ。意識外の攻撃なら通る。当然も」


「じゃあ……ヤツの隙を突いてもう一度光を当てれば……」



 ロナの言葉にジェラルドはニヤリと笑った。



「倒せるぜ。あの魔王をな」



―――――――――――

 あとがき。


 一筋の光明を見つけたジェラルド。次回。彼らの反撃が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る