最終決戦編

第102話 魔王城突入

 イリスの襲撃を防いでから半日後。


 ——魔王城。


 城内では魔族達が混乱したように駆けずり回っていた。


「魔導騎士が暴走してるぞ!!」


「ギギ!!」

「ギギギィ!!」


「な、なぜ魔王城の魔導騎士が……グアアアアッ!?」


 大量の魔導騎士達が魔王城の廊下を進む。それを止めようと立ちはだかった魔族が倒されていく。しかし、その数はまばら。突然の攻撃に統制を立て直すこともできない魔族達。そんな彼らが決して怯まない魔導騎士達を迎え撃つことはできない。結局、魔族達は戦力の集約もできず数だけを減らしていくのみだった。


 倒される魔族達は皆同様に困惑の表情を浮かべた。


 それは王都を攻めているはずの自分達がなぜ攻撃を受けているのかという疑問。魔王軍知将である1レウスシリウスが手引きをしていることを知らない彼らにとって無理のないものであった。


「さすが仲間達であります」


 ブリジットが魔導騎士操作の光を放つ魔導書をその鎧の中にしまう。彼女の鎧の継ぎ目から、青い光がうっすらと光る。


「ジブンの意思に仲間達が反応してくれるであります」


「ホントだな。遠隔自動操作もできるみてぇだが……近くの数体はブリジットを囲むように動いてやがる」


「すごいよね。みんなブリジットの事を守ってるみたい」


 ロナがその目を丸くさせる。その隣で、エオルが腕を組んだ。


「もしかしたら、ブリジットは本来この為に生まれたのかもね。魔導騎士達を統率し、正しく導く為に」


「きっとそうであります。マスターなら……」


 ブリジットが両眼の光をウルウルと滲ませる。自分に意思がある意味。何百年も時間が経って初めて自分の存在理由を定義した瞬間であった。彼女が思う生みの親、マスターの想いを。

  


 ……。



 ジェラルド達は魔導兵士達に導かれるように魔王城の中を進み、魔王の間目前へやって来た。


 レウスが仮面のズレを直す。そして、廊下の角から奥を覗き見ると、ジェラルド達を呼んだ。


「この奥に魔王の間があります。みなさん戦闘準備を」


 ジェラルドが装備を確認する。


 ガルスソードはⅢのナイフ1本の消費で乗り越えた。魔法の巻物スクロールの数も十分。


「お前ら全員これを飲んどけ」


「うぇ!? そのポーション飲むわけ!?」


 エオルが露骨に嫌そうな顔をする。


「味のこと言ってる場合じゃねぇだろ。これから魔王戦だぞ」


「し、仕方ないわねぇ……」

「僕はこの味嫌いじゃないけどなぁ」

「ジブンもでありますか!?」

「はぁ……仕方ありませんね……」


 仲間達が攻撃、防御、素早さ、回避上昇ポーションを飲む姿を見ながら、ジェラルドもポーションを一気に飲み干す。すると、全員の体に上昇効果を表す光がポワリと光った。


 これで最終準備はよし。それに……。


 ジェラルドがドラゴンメイルの腰アーマーを触ると、腰のアーマーがバカリと開く。その中には魔法の巻物スクロール。しかし、他の巻物スクロールとは違い、それは淡く「紫の光」を帯びていた。


 俺の切り札。これがあれば……。


 ジェラルドは、レウスをチラリと見てから全員に言った。


「ブリジット、数体の魔導騎士以外はこの通路を守らせろ。誰にも侵入を許すな」


「了解であります! みんな頼むであります!」


 ブリジットの鎧から青い光が漏れると、100体近い魔導騎士達が廊下に整列する。そして、扉を守るように武器を構える。


「ギギ」


 6体の魔導騎士がブリジットに駆け寄る。


「君達はジブンと来てくれるでありますか?」


「ギ!」


 騎士達が肯定するように敬礼する。


「……ありがとうであります」


「よし! 魔王の前に最後に1つ障壁がある。みんな……信じてるぜ」


「ふふ。そんな奴ぶっ倒してやるわよ」

「分かってるであります!」


 気合いをエオル達。ジェラルドは彼女達に気付かれないようロナとレウスを見た。



◇◇◇


 ——魔王の間。


「魔王!!」


 ロナが扉を蹴破り、全員が魔王の間へと突入する。


 ジェラルド、エオル、レウス、ブリジットは6体の魔導騎士を連れて。


 真っ暗な部屋。扉が閉じると青い炎が灯り、広大な空間がジェラルド達の目の前に広がった。



 ここは本編通りの演出だな。なら……やっぱアレ・・も出るはずだ。



 暗闇の中に声が響く。それが魔王の声であることをジェラルドはすぐに認識した。



竜嵐魔法ドラゴン・ストーム



 告げられる魔法名。それと共に、暗闇の中に禍々しい魔力が渦巻いた。


 魔王の魔力。それにより竜が形作られていく。顔、翼、四肢……やがてそれは、空間を埋め尽くすほどの巨大な竜へと変貌した。


 それは強靭な腕で壁を掴むと、一気に実体化した。



「グルオォォォォォォォンン!!!」



「これが……ジェラルドの言ってた……」



 あまりの大きさにエオルが絶句する。



「あぁ。魔王の門番『魔神竜』だ」


「私に手に入れされた竜嵐魔法で……このような魔物を作り出すとは」



 見上げるレウスの目の前で、魔神竜が暴れ回る。強靭な強度を誇る魔王城の壁面をしてなお、その爪によって深く傷が刻み込まれた。



「グルオアアアアアア!!!」


 


 ラスボス戦前の最後のボス戦。コイツを倒さねえとまずは話にならねぇぜ。


「よし! ロナは俺と来い! エオルは最大魔法の準備! ブリジットは魔導騎士と共に脚を狙え! それと……レウス!」


「分かっています。私にも竜嵐魔法ドラゴン・ストームを使えと言うのでしょう?」


「ああ。お前使えるって言ってたからな! 竜達で援護たのむ!」


「分かりました」



 レウスが両手を開くと、その全身に魔力が渦巻いていく。



「発動まで数秒時間を下さい」



「よし! 行くぜみんな!!」



「グルオオオオオオォォォ!!」



 ジェラルド達は一斉に魔神竜へと駆け出した。



―――――――――――

 あとがき。


 魔王戦前の最後のボス、魔神竜。次回ボス戦です。

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