第95話 決戦前夜。

 ジェラルドとロナが王へ謁見えっけんしてから4日。


 ジェラルド達は残り日数を可能な限り戦闘準備に当てた。ロナとブリジットは王都周辺のモンスターをひたすら狩りながらの戦闘訓練。ジェラルドとエオルはアイテムを片っ端からかき集めた。


 王都エメラルダスの宿屋。夕日が差し込むその一室ではジェラルド達が話合っていた。レウスから再度の連絡があったのだ。


 明朝、魔王軍の攻撃が開始されると。



「回復の巻物スクロールは全員持ったな? エオル。魔力回復薬の数は?」


「私が5。残りはブリジットに持って貰うわ」


「自分の中に消費アイテムはたんまり入っているであります。何かあったら言ってほしいでありますよ」


 ブリジットがヘルムをガパリと開けると、中には小袋に入ったアイテムが入っていた。それぞれの袋には何の種類のアイテムかが描かれた袋が。


「ブリジット。お前の仲間達と戦うことになるが……覚悟はしておけよ」


「……分かっているであります。もう昔のような戦争なんてしていない。絶対に仲間達に人殺しなんてさせたくないでありますからな。きっと仲間達も……」


 俯くブリジットの肩にロナはそっと手を置いた。


「もう殺したくないって思ってる……よね」


「仲間達にジブンのような意思はないでありますが、きっと……そう思っているはず」


「うん。絶対守って、また明るい街にしよう」


 ロナが窓の外を眺めた先には、王都の美しい街並みがあった。しかし、そこに以前のような活気は無い。民は皆、襲撃に備えて中心部へと避難し兵士たちだけが慌ただしく戦いの準備をしていた。


 ロナは再び仲間達の顔を真っ直ぐ見つめた。


「イリスは僕が倒す。絶対に」


 その弟子の瞳。強い意志を込められたロナの目を見てジェラルドが頷く。


「そういえば魔法学院から持ってきた空の巻物スクロールはどうするのよ? そんな物持ってたってしょうがないじゃない」


 空の巻物スクロール。それはジェラルドの使う魔法の巻物スクロールの元になる素材。そのスクロールに魔法を込めることで、消耗品として魔法を使用できる物であった。


「あれはこの先必要になる」


「ふぅん……アンタのことだから何か考えがあるんだと思うけど」


 不満気な顔をしたエオルだったが、彼女が尋ねる前にロナが口を開いた。


「レウスさんは?」


「レウスはギリギリまで情報収集するそうだ。ヤツが合流次第作戦を話す」


「ジブン達の仲間を手に入れるでありますな!」


「ああ」



 魔導騎士達は魔王城突入の際に俺達が消耗しないために必要……なんとしても手に入れる。



「俺はアイテムで援護する。いいか? お前達が経験したことのない大規模な戦闘になる。必ず仲間の位置は意識の隅に置いておけ」


 ジェラルドが皆を見る。


「悪いなみんな。俺のガルスソードは魔王戦まで極力温存したい。イリスとの戦い……メインは任せちまうことになるが最大限のことはするからよ」



「大丈夫だよ。師匠には師匠の役割があるから……だよね? 絶対勝つから」


「そうね。まずはイリスに勝つ! それから魔王戦よ!」


「やってやるであります!」

 


「よっしゃ! 勝って、絶対終わらせようぜ!」




◇◇◇


 その日の深夜。ロナが様子を伺いに部屋の外へと出ると、ジェラルドの部屋に灯りがついていることに気がついた。近づいて見ると中から話し声が聞こえた。微かに聞こえるエオルとジェラルドの声。その声の雰囲気からエオルが怒っていることだけは分かった。



「そうやって全部背負うつもり!? 私のこともっと頼りなさいよ!」


「……頼りにしてるぜ。だから……ねぇんだ」



 うまく聞こえない。ただ、ジェラルドが何かを隠していることだけは理解できた。



「分からないわよ! アンタの考えてること!」


「お前達はイリスと魔王を倒すことに集中してくれ。俺は俺の役目がある。ロナもそう言ってたろ?」


「……分かったわよ。やるからには完璧にやってみせる。見てなさいよね」


「おう」


 エオルの足音が聞こえる。咄嗟に身を隠すロナ。彼女はエオルが自室に戻ったのを確認してから、恐る恐るジェラルドの部屋の扉を開けた。


「師匠」


「どうした? 眠れないのか?」


「今、エオルと話してるの聞こえちゃって」


「……別に喧嘩とかじゃないからよ。気にすんな」


「う、うん」


 聞いていいか迷うロナ。そんな彼女に、ジェラルドは優しく声をかけた。


「こっちに来な」


「……」


 ロナがジェラルドの隣にちょこんと座る。


「ロナはドロシーのこと、どう思う?」


「ドロシー?」


「ああ。今どう思っているか聞かせてくれ」


「僕は……ドロシーを助けたい。だって、僕の命はドロシーから貰った物だから……何かしてあげたいんだ。師匠はドロシーの分まで生きろって言ったけど……」


「……そうか。なおさら魔王を倒さねぇとな」


「うん」



「……」

「……」



「ロナ、俺がサザンファムで言ったこと覚えてるか?」


「え?」


 ロナの頬が赤くなる。


「お、覚えてるよ。魔王を倒しても一緒にいるって」


「今の俺はその為に戦ってる。ザヴィガルにお前達が囚われた時も、お前のことだけを考えた。そうするとな、不思議と自分が死ぬことなんて怖くなかった」


「師匠……」


「俺はお前のその先が見たい。魔王を倒して、平和になって……ロナが大人になってよ。その時に好きな奴ができたなら送り出す。俺は、そうしたい」


「そんなことになんかならないもん!!」


 ロナがジェラルドに抱きついた。ジェラルドは苦笑して、そんな彼女を抱きしめる。


「ははっ。悪かったって。お前がそう思うならそれでもいいさ。ただよ……」


 ジェラルドの隻眼がロナを見つめた。


「俺がそうやって思ってることだけは分かっといてくれ。きっとエオルもブリジットも同じ気持ちだ」


「ううん? どういうこと?」



「迷いそうになったら思い出してくれってことさ」



 ジェラルドは、少女の頭にポンと手を置く。



「ロナ。今からお前だけに魔王と戦う時の秘策を伝えるぜ──」



―――――――――――

 あとがき。


 次回から大規模戦です。ご期待下さい。

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