第96話 開戦
魔王軍による王都エメラルダスの攻撃作戦当日。
——魔導列車ホーム。
そこにはジェラルド達の姿があった。最後の準備を終え、レウスも合流した彼らが。
「ジェラルド様。アルバート・モルダー以下80名。配置に着きました」
「ありがとな。イリスや魔道騎士達には絶対に手を出さないでくれ。アンタ達には手に負えないからな」
「はっ。自分達は魔族共へ対処致します」
大臣パトリックの計らいで、ホームにはエメラルダス兵士が配置されていた。80名。イリスの部隊に対して決して多いとは言えなかったが、エメラルダスなりの精一杯の援護の形であった。
ジェラルドが見渡すと、騎士だけでなく魔導士達までバランス良く配置されている。
回復魔道士もいるな。王達は「僅かだが」と言ってたが、心強いぜ。
「アルバートさん。すまないが俺の指示が届かない所は任せてもいいか?」
「もちろん。それが私の役目ですから」
アルバートは剣を構えると、己の部隊へと戻って行った。
……。
仮面をつけたレウスが東を見る。
「まもなく魔導列車がやってきます。皆さん覚悟は決まっておりますか?」
「ああ。お前も頼りにしてるぜ。レウス」
「……必ず倒しましょう。イリスを。そして魔王を」
レウスの言葉に頷いたジェラルドは、ロナ達へと向き直った。
「レウスは俺との約束を果たしてイリスの動きを伝えてくれた。今この瞬間からレウスは魔王討伐を目指す仲間だ。信用できることは
「ジェラルドがそこまで言うなら……信用するわ」
「背中を預けるであります!」
ロナが、レウスに手を差し出す。
「レウスさん。必ずドロシーの魂を救い出そう。魔王を、一緒に倒そう」
差し出された手を見つめるレウス。彼はふっと笑うとその手を握った。
「ありがとう……ロナさん」
その後、パーティメンバーはイリスとの戦闘時の最終確認をし、持ち場へと着いた。
◇◇◇
ジェラルドとエオルが持ち場へと着く。ホーム中央、全体を見渡すことができ、声を張れば仲間に指示ができる場所に。
魔導列車のホームでは静けさが支配していた。明け方の鳥の泣き声だけが響くホームで、エオルがポツリと呟く。
「冷えるわね……」
「もっと厚着してくりゃ良かったじゃねぇか」
「戦闘が始まったらちょうどいいの。私は炎使いなんだから」
エオルが杖を握る。彼女は、線路を見つめながら口を開く。
「ね、ねえジェラルド? 昨日は、その、ごめん……」
「なんで謝るんだよ?」
「だって、このまま最終決戦に入ったらゆっくり話す暇もないと思って」
「そうだな……何も言ってやれなくてすまん。ただ、魔王を倒す為には絶対に必要なことなんだ。だからオレは何も言わねぇ」
「……ふふ。『言えない』じゃなくて『言わない』ね。そう言うところジェラルドらしいと思うわ」
「……そうかもしれねぇな」
エオルが、ジェラルドの背中に額をつける。
「ねぇ。私……アンタのこと好きなの」
「何だよいきなり」
「アンタのおかげで私は自分を許せた。アンタが本当は弱いって教えてくれた時嬉しかった。私と同じだって……」
「俺は」
「待って。言わなくていい。私はジェラルドとロナが仲良くしているところを見るのも同じくらい好き。あの子を泣かせたくない。だから別にどうなりたいとか無いわ。だから私は仲間を全力で守る。それだけ」
「……ありがとな、エオル」
ジェラルドの背中から離れるとエオルがニッと笑う。
「任せておきなさい。ロナも、ブリジットも……レウスも絶対守ってみせるから」
その時。
静寂の中に音が聞こえた。はるか遠くから聞こえる小さな音。しかし、そのガタガタと言う音は、魔導列車が確実にこちらへと向かっていることを告げていた。
「来たぜ。光将様の部隊が」
「私の出番ね」
エオルがホームに向かって叫ぶ。
「今から魔法を使うわ!! みんな下がって!」
エオルが杖を構える。そして、ホームに向かって「
「魔力を流すわ。ジェラルド。合図をお願い」
「分かったぜ」
ジェラルドの両腕のガントレットがバカリと開く。その中には装填された
草原に真っ直ぐ伸びる線路。その水平線の先に魔導列車の先頭車両が見えた。
「未だエオル!」
ジェラルドの声に合わせ、エオルが回転する炎の輪に魔力を流し込む。すると、竜巻が魔力渦巻く竜巻が現れた。
「レウス!
コクリと頷いたレウスが魔法を使い竜巻を発生させる。
ホームに現れた2つの竜巻、それにエオルが魔力を流し込む。
それとほぼ同時に魔導列車がホームへと突入した。
魔導列車内部よりモンスター「魔族の隊長」が現れる。
「尖兵どもは私に続け! イリス様と魔導騎士達の道を作るぞ!」
大量に溢れだす魔族の尖兵達。彼らがホームへと足をつけたその時。
エオルが魔法名を告げた。
「
直後。2つの竜巻が一気に燃え上がる。
魔導列車ホームに炎の竜巻が巻き起こった。
「な、何だこれは……!?」
「グアああああああああ!?」
「の、飲みこま……っ!?」
「ああアアアア!?」
大量の尖兵達が炎の渦に飲み込まれていく。
「貴様らぁ……っ!?」
魔族の隊長が魔導列車をガンッと叩き付ける。
「残っている尖兵は隊列を整えろ! イリス様に恥をかかせるなぁ!!」
魔導列車から大量の魔族の兵士達が現れる。それは、勇者パーティが見たことのない程の敵の数……それは、この戦いが戦争なのだと告げているようだった。
「さぁ……こっからが本番だぜ」
ジェラルドの隻眼がギラリと光を放った。
―――――――――――
あとがき。
始まってしまった王都への攻撃。次回からの戦いをお見逃しなく。
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