シリウスの過去編エピローグ

第86話 最弱。バレる。

 ゲイル族の里を出て数日。エオルの申し出によりギギン地方を王都エメラルダスへと向かうジェラルド達。敵の弱いこの地方で、彼らはとにかく戦闘の数をこなした。


 レベル上げというよりは、戦闘の勘を忘れぬようにする為に。


「はぁっ!!」


「キャインッ!?」


 ロナが狼種のモンスター、「パックウルフ」を切り裂いた。


「ありゃ? 一瞬で消えちゃった」


 ブンブンとルミノスソードを振るうロナ。これで15体目。群れていたパックウルフを退治していた。


「すごいであります!ロナ殿1人で余裕であります!」

「私達が出なくても良さそうね」


 ロナの戦いを見つめるエオルとブリジット。2人は木に寄りかかって戦闘を見つめる。


「お前らも戦闘に参加しねぇとコンビネーションの訓練になんねぇだろ」


「でもジェラルド殿? ここの敵弱すぎて3人で戦うまでもないでありますよ〜」


「でもじゃねぇ。ブリジットはロナのサポート。エオルは他のパックウルフを範囲魔法で焼き払え」


「分かったでありますよ〜」

「分かったわよ〜」


 渋々走って行く2人。そんな様子を見ながら、ジェラルドはゲイル族の里のことを思い返していた。


 

 レウスの話だと、魔王はロナが器だと気付いている。もし負けるようなことがあればドロシーの二の舞になる。やはり魔王を倒すしか、真エンドしか道はねぇ。


 だが、レウスが本当に信用できるのか? ヤツの行動理由は本当にドロシーの魂を救うことなのか?


 だけどなぁ。ヤツが嘘を言っていたようには見えなかった。


 ジェラルドは嘘を武器にする。口とハッタリを使い今までも窮地を乗り越えて来た。だからこそ、レウスの言っていたことが嘘でないと感じ、レウスの申し出を受けたのだ。ただ、それがジェラルドを悩ませた。レウスの行動理由にまだ何かあるような気がして。


 悩んでいると、ふとロナの姿が目に入った。自分が真エンドを目指すための大切な存在。絶対に・・・死なせたくない・・・・・・・少女の姿を。


 死なせたくない、か。レウスも俺と同じ気持ちだったのかも知れねぇな。それだけドロシーのことを……。



 ……。



 待てよ。俺ならどうする? もし、ロナが死んでしまったら……。



 ……。



 まさか。



 ジェラルドが物思いにふけっていた時。



 突然、ロナの声が聞こえた。



「師匠!? 後ろ!!」



「ん?」



 後ろ?



 焦ったようなその声に後ろを振り向くと……。



「ギャアウッ!!」


「うおおおおおお!?」


 背後から襲いかかるパックウルフ。その爪がジェラルドの顔をひっかいた。



「いってえええええっ!?」



 咄嗟にジェラルドがガルスソードを抜こうとする。



 あ!? 全然逃走回数チャージしてなかったぜ!?



「ギャギャギャウゥゥゥ!!」



 再び襲いかかるパックウルフ。ジェラルドはガルスソードIIIのナイフをパックウルフに投げ付け、その動きを防いだ。



「ギャッ!」



「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」



 ジェラルドはガルスソードⅠを抜きメッタメタにパックウルフを斬りまくった。


「キャウゥゥゥン…………っ!」


 何十発目の攻撃でボコボコになったパックウルフは声と共に光になった。



「はぁ……はぁ……っ! っぶねぇ〜!! こんなとこで死ぬなんてマジで笑えねぇぞ……」



 肩で息をするジェラルド。後ろから視線を感じ、振り返るとそこには困惑したロナ達の顔が。



「師匠……? なんでその狼に……必死に?」



 あ、やっちまった。



 低レベルモンスターとジェラルドの必死の戦いは仲間達にしっかりと見られていた。



 言うしか、ねぇか……。



◇◇◇


「……ということだ。すまん! 今まで俺は強いフリをしてたんだ!」


 ジェラルドは仲間達へと説明した。己のレベルが上がらないことを。己の死を回避する為にロナや、エオル達を育てていたことを。


「だからよ。俺はヴァルガンを倒す為にお前達を……本当にすまん!」


 ジェラルドは焦っていた。これでもしロナ達に愛想を尽かされたら、真エンドへと辿り着けないと。


 ロナを助けることはできないと。



「すまん! だが、俺が今まで伝えて来たことに嘘はねぇ! それだけは信じてくれ!」



 ジェラルドは必死に頭を下げた。



 しかし。



 ジェラルドの想像とは裏腹に、返って来た言葉は明るいものだった。



「すごい……っ!」



「は?」



 目を輝かせるロナ。その理由が分からずジェラルドは困惑した。


「な、なんですごいんだよ? 俺は弱くて……」


「よく分からないけど、師匠はずっと死と隣り合わせの中戦ってたってことでしょ!? すごいなぁ……やっぱり師匠は伝説の戦士だったんだ……」


 ロナの尊敬の眼差しが強くなる。ジェラルドは困惑したままエオル達を見た。


「いや、俺はレベルが……」


「そもそも『レベル』ってなんでありますか?」

「聞いたこともないわよねぇ?」


「へ?」


 いやだってお前ら……レベルが……。



 ……。



 あ!!



 この世界はゲームみたいにレベルの概念が言語化されてねぇんだ!!



 そういや今まで一度もロナ達が「レベル」なんて言ったことなかったよな……。


「でもジブンはジェラルド殿の機転と指導力を信頼しているであります!」


 ブリジットがジェラルドの手を取りブンブンと振る。


「いででで!!」


「まぁ……私も火炎魔法フレイムしか使えないし人のこと、言えないし……逆に、アンタがそうでちょっと安心したっていうか……」


 エオルは恥ずかしそうに顔を背けた。


 そ、そうか。原作知識だけじゃなくて、この世界ではレベルの概念で相手の強さを測れるのって、すげぇ能力だったのかも……。


 今更ながらにジェラルドは自分へ関心した。


 そうか。そうだよな。現実世界で考えりゃ普通一撃で死ぬみたいなもんだ。そんなの誰だって同じだよなぁ?



 ジェラルドは己の「最弱」がバレてなお自信に繋げた。




「でもさ、師匠?」



「ん?」



「そんな中てもさ……僕達のこと必死に助けようとしてくれたり、すっごく嬉しいよ?」


 顔を赤らめたロナ。そんな彼女を見てジェラルドはふっと笑った。



 ……。



 何だよ。



 俺はもう「それ」を持ってたのかもしれねぇな。



「まぁ、改めて頼むぜ。魔王は絶対倒す。俺とお前らならできるさ」



「うん!」

「そうでありますな!」

「頼りにしてるわよ?」



 彼を信頼する仲間達の瞳……その日、ジェラルドは何も失わなかった。



 それは彼が今日まで積み上げて来たものが、彼の力量より遥かに大きいから。



 ジェラルドは気付いていなかったが、それは紛れもない事実であった。




―――――――――――

 あとがき。


 次回より新章。エオルの活躍をお見逃しなく!

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